15 水龍の逆鱗
その扉を開けて中を覗くと、今いる部屋の半分くらいの大きさで、正面奥の玉座に腰掛ける別のシレーニ像が、赤く光るものを持っていた。
「あれがカルブンクルスか」ロイが周りを見ると、この部屋には水龍の彫刻が一体もない。
「ずいぶんと呆気ないな」怪訝そうな顔をするマーティ。「水龍がわざわざ気を付けていけと言ったからには、もっと複雑になってると思ったんだが、あれはハッタリだったのか?」
「第二の口伝に書いてあった、逆鱗を持つ水龍の彫刻は今のところ一体もないからな」ロイも腑に落ちないという顔をすると「さて、この状況をどう分析する?」
「これから何かあると考えるのが妥当じゃないか?」
「僕も、ここからが本番だと思うね」
「では、ここからあの像までの間に何かあるということだな」
像までの距離は十メートルくらいだろうか。それほど距離はない。
「実は、一つ気になってることがあるんだ」
「ロイもか。俺もだ」
二人は同時に「なぜこの部屋に水龍の彫刻が一体もないのか」
「やっぱり引っ掛かるよな」
「前の部屋にあれだけあったのに、この部屋に一体もないのはおかしいだろう」
「どうする?」
「見たところ仕掛けがありそうな場所はないが、周りに注意して進もう」
「上下左右、全方向に注意して進もう」
アニスたちには少し間を置いて付いてくるよう言うと、ロイは部屋の右半分を、マーティは左半分を担当して慎重に進み、玉座前の階段のところまで来ると止まった。
階段は五段上がると踊り場があってさらに五段あり、見たところ何の細工もないように見える。
「普通、玉座への階段は正面だけにあるんじゃないか? なぜ左右にもあるんだ?」気になるマーティ。「何か理由があるのか?」嫌な感覚に襲われる。
「前の部屋があまりにもゴチャゴチャしてたから、何もないこの部屋とのギャップが違和感を出してるんじゃないか?」ロイも妙な雰囲気を感じているが「とにかく、気を抜かずに行こう」玉座前の階段を確認して「大丈夫そうだな」一段目に足を置くと、何も起きない。
その後、一段ずつ慎重に確認して上がっていく。
二段目、三段目、四段目、五段目に上がるが、何も起きない。
残り五段。
踊り場でいったん足を止めると「残りあと五段。何かあると思うか?」残りの階段を見るロイ。
「逆鱗を持つ水龍はただの脅しなのか?」判断がつかないマーティが眉間にしわを寄せる。
「とにかく、長くこの場にいられない。進もう」
ロイが六段目に足を置いたとき、入ってきた扉が勢いよく閉まったので振り返ると、後ろにいるアニスたちを脇へ突き飛ばす。その途端、扉から白い煙が噴きだし、二人はアッという間に凍ってしまった。
『ロイ! マーティ!』駆け寄ろうとするシュールに『行っちゃダメよ!』止めるコストマリーが立ち上がり、入ってきた扉を見ると『あんな所にいたのね』そこには、口を大きく開け、威嚇している水龍の彫刻があり、首に逆鱗が描かれている。
『扉の裏にいたのね。この部屋唯一の死角だわ』
その時、ゴゴゴゴゴゴッと地鳴りのような音とともに部屋が揺れはじめ、氷漬けになった二人の姿が突然消えた。
『ロイとマーティが消えちゃった!』
揺れが収まったあとにロイたちがいた所を見ると、ポッカリと床が抜け落ちている。
『奈落の底へ落されちゃったんだ!』
『まさか、こんな仕掛けがあるとは思わなかったわ』穴を覗くコストマリーに『助けに行かなきゃ。どうすればいいの?』シュールが見上げると『交渉してみるしかないわね』難しい顔をする。
『水龍に交渉するの?』
『いいえ。この仕掛けを管理してる者よ』
『仕掛けを管理してる者って?』
『それは……』言い掛けたとき、再びゴゴゴゴゴッと音がして、開いていた穴が閉まりはじめるので、コストマリーは後ろで座り込んでいるアニスに『あとで必ず迎えにいくから、あなたはこの部屋から絶対動かないで!』早口で言うと、シュールとともに姿が消える。
「そんな! 置いて、いかないで!」




