2 不意打ち
「ここでドライブはしたくないな」運転しているマーティがぼやく。
一面真っ白な世界。
最初は見慣れない光景を楽しく眺めていたが、ずっと同じ景色なので、飽きてくると眠くなってくる。
短剣の大きさになって、ロイの防寒具の内ポケットに入っているシュールも、最初は煩いほどはしゃいでいたのに、しばらくすると静かになったので、眠ってしまったのだろう。
その眠さと戦いながら訪ねた二人は別人だった。
「ついてないな。頑張ってここまで来たのに」サクサクと柔らかい雪を踏む。
「そう言うな。あと二人に絞られたんだ」タブレットに表示されている住所を見ると「明日のことを考えて、今日は途中のこの町まで戻って一泊するか」
ところが、車を走らせてすぐにロイの携帯が鳴り “ロイ! マーティ! すぐ戻ってきてよ!”エルの緊迫した声が飛び込んでくる。
「どうした!」
“電気室で爆発が起こったんだ!”
「何だって! ケガ人は? 艦は無事か?」
“艦は無事だよ。ケガ人が数名出たけど、みんな軽傷で済んだ。今、原因究明に当たってるけど、相当ひどくやられてるんだ”
「わかった。これから戻る」
艦には午前一時過ぎに着き、帰りを待っていたエルと一緒に電気室へ行くと、ものの見事に黒焦げになっていた。
焦げ臭い匂いが漂う中「原因は?」ロイが口を押えて聞くと「精工にできた爆発物によるものだったよ」後ろにいるエルが答える。
「爆発物?」振り向くと「だから警察に届けたよ」
「で、警察はどう言ってるんだ?」
「プロの仕業だろうって」
「犯人の目星は?」
「まだわからない」
「とにかく、検分は終わったんだろう?」マーティがエルを見ると「さっき終わったよ」
「では、手を付けていいんだな」
「こっちでも一通り調べたから」
「あとで調書を見せてくれ」
「用意してあるからメールする。じゃあ、これから修理に入るよ」
外で待機していた修理班と入れ違いに出ると、作戦会議室へ向かった。
エルから送られてきた調査内容に目を通し、マーティに「どう思う?」と聞くと「例の追っ手の仕業じゃないかと言いたいんだろう?」
「ああ」
「どちらの調査内容を見ても手掛かりなし。警察が言ったとおり、プロの仕業に違いないな。しかも相当の手練れだ」
「とにかく、各部署に警戒を厳重にするよう通達を出した」
「相手がどんな奴か今の時点でわからないから、敵の出方を待つしかないか」
そこへ、エルが二人に眠気覚ましのコーヒーを持ってきた。
「サンキュウ」ロイがカップを取ると「どうしてこの艦が狙われたんだろう?」エルが当然の質問をしてくる。
「ある婆さんから予言を聞いた」カップを受け取るマーティに「予言? 誰なの?」
「アグリモニー星の市場で、予言者だっていうお婆さんに会ったんだよ。そのとき予言を聞いて、追っ手がいると言われたんだ」
「追っ手? 誰? どこかで追われるようなことしたの?」
「まさか。全然思い当たらないよ」
「でも、プロを雇うくらいだから、相当なことをしたってことだろう?」
「そういうことになるんだろうけど、心当たりが本当にないんだ」
「じゃあ、向こうが姿を現すまで、誰かわからないんだ」困った顔をするが「とにかく、長距離を走ってきたから疲れただろう? 少し休んでよ」と話を打ち切る。
会議室から出るロイとマーティは、話をしながら自分たちの部屋へ向かった。
「エルは、親父さんに予言者が付いてることを知らないのか?」
「ああ。知ってるのは、側近クラスの数名だけだよ」
「そうなのか。危うく話してしまうところだった。すまん」
「いいよ。知らなかったんだから。それにしても、こういう方法で来るとは思わなかった」
「まったくだ。修理にどれだけ時間が掛かるか」
「足止めか」
「動けなくして叩く。ゲリラのやり方だ」
「ゲリラ……そうなると、思い出すのは……」
「奴らしかいないだろう」
「しかし、奴らは潰したはず」
「追って来れないようにしただけだ」
「……どうする? すでに潜入してるかもしれないぞ」
「まだハッキリしてないから下手に動かないほうがいい。もし奴らだったら、狙いは俺たちだ」
「そうなると、ここで話すのはまずいな。僕の部屋へ行こう」
「情報が少ないから、状況が掴めないな」ロイが居間のソファに座ると、向かいに座るマーティが「俺たちは艦から離れたほうがいい」
「もし奴らが潜入してたら、艦を占領されてしまうぞ」
「そうか。だが、まだ奴らだと決まったわけじゃない。可能性の一つだ」
「そうだな。とにかく、追っ手が誰なのかわかるまで、警戒を厳重にするしかないな」
マーティはロイの部屋で寝ることにし、体を休めた。




