旅のメンバー決め
魔王さまが勇者とともに旅に出るといったものだから、この魔王城では壮絶なバトルロワイヤルが繰り広げられていた。
「な、なんで俺がこんなことしなくちゃならないんだ!」
勇者ルーズベルドは呪われた聖剣で次から次へと躍りかかってくる上級魔物たちを峰打ちしていた。千本ノックだ。
「ええー皆様、生き残った上位三名のみが魔王さまと楽しい四人旅に同行できますので奮ってご参加くださいませ」
拡声器を口にあてて涼しい顔で煽っているのは魔王城きっての敏腕参謀、宰相サーシャである。彼の藍色の切れ長の瞳は怒りの炎に燃え滾り、麗しい銀の髪は城内のシャンデリアの輝きを反射した。そのぞっとするほど美しい顔は屈辱に歪んでいる。
「お前は……! 性格がほんとに悪いな!!」
勇者は息も切らせながら大きめの聖剣で押し寄せる魔物たちを薙ぎ払う。その金の髪は汗で額にはりつき、余裕のない表情をしていた。
一方、宰相サーシャは魔王さまの豪奢な赤い椅子の右にもたれながら涼しい顔をして三段下で行われる混沌を肴にワインを嗜んでいた。
魔王さまは長時間にわたるバトルロワイヤルに飽きて、椅子の上で船をこいでいる。
宰相サーシャは愛しそうに魔王さまの漆黒の髪を指先で梳いた。
その様子を見て勇者ルーズベルドのこめかみに青筋が立つ。
勇者の聖剣がギラリと光を帯び、薙ぎ払った一帯に白い蒸発の霧が立ち込めた。
どうやら大技によって彼に群がっていた魔物たちは一掃されたようだった。
群がっていた上位魔物たちは揃いも揃って魔王城の壁にたたきつけられて勇者の周りだけスペースが空いた。
「いつまで高みの見物をしているつもりだ! 降りてこいサーシャ!」
勇者の顔は怒りで真っ赤になっていた。息は切れて荒い。
「おっと、手が滑った」
サーシャは目にもとまらぬスピードでワイングラスを投げつけた。
ルーズベルドは聖剣で切り払ったが勇者の服に真っ赤なワインが飛び散る。
「お前……!!」
勇者の姿はワインの濡れにより呪いの力で真っ白なスコティッシュフォールド(猫)になった。その純白の毛並みにワインの赤いしみがついている。
毛を逆立てて威嚇するスコティッシュフォールドは尻尾まで怒りで逆立ち低く持ち上がっていた。
すらりと腰元のレイピアを抜き、サーシャはタンタンと上座の赤い階段を三段おりて勇者のもとにゆっくりと近づいた。その藍色の瞳は底冷えした光を宿している。彼の歩いた後には真っ赤なカーペットの上に氷の霜がついた。
「ええ、降りてきましたよ」
底冷えした声とともに、瞳を眇めて細身のレイピアを構えると氷の粒がサーシャの刀身に絡みつく。
「それでは、さようなら」
サーシャの氷の剣撃が無防備な白猫に肉薄した。
ガキイイン
金属と金属の合わさる耳障りな音が魔王城に反響する。
宰相サーシャは邪魔者の顔を見て小さく嘆息した。
「ああ、……カイですか。厄介な」
ブンと斧を振り回した細身の筋肉質の男はその黒曜石の瞳を細めた。
「ここにいる三人で定員だ。サーシャ」
白猫は目の前でかばった男の顔を見上げた。彼は不愛想な顔つきに鋭い目つき、ワイルドな黒い髪を肩下まで伸ばし、同色の黒いオオカミの耳が頭部についている。
「はあ……まあ、そうですね。なんとまあ骨のない者たちでしょう。城の警備が心配です。今度みっちりとしごいておかなくては」
サーシャは壁にたたきつけられて気絶している城の者を見回して肩をすくめた。
「いや、勇者が強かった。それだけだ」
カイは無愛想顔で言葉少なめに言った。
「ニャー!!」
勇者の言葉は翻訳されなかった。