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まて、抜くな(魔剣を)


 魔王ルージュは腰元の魔剣に手をやった。


「まて」


 魔王さまが魔剣を抜き去る前にその腕を勇者がつかむ。


「抜くな(魔剣を)、ばれるだろうが!(魔王だと)」


 勇者の必死の形相に魔王さまは目をぱちくりさせる。


「刃物使いに素手で戦えと? 無茶ぶりするのう。まあできぬこともないが」


 魔王ルージュは武闘家の構えをとった。


 こちらの会話をものともせずサーベルで突っ込んでくるならず者の攻撃をひらりと空中でかわし、そのまま回転をかけて長い脚で回し蹴りをかける。


 銀のマントがめくれあがり、その下の黒のぴったりとしたタイツが見えた。


「ぶふーーー!!」


 勇者ルーズベルドは鼻からも吐血した。見てはいけないものを見てしまった!!

 ルーズベルドは鼻と口を押さえた。


「ん、んんんーーー!」


 言葉にならない。いや、言葉にしては、ならない。


 勇者がちらりと周りを見回すと耐性のない一般市民は卒倒しており、宰相サーシャは目を潤ませて鼻血を流しており、ワーウルフのカイは表情を変えずにガン見していた。


「ふう、まあざっとこんなもんよ」


 魔王さまは悪びれずににかっと笑った。


 地面には頬に足跡のついたならず者が倒れ伏している。



…………



 てくてくと村を歩き、くたびれた看板のかかった宿場に到着する。


「おお、ここか」


 魔王さまは宿を見上げた。勇者しか使う人がいないであろう宿場は長年手入れされていないかのようにさびれている。


「ルーズベルドもここに泊まったのか?」


 魔王さまの悪気のない言葉に勇者ルーズベルドは言葉をつまらせた。


「いや、俺は行きでは通り雨で猫になっていたからここの軒下で一泊した」


(ああ、雨。また降ってきた。呪われたこの身がにくい)

 ぽつぽつ降り始めた通り雨にルーズベルドは嘆息した。


 ぽつぽつとふってきた雨に濡れ、ぬれ猫を抱えた魔王さまが宿に足を踏み入れる。宿屋のおかみさんは魔王さまのいかにも勇者然としたいでたちを見て声をかけた。


「ああ、勇者さまご一行ですね。ようこそ」


 宿屋のおかみさんの勇者さまご一行という言葉をルーズベルドのことだと受け取った魔王さまはうなずいた。


「ああ、一部屋たのむ」


 おかみさんは目の前の黒髪の美麗な勇者(魔王)に目を奪われた。なんて美しいひとなのだろうかとうっとりと魅入っている。


「どうぞ、こちらが鍵です」


「ああ、どうも」


 鍵をうけとって魔王さまは二階の部屋に向かう。

 部屋をあけるとそこは大部屋だ。

 二段ベッドが壁一面に取り付けられ寮の大部屋のようになっている。


「ふむ、合理的なつくりだな」


 魔王さまは雑魚寝など特に気にもとめなかった。


「な……ななな、なんと!」


 宰相サーシャは胸をおさえた。


「いけません、こんな、危険すぎます!」


 一番危険なサーシャが声を張り上げた。


「大丈夫だ。鍵もある」


 そういって魔王さまは出入り口すぐの上段のベッドにもぐりこんだ。

 しれっとカイは魔王さまのすぐ下のベッドを選択する。


「俺がお前(サーシャ)の気を失わせてやろうか」


 カイがベッドに寝転がりながら騒ぐサーシャに声をかけた。


「いえ、まず最初に勇者(猫)をのしておくべきでしょう。この男(猫)は危険すぎる」


 サーシャはレイピアを抜き取った。ぬれ猫は身体を振るって水しぶきを飛ばした。本日三度目の決闘だ。


「うーん、静かにしてくれないか」


 魔王さまは二段ベッドの上で唸った。




きゃーーーーー!!


 階下から突如耳をつんざくような悲鳴が響き、三人の動きが止まる。


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