16-2 氷の管理者
しばらく沈黙が続いたあと『テッセン』意を決したようにコストマリーが声を掛ける。『ラディウス・ソリッシュを知ってるわよね?』
『もちろんじゃ。精霊界で知らんものはおらん』
『あのね。ロイが持ってるこのけ……そうだ、短剣の大きさになって、内ポケットに入ってるんだ』
『今は、彼の防寒具の内ポケットに入ってるわからないけど、彼が尋ね人で、彼女がラディウス・ソリッシュの守護精霊なのよ』
『なんじゃと!』
『そして、尋ね人と一緒に氷漬けになってる彼が鏡の泉の門のキーマンで、私が鍵の守護獣なの』
『何じゃって? アッ、じゃからあんたがここにいるんじゃな。そうか。そういうことか』テッセンはロイを見ると『この若者が尋ね人』そしてシュールを見ると『お嬢ちゃんがラディウス・ソリッシュの守護精霊か』
次にマーティを見ると『この若者が鏡の泉の門のキーマンで、あんたが鍵の守護獣』コストマリーを見る。
『彼らをここに閉じ込めておくということは、ラディウス・ソリッシュも尋ね人も、鏡の泉の門のキーマンもここに閉じ込めておく、ということになるのよ』
『確かにそうなるのう。その若者が、本当にラディウス・ソリッシュの尋ね人じゃったらな』
『そうね。言っただけで信じてもらうには、事が大きすぎるわ』コストマリーはため息を吐くと『仕方ないわね。あとで剣を見せるわ。それで納得してもらえるでしょう』
『お爺さん、お願い!』再度シュールが頼むと『そう言われても、決まりを破ればわしもお咎めを受けなければならんし』また困った顔をするので『お咎めは彼らに受けてもらうわ』
(コストマリー! お咎めがどんなものか先に聞け!)指先の感覚がなくなってきたので焦りだすロイは、怒鳴りたい衝動に駆られていた。
『尋ね人やキーマンにお咎めを受けさせるのかね?』
『忠告を守れなかった分のお咎めは受けなければならないわ』
『それはそうじゃが、わしのお咎めは別の話じゃよ』
『まとめて受けてもらうわ』
(コストマリー! 断りもなく、どこまでお咎めの内容を厳しくするんだ!)眉間のしわが深くなるマーティ。
『わかった。もしその若者が本当に尋ね人じゃったら、ここで歩みを止めるわけにいかんからな。ほれ、少し後ろに下がっていなさい』シュールたちに退くよう言うと、氷漬けのロイたちのほうを向く。
(意識がもうろうとしてきた。このままだと仮死状態になるぞ)ロイの意識が少しずつ遠のいていく。
テッセンはベルトに挟んでおいた杖を手にすると前にだし、呪文のようなものを唱えはじめると少しして氷がビシビシと音をたて、それが広がっていくと、バリンと音を立てて粉々になる。
やっと解放されたロイとマーティはその場から動けず、うずくまった。
『ロイ! 大丈夫?』シュールが駆け寄ると「指の感覚がない」両手を見るので慌てて手袋を外し、冷たくなった指を擦る。
一方、コストマリーは頭を押さえるマーティのそばに行き『大丈夫?』声を掛けると「頭がボーッとして、視線が定まらない」
『体が冷えて、感覚がマヒしきてるのよ』
『ほれ、こっちに来なさい。温かいスープをやろう』テッセンが氷漬けになった人間の間を通っていくので、ロイとマーティはシュールとコストマリーに支えられて立ち上がると、あとを追った。




