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ラディウスソリッシュ ~古代神の聖剣~  作者: 夏八木 瀬莉乃
第四章 「第二の門 / 氷の炎の門」
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9-1 海の精の休息地

 

 また銀世界の中を走る。


「こんな所、一人で走ったらすぐに方向がわからなくなって、遭難(そうなん)するよ」後部座席で外を見ているロイに「同感だ。なんの目印もないのに、よく方向がわかるな」助手席のマーティがアニスを見ると「生まれて、から、ここ、住んでる。毎日、同じ景色、見てる。感覚的、地形、覚える」


『アニスはすごいね。私も絶対迷子になるよ』感心するシュールに「こういうのを住めば(みやこ)と言うんだ。どんな所でも、長年住んでたら、そこがその人にとって住みやすい場所だということだ」マーティが説明するが『ふうん』今ひとつわかっていないようだ。


「他の所、景色、変わる?」

「景色が変わるというより、こんなだだっ広い場所は(ほとん)どないよ」


「白一色という場所もない」

『私が()んでたところにも、こんな場所はなかったよ』


「想像、できない」

「この星から出たら、たくさん見られるよ」



 それから一時間ほど走ると、左側に海が見えてきた。


「本当に、ここら辺の海は(こお)ってないんだな」海を見るマーティ。「それほど大規模(だいきぼ)に、マグマが地表近くまで出てきてるってことか」


『大地は雪と氷で(おお)われてるのに、海は波打ってるなんて不思議』(つぶや)くシュール。

「確かにね。すごい光景だな」


 その海は、(かたむ)いた日の光を反射してキラキラと輝いている。



 しばらくの間、海沿いを走っていると「ハロルド山脈、見えてきた」と言われ、前を向くと、今まで何もなかった前方に山が見えてきた。


『すごい! 山型をした大きなアイスクリームみたい!』


「アイスクリーム?」マーティが聞き返すと「先週見た料理番組の対決のお題が新作アイスクリームで、優勝チームが山型のアイスのデコレーションを作ったんだよ」ロイが説明する。


『おいしそう!』

「……あの山は食べられないぞ」


「話を戻すけど、アニス、あの山の(ふもと)が目的地?」

「少し奥、入ったところ」

「まだ掛かりそうだな」


 それからまた、コーヒーを飲みながらの座談会になった。


 ハロルド山脈の(ふもと)までくると、奥へ続く一本道へ入る。

 今度は山がずっと先まで続いていた。


「すごいな。一転して氷の山の中か」見上げるマーティ。


「道、大丈夫?」途中から何本も別れ道があるので、ロイが心配になると「ここ、何回も、来てる。大丈夫」淡々(たんたん)と答える。



 目的地へは二十分遅れの午後四時二十分に着いた。

 ジープは山に(はさ)まれた小さな入江で停まり、前方の海では引き潮が始まっている。


「ここ、海の精、休息地」と説明するが、何の変哲(へんてつ)もない浜辺。


「見たところ、特に変わった場所ではないが」マーティが見回すと「これから、わかる」アニスがジープから降りるので二人も外へ出ると、底冷えがする寒さだった。


「ジッとしてられない!」ロイが足をバタつかせると「これ、ブーツ、入れる」バッグから小さな袋を出して二人に渡す。

「何これ?」手に取ると「懐炉(かいろ)。早く、入れる。足、凍傷(とうしょう)、なる」と言われ、慌ててジープに飛び込むとブーツの中に入れる。



 先に入れ終わったマーティが、面白いように海水が引いていく波打ち(ぎわ)に立ち、波と遊びはじめたので「足元、(すべ)る、気を付ける」と言われ、手を上げて答える。


 懐炉(かいろ)を入れ終わったロイがマーティのところへ行き「これだけの引き潮だと、反対側はどうなってるんだろうな」


「大洪水になってるんじゃないか」

『誰かが海の水を飲んでるみたい』初めて見る引き潮に興味をもつシュール。


「もしそうだとしたら、どんな人物が飲んでるんだろうな」ロイが話に乗ると『巨人だよ。大きなコップですくって、ゴクゴク飲むの』


「そんな大男がいたら、飲み干しちゃうだろう?」

『そうなる前に、巨人が重くなって星が壊れちゃうね』楽しそうに笑う。


「そろそろ、岩、出てくる」いつの間にか隣に来ていたアニスが「ほら、あそこ」指をさす海から、夕日を背にした幾つもの岩が頭を出してきていた。


 (たたず)んで見ていると、潮が引くにつれて無数の岩が姿を現す。


『ロイ、寒くない?』防寒具の内ポケットに入っているシュールが心配すると「そろそろ限界」足をバタつかせ「懐炉(かいろ)を入れても限界があるか」

「もう少し、掛かる。車の中、待つ」アニスが(きびす)を返してジープへ歩いていくので、ロイたちも後を追う。


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