4 アイスドール
外へ出ると、二人はレンタカーを借りにメインストリートへ出た。
ここは専用車でしか移動できないので借りる人が多く、当然、レンタカー屋もたくさんある。
しかし、昨日借りたレンタカー屋は、全部レンタル中でないと断られてしまった。
「仕方ない。ほかの店を当たろう」
別のレンタカー屋へ行くが、このあと回った数件すべて、ないと断られてしまった。
「昨日の車、返すんじゃなかった」ガッカリするロイに「いまさら言っても始まらん。とにかく、借りられるまで、手あたり次第、当たるしかないだろう」
次のレンタカー屋が見えてきたとき、後ろから来た女性がロイに紙切れを渡していった。
『ロイ、何をもらったの?』見ていたシュールの声を聞いて「どうした?」ロイを見ると「これを貰った」掌大の紙を見せる。
その紙にはこう書いてあった。
「あなたたちは付けられています。この先の路地を左に曲がったら、ティーカップの看板が掛かっているお店があるので、その中に隠れてください」
紙を畳み「どうする?」マーティを見ると「ここで騒ぎを起こしたら余計に時間を食う。俺たちには時間がないんだ」
「じゃあ決まり」
二人は路地まで歩き、角を曲がると走りだした。
指定の看板を見付けると、店は空き家でドアの鍵が開いていたので中に入り、息を殺して外の様子を伺うと、数名の走る音が聞こえて去っていった。
「行ったか?」ロイが外の様子を伺っていると「誰だ!」マーティが後ろへ向けて銃を構える。
すると、奥の部屋から出てきたのは、フードを被った小柄な女性だった。
『さっき、ロイに手紙を渡した人だよ』
「君か」マーティの銃を押さえ「助かったよ。ありがとう」お礼を言うと近づいてくる。
フードのせいで顔が下半分しか見えないが「無事、良かった」と言うので「よく僕たちがつけられてるとわかったね」
「レンタカー屋、あなたたち、ずっと見てた。その後、あと、つけてた」
「そんな所から僕たちをつけてたのか」
「あんたもつけてたんだろう?」
「声、掛けられなかった」
「なるほど」
「で、どうして僕たちを助けてくれたんだ?」
「剣持ってる、あなた尋ね人、ロイ。ペンダント持ってる、あなた、第一の門、キーマン、マーティ」
『なんで知ってるの!』思いもよらないことを聞いて大声を出すシュール。
「どこかに名前が書いてあるか?」ロイに聞くと「名札なんか付けてないぞ」目の前の女性に「どうして僕が剣を、彼がペンダントを持ってるとわかるんだ? 君は誰なんだ?」
「私は……アニス」
『エエッ! 本当?』シュールは驚くが「君がアニス?」ロイは怪訝な顔をする。
「なぜ俺たちがアニスという女性を捜してると知ってるんだ?」マーティが探りを入れると「その質問、あとで、答える。来て」彼女は踵を返し、裏口から外へ出ると裏通りを歩いていく。
「さっきの奴らに見付からないか?」ロイが辺りを伺うと「こんな、裏通り、滅多に、入って、こない」
彼女は裏路地を何回も曲がり、突き当りまでいくと、右側の古いアパートへ入っていく。
どうやら二階の角部屋が彼女の部屋らしい。
中に入ると、暖房が点いていて暖かかった。
「後ろ、ハンガー、使って」壁に掛かっている数本のハンガーを指すとマントを脱ぐ。
彼女はスカイブルーの髪をボブカットにした、群青色の瞳をした女性だった。
そして、肌が異様に白い。
(まるで氷の妖精だな)と思っているロイに「コーヒー、飲む?」と聞いてくるので「エ?ああ」返事をするとキッチンへ行く。
『ねえ、あの人、変な聞き方するね』小声で話し掛けてくるシュール。『普通、コーヒーでいいかしらって聞かない?』
「それは気になった。まるで、僕たちのことを知ってるような口ぶりだからね」
「知ってるんだろう。名乗らないのに、俺たちの名前や持ち物を知ってるんだぞ」
「そうだな。何者かわかるまで、用心したほうがいいな」




