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エンゲージリングの旅



「それでいったいどこに向かうつもりなんだ?」


 勇者は魔王さまを直視できずに前を向いたまま尋ねた。


 魔王さまは瞳に魅了の紋が入っているだけにとどまらない。


 人間離れしたその美貌。


 顔から目線を下ろしたとて体の線の見えるぴっちりとした黒のボンテージ(ぴっちりした黒の全身スーツ)の上に黒のコートを前で留めているような状態だ。


 たとえ銀のマントで上半身しっかりと覆われていて見えないとはいえ勇者の脳裏を駆けめぐる想像に、勇者は口を抑えた。

(だめだ、耐えろ、自分。変なことを口走るな!!)


「ああ、無論おぬしの呪いを解くべく、解呪の指輪を取りに行く」


 魔王さまは何でもないように言った。

 宰相サーシャはその言葉に雷が落ちたかのように膝から崩れ落ちる。


「なんと! かのエンゲージリングの旅をすると……?」

「ああ、そうだぞ」


 二人の会話に勇者ははたと気がついた。


 結婚を誓い合う男女が、生涯の伴侶をいかなる状態異常(魅了を含む)からも守るために長き旅をして解呪の指輪を作るという神話があった。


(まさか、本当にそんな指輪があるというのか……?)


「今ではもう手がかりも薄いが、あてはある。鍛冶職人ドワーフの里にて腕利きの彫金師に頼もうではないか」


 そう堂々と言った魔王さまは現在ワーウルフの腕に姫抱きにされていた。



 これは公正なる審議(決闘第二ラウンド)の結果、ワーウルフのカイが魔王さまを運ぶ権利を得たからだ。


 カイは寡黙にして魔王城いちの武闘派。

 彼に武器を持たせたら天下一品だ。


 名人や達人といった人物は得物えものの良しあしなどたいして問題ではない。


 だれが魔王さまを運ぶかという勝負(物理)は一瞬でついた。


 勇者の聖剣と宰相のレイピアを薙ぎ払ったのはワーウルフの鉄の斧(魔王城の壁に立てかけられていた飾り斧)だったのだ。


「だが、ドワーフの里は魔王城からはかなり遠いからのう。中継地点として人間の村にでも寄ろう」


魔王さまの言葉に宰相サーシャは声をあげた。


「そんな! 危険すぎます!」


勇者もこれにはサーシャに同感だ。魔王は悪であると思想統制されている。

無事でいられるはずがなかった。


ちらり、勇者の目線が三人の姿を品定めする。


魔王ルージュ……銀のマントさえ羽織っていれば、黒髪赤目のどこぞの国の気品あふれる王子様に見えるだろう。


宰相サーシャ……耳が若干とがっていて顔が色白いものの、銀髪に藍の瞳をもつ北方育ちの麗しの貴公子に見えなくもない。


ワーウルフのカイ……黒髪、黒目に精悍な顔つきではあるが、黒い獣耳が生えている。あの耳は目立って仕方がないだろう。


(しかも俺は勇者だ。上位魔物と一緒にいるだけで問題になる)


 勇者ルーズベルドは嘆息した。


「まあ、大丈夫だ。我は強い」


 魔王さまはにかっと笑った。

 勇者は不安がぬぐえなかった。


 一行は国境を抜け、魔王城に一番近い人間の村が遠くに見えてきた。


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