10 氷の炎の門
三人が中に入ると、センサーでも付いているのか、すぐに扉が閉まる。
『扉を見て!』シュールの声に振り返ると「なんでこんな所にアニスが描かれてるんだ?」
扉の裏側に、等身大の彼女の彫刻が浮き彫りになって描かれていた。
『よく来たな、尋ね人』突然、響くような低い声が聞こえてきた。
「誰だ!」不意の声に見回すと『扉の右側を見て! 水龍の彫刻が光ってる!』シュールに言われたところを見ると、浮き彫りになっている水龍の彫刻が淡い光を放っている。
「あなたは誰ですか?」
『私はこの門を守護してる者だ』光が強くなったり弱くなったりしながら聞こえてくる。
「では、あなたがこの門の守護獣ですか?」
『そうだ。アニス、久しぶりだな』
彼女は、無表情で水龍の彫刻を見ている。
『お前に半身を返すときがきた。扉の前に立ちなさい』
「アニスの半身? では、彼女が感情をなくす原因になったのは、この扉に半身を取られたからなんですか?」
『そうだ。訳は彼女に聞くがいい。さあ』
二人を見るアニスに頷くと、彼女は恐る恐る扉の前に立つ。すると彼女の体が淡い光に包まれ、光が消えるとその場にしゃがみ込んだ。
「アニス! アッ」扉に描かれていた彼女の彫刻が、すっぽりと抜けている。
「どうなってるんだ?」二人がアニスを扉の前から連れてくると『しばらくは違和感が残るだろうが、じきに消える』と水龍が声を掛けてきた。
そして、アニスの彫刻があったところに水龍の彫刻が浮き出てくると『では、気を付けていくがいい』言い終ると、暗かった奥へ続く通路に明かりが灯る。
「どこまであるんだ?」ロイがまっすぐ伸びる通路の奥を見ると、ウンザリした声を出す。
「先が思いやられそうだな」行く前から疲れが出てくるマーティ。
『気を抜かず、注意して行くんだな』そう言うと、彫刻の光が消える。
氷の通路は滑らないように配慮されているのか砂利のように氷が砕けていて、思った以上に歩きやすかった。
氷を踏む音が響く中、ロイとマーティはアニスを間に挟んで奥に進んでいくと「このランプ、どうやって光ってるんだ?」マーティが等間隔に点いているランプの一つに近寄っていく。
ランプは氷でできていると思われる縦型で、長方形の箱の中に拳大のゴツゴツとしたミルキーブルーの石があり、それがロウソクの炎のように光っている。
「ディア・マレの像が着けてた巻貝のネックレスと同じ石のようだな」
ロイがランプの中を見ると「どうやら水晶の一種みたいだな」
「発光する石か。聞いたことないな」
「僕もないよ」
「水晶は光らないのか?」
「光を当てれば反射するけど、水晶自体は光らないよ」
「そうなのか」
「宝石のことに詳しくないだろう」
「知らなくても生きていける」
「それはそうだけど」
「ロイは詳しいのか?」意外そうな顔をすると「それ程でもない」
「心配するな。生きていける」
「心配してないよ」
「とにかく、なぜこの石が発光するのか、ここで議論しても解決しない」
「そうだな。先へ行こう」再び奥へと歩きだす。




