14 第三の口伝
水龍の逆鱗を確認することは難しくないが、口伝を探すほうが手間が掛かった。
「けっこう時間が掛かるな」マーティの額に汗が出てくる。
部屋の半分まで来ると一休み。
「あと半分か。コーヒーが飲みたいな」ロイがため息を吐くと「持ってきた」アニスが肩から掛けている水筒を持つので「さすが!」水龍の彫刻の向きを確認後、部屋を横切って彼女のところへ行くと、湯気がでるコーヒーカップを受けとる。
「うまいな。ン? シュールも飲んでみるか?」
『ちょっと飲みたい』
飲み終わったカップに少し入れてもらい、恐る恐る飲むと『ちょっと苦いけど、飲める』
カップを返して持ち場へ戻ろうとすると『ちょっと待って』コストマリーが引き止める。『一体だけ違う水龍がいるわ』
「エッ、どこ?」コストマリーの視線の先を見ると、右奥の壁の水龍の足元に、子供の水龍が彫られていた。
「子供の水龍か。そういえば、ここにあるのはみんな大人の水龍だな」
「なぜあの水龍が気になるんだ?」マーティが理由を聞くと『玉座にいる、天秤を持つシレーニ像を見て。あの像、あの子供の水龍を見てるわ』
そう言われて確認すると、確かに視線の先に子供の水龍がいる。
「先にあの像を確認しよう」
ロイは右側の壁まで戻るとその先の水龍を確認しながら進み、子供の水龍のところまで行くと屈んで調べる。
「ビンゴ! この水龍のお腹のところに口伝が書いてある」ポケットから携帯を取りだして写真を数枚撮る。
「こんな下に書いてあるのか?」マーティが隣に屈むと「この水龍、お腹、指、さしてる」後ろにいるアニスが水龍の左手を指すので「そういうことか」
「注意深く観察してれば、あんなに時間を掛けなくてもわかったな」ため息を吐くロイ。
「寒い中、時間が掛かることはリスクが大きい。そのためヒントを作ったのか」
「とにかく、第一関門はクリアしたな」
「なんて書いてあるか読んでくれ」
ロイは撮った写真をモニターに出すと、拡大して読みはじめる。
『第二の門へ入りし尋ね人よ。
シレーニが持つ真朱の瞳カルブンクルスを受け取り、第三の門へ向かうがよい。
第三の門は、黄金の幕に守られた、火炎の宮殿にある燎の天の門より入る。
天を仰ぐ炎の鳥にカルブンクルスを填めよ。
されど尋ね人よ、心せよ。ラチェルタに触れてはならぬ。触れれば闇をも燃やす業火にて、焼き尽くされるであろう』
「またすごいことが出てきたな」ため息を吐くマーティ。
「行きたくなくなるようなことが書いてあるよ」ウンザリするロイ。
「まあ、細かいことは戻ってから調べることにしよう」
「そうだな」携帯をポケットにしまうと「カルブンクルスというのをもらいに行こう」話を進める。
一行は正面奥に座っているシレーニ像の前までいき、彼女が持つ天秤を見る。
「左側の皿に丸い穴が空いてる。ここに乗せればいいんだな」
ロイが内ポケットからディア・マレのラクリマを出して皿に乗せると、シレーニ像が左へ移動して、後ろから両開きの扉が現れた。




