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ラディウスソリッシュ ~古代神の聖剣~  作者: 夏八木 瀬莉乃
第四章 「第二の門 / 氷の炎の門」
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15 水龍の逆鱗

 

 その扉を開けて中を(のぞ)くと、今いる部屋の半分くらいの大きさで、正面奥の玉座に腰掛ける別のシレーニ像が、赤く光るものを持っていた。


「あれがカルブンクルスか」ロイが周りを見ると、この部屋には水龍の彫刻が一体もない。


「ずいぶんと呆気(あっけ)ないな」怪訝(けげん)そうな顔をするマーティ。「水龍がわざわざ気を付けていけと言ったからには、もっと複雑になってると思ったんだが、あれはハッタリだったのか?」


「第二の口伝に書いてあった、逆鱗(げきりん)を持つ水龍の彫刻は今のところ一体もないからな」ロイも()に落ちないという顔をすると「さて、この状況をどう分析する?」


「これから何かあると考えるのが妥当(だとう)じゃないか?」

「僕も、ここからが本番だと思うね」

「では、ここからあの像までの間に何かあるということだな」


 像までの距離は十メートルくらいだろうか。それほど距離はない。


「実は、一つ気になってることがあるんだ」

「ロイもか。俺もだ」


 二人は同時に「なぜこの部屋に水龍の彫刻が一体もないのか」


「やっぱり引っ掛かるよな」

「前の部屋にあれだけあったのに、この部屋に一体もないのはおかしいだろう」


「どうする?」

「見たところ仕掛けがありそうな場所はないが、周りに注意して進もう」

「上下左右、全方向に注意して進もう」


 アニスたちには少し間を置いて付いてくるよう言うと、ロイは部屋の右半分を、マーティは左半分を担当して慎重(しんちょう)に進み、玉座前の階段のところまで来ると止まった。


 階段は五段上がると踊り場があってさらに五段あり、見たところ何の細工もないように見える。


「普通、玉座への階段は正面だけにあるんじゃないか? なぜ左右にもあるんだ?」気になるマーティ。「何か理由があるのか?」嫌な感覚に(おそ)われる。


「前の部屋があまりにもゴチャゴチャしてたから、何もないこの部屋とのギャップが違和感を出してるんじゃないか?」ロイも妙な雰囲気を感じているが「とにかく、気を抜かずに行こう」玉座前の階段を確認して「大丈夫そうだな」一段目に足を置くと、何も起きない。


 その後、一段ずつ慎重(しんちょう)に確認して上がっていく。

 二段目、三段目、四段目、五段目に上がるが、何も起きない。


 残り五段。


 踊り場でいったん足を止めると「残りあと五段。何かあると思うか?」残りの階段を見るロイ。


逆鱗(げきりん)を持つ水龍はただの(おど)しなのか?」判断がつかないマーティが眉間(みけん)にしわを寄せる。


「とにかく、長くこの場にいられない。進もう」


 ロイが六段目に足を置いたとき、入ってきた扉が勢いよく閉まったので振り返ると、後ろにいるアニスたちを(わき)へ突き飛ばす。その途端(とたん)、扉から白い煙が()きだし、二人はアッという間に(こお)ってしまった。


『ロイ! マーティ!』()け寄ろうとするシュールに『行っちゃダメよ!』止めるコストマリーが立ち上がり、入ってきた扉を見ると『あんな所にいたのね』そこには、口を大きく開け、威嚇(いかく)している水龍の彫刻があり、首に逆鱗(げきりん)が描かれている。


『扉の裏にいたのね。この部屋唯一の死角だわ』


 その時、ゴゴゴゴゴゴッと地鳴(じな)りのような音とともに部屋が()れはじめ、氷漬けになった二人の姿が突然消えた。


『ロイとマーティが消えちゃった!』


 ()れが収まったあとにロイたちがいた所を見ると、ポッカリと床が抜け落ちている。


『奈落の底へ落されちゃったんだ!』


『まさか、こんな仕掛けがあるとは思わなかったわ』穴を(のぞ)くコストマリーに『助けに行かなきゃ。どうすればいいの?』シュールが見上げると『交渉してみるしかないわね』難しい顔をする。


『水龍に交渉するの?』

『いいえ。この仕掛けを管理してる者よ』

『仕掛けを管理してる者って?』


『それは……』言い掛けたとき、再びゴゴゴゴゴッと音がして、開いていた穴が閉まりはじめるので、コストマリーは後ろで座り込んでいるアニスに『あとで必ず(むか)えにいくから、あなたはこの部屋から絶対動かないで!』早口で言うと、シュールとともに姿が消える。


「そんな! 置いて、いかないで!」


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