勇者の秘密
「して、そなたはなぜ呪われておるのじゃ?」
魔王さまは豪奢な赤のソファに座り込んで勇者ルーズベルトに尋ねた。
勇者ルーズベルトは口がはくはくしていた。
呪いの発動を必死で抑えていた。
彼の両手は口を覆い、顔は真っ赤だ。
「ん、んんー!」
勇者ルーズベルトのくぐもった声が漏れる。彼は両手で声を押し殺していた。
「貴様! 魔王さまがお尋ねしているのだぞ、分をわきまえろ!」
宰相サーシャは銀の髪を逆立てて、勇者ルーズベルトに掴みかかった。
まるで二組の猫がじゃれついているかのようだ。宰相サーシャの両手がそれぞれ勇者ルーズベルドの両手をつかんだ。
「ぷはっ、だめだ! そんなに見つめられると俺は!」
勇者ルーズベルドは目をぎゅうとつむりながら先ほどの心の声を叫んだ。
「可愛すぎる! がまんできない!!」
ヒヤリ、室内の温度が五度ほど下がった。
「貴様……どうやら死にたいらしいな」
宰相サーシャはぷるぷると俯いた状態で震えた。彼の得意属性は氷だ。心臓氷漬けの冷酷非情高位デーモンの名はだてではない。
「ちが、お前に対してではない!」
「知っておるわ! よけいに問題だ! この泥棒猫が!!」
その言葉は的確に的をついていた。
一方椅子に座り込んだままの魔王ルージュはあごに手をついた。
(うーむ、我の魅了の紋がどうやら悪影響しておるのう)
魔王さまには常時発動型、魅了の紋が両目の瞳孔に刻まれていた。
これはいわゆるパッシブ(素の能力)であり、どうしようもないのだ。
「まあ、よい。ところで呪いのことだが」
魔王さまがぽんと手を叩き、宰相と勇者は拮抗した腕のつかみ合いのさなか動きをとめた。
「我が手伝ってやろう」
思いもがけない魔王さまの言葉に、勇者ルーズベルドの青い瞳は大きく見開かれた。
「そもそもなぜそれほどまでに呪われておるのじゃ」
魔王さまの魔眼は勇者の全身をサーチした。
頭の冠 呪い
首元のネックレス 呪い
青の勇者服 呪い
銀のバングル 呪い
ミスリルのブーツ 呪い
聖剣 呪い
(ふむ、全部呪われておるな)
「これは、魔王を倒すために授けられた旅の品だ」
そう答えた勇者ルーズベルドは恥じらうように左腕を右手で押さえ、左方向を向いてぷるぷるしていた。いまだ顔は赤いままだ。
「ふーむ、これは呪いが強いのう。ほとんど脱げないものばかりではないか」
「ああ、すきだ!!」
勇者ルーズベルドは左を向きながら相槌のかわりに叫んだ。
不本意だとばかりに両手で顔を覆って絶賛恥ずかしがっている。
「とりあえず、叫ばなくて済むようにしたいのう」
「ああ……、すきだ!!」