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ラディウスソリッシュ ~古代神の聖剣~  作者: 夏八木 瀬莉乃
第四章 「第二の門 / 氷の炎の門」
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16-1 氷の管理者

 

 氷漬けになったロイとマーティは、氷でできた細長いトンネルを、ものすごい勢いで滑り落ちていた。


(一体、どこまで落ちるんだ?)氷漬けになったといってもまだ意識はある。(真っ暗で何も見えない)と思ったとき、急に周りが明るくなった。どこかの部屋に出たらしい。


 滑り落ちてきたので仰向(あおむ)けの状態で止まったが、あとから来たマーティの氷が当たって横向きになったので、見える範囲で部屋の中を確認する。


(氷がデコボコしてるせいで(ゆが)んで見えるから、今ひとつわからないな)


 目を()らして注意深く見ていると、突然、目の前に二つの物体が現れた。


 その物体は動いているらしくユラユラと()れていて、近くに来ると(シュール!)


『どうやら、まだ意識はありそうね』コストマリーの声が聞こえてくる。


 彼女はマーティにも声を掛け、意識があることを確認した。


『コストマリー、ここはどこなの?』シュールが部屋の中を見回すと『決まりを(やぶ)って、氷漬けになった人間の収容部屋らしいわね』


 その部屋には、氷漬けになった人間が標本のように並び、その中に測量計を持った人がいて、彼の周りに同じ服を着た人達がかたまって立っている。


『何かの調査にきた人間らしいわね』


『アニスが言ってた、門を壊した研究チームの人間かもしれない。こんな所にいたんだ。誰も行方を知らないはずだよ』


『門を壊したの? 一体、彼らは何者かしら? ここの事を詳しく知ってる人間はいないはずよ』彼らの持ち物などを見て回るが、身元が分かるようなものが見当たらないため『怪しいわね。彼らは当分ここにいるでしょうから、彼らの服装や持ち物を覚えておきましょう』


 ロイたちのところへ戻ると、シュールが『どうするの?』コストマリーに聞く。


『もうすぐ交渉相手が来るわ』

『どうしてそんな事がわかるの?』


『それは、氷漬けになった人間がきれいに並べられてるからよ。これは、落ちてきた人間を誰かが整理してるからだわ』


『でも、すぐに来るかわからないでしょう?』


『わかるわよ。天井にあいてる穴の出口を見て。大きさの違うベルが取り付けられてるでしょう。あれは、氷が落ちてきたら鳴るように仕掛けられてるのよ』


『あとから落ちてきた氷が先に落ちてきた氷を壊しちゃって、助かった人間があとから落ちてきた氷を割って逃げ出しちゃうかもしれないから?』


『それはないわ。現に彼らの氷が割れずにあるように、ここの氷は強化ガラスのように(かた)いのよ』と話している間にどこかのドアが開く音がした。


『誰か来るよ』

『大丈夫。交渉相手よ』


 少しすると、氷漬けになった人間が並べられている間から小柄な老人が現れ、シュールたちに気付くと『(こお)っておらんのに、なぜここにおるんじゃ? ここは、決まりを(やぶ)った者だけが来るところじゃぞ』


『私たち、この二人を助けに来たの』シュールが氷漬けになっている二人を指すと『ホウ、この二人をか』足元に転がっている氷を見下ろす。


『お(じい)さんは、ここの仕掛けを管理してるんでしょう?』


『なんじゃと!』シュールの言葉に『なぜその事を知っとるんじゃ?』警戒する目付きをするので『それは……』コストマリーを見ると『あなた、氷の使い者、ウティ グラシエイね?』


『なんじゃって? ン? ちょっと待て。その角、それに、シルバーバイオレットの瞳。そうか。あんたは鏡の泉の門の守護獣じゃな』正体がわかるとシュールを見て『その青紫の瞳、お嬢ちゃんは守護精霊か。じゃからわしのことを知っとったのか。わしはテッセンじゃ』


『私はコストマリー。彼女はシュールよ』


『お(じい)さんお願い。二人を助けて』シュールが再度頼むと『それは無理じゃ』すぐに答える。『どうして? お爺さんなら、この氷を(とか)かすことができるんでしょう?』


『もちろんできるが、ある方の許可がないと、やってはいけないことになっとるんじゃよ』

『ある方って、水龍のこと?』

『そうじゃ』


『じゃあ、水龍には私から話しておくから、二人を助けて』

『そう言われてものお。この二人は決まりを(やぶ)ったんじゃから、罰を受けねばならん』


『罰ってどんなことするの?』

『水龍のお許しが出るまで、ここで氷漬けになっとることじゃよ』


(それは絶対阻止(そし)してくれ! こんな所で冬眠してる時間はないんだ!)心の中で叫ぶロイ。


 氷が厚いのでシュールたちの声が小さく聞こえるが、何とか内容を聞き取ることができる。


(シュール、頑張(がんば)れ!)抗議(こうぎ)できないロイが、さらに心の中で叫ぶ。



『どのくらい待てばいいの?』

『そうさのう。十年か二十年か』


(それは待つとは言わない!)怒りが込み上げてくるマーティ。(あんな不意打ちのような仕掛けに引っ掛かったからといって、十年以上待たなければならないのは理不尽だろう!)動けないもどかしさでさらに苛立つ。


『それじゃ困るの! お願い! 今回だけは助けて!』

『そう言われてものう』困った顔をするテッセン。


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