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カップリング成立


 王子の口から出た言葉に一同は目をいた。もちろん言った本人である王子も驚いていた。


 そう、全身を呪い装備に呪われたこの勇者様は言ってはいけない言葉まで言ってしまう呪いにもかかっていたのだった。呪いのデパートだ。


 ぱっと口を覆う王子様は耳まで真っ赤になっていた。


「よいぞ!」


 魔王さまの返事はシンプルだった。


「結婚、するか!」


 こうして魔王城にやってきた勇者と魔王さまはカップリング成立したのだ。


「いや、まってください!」


 床に手をついたままふるふるしている宰相サーシャは焦った。


「早い者勝ちだなんてきいてないです!」


ギラリ、その紺色の瞳を憎悪にたぎらせた。


すっと腰元の細身の剣を抜き取ると勇者の方へ、その切っ先をむける。


「私は認めませんよ!」


 勇者は相変わらず口を両手で覆ってはくはくしていた。


その様子を見て魔王さまは今がトイレチャンスだと思った。


(いくか、トイレ)




 魔王さまがきびすをかえすとすっと抱きかかえられる。


「お運びします」


 ぴょこんと黒髪に獣耳のついた彼はワーウルフだ。彼はたぐいまれなる身体能力をもつ獣人だ。ひょんひょんと俊敏なうごきで化粧室まで姫抱きにし、そっと優しく膝をついておろした。ついでに魔王さまの肩にのっていたオオガラスをひっつかむ。彼の漆黒の瞳はすがめられていた。


「カア……」


 オオガラスは悲しげに鳴いた。五分程度しか肩の上に乗れなかった。


 ワーウルフはぶんと振りかぶってオオガラスをナイスピッチングで球速百六十キロで投げた。パンパンと両手を払って息を吐く。


 ガチャリ


 魔王さまがトイレのドアを開けると中には植物タイプの魔物が一心不乱に掃除をしていた。その慌て具合はまるでさっき入ってきたかのようだ。


「おお、いつもすまないな」


 魔王さまが気軽に声をかけると植物タイプの魔物は触手をすりあわせてもじもじしている。一向に出ていく気配はない。


「使ってもいいだろうか」


 魔王さまがトイレにはいろうとした瞬間にトイレの天井に穴が開いて何やら飛び降りてきた。


ドン


 ナタを持ったオークが穿うがたれた穴から飛び降りてきて、植物性魔物を裁断するとひっつかんで俵にかついだ。ちらっと魔王さまに目線を向けると何事かもごもごいいつつ、せきこんでのどをつまらせながらダッシュで出ていった。彼は正義のヒーローとして出てきたつもりのようだった。


 魔王さまは魔眼でアイサーチをかける。どうやら半径五メートル以内にはもうだれもいないようだった。


「まあ、トイレ、するか」


 魔王さまは細かいことは気にしなかった。この懐の深さがこの混沌とした魔王城を平和にしていたのだ。



ガキイイイン


 

 宰相サーシャと勇者ルーズベルトは細身の魔剣と呪われた聖剣で切り結んでいた。


 ああ、どうして効果の高い武具はすべて呪われているのだろうか!


 勇者ルーズベルトは嘆息たんそくした。


 勇者ルーズベルトにはこの聖剣の呪いで、感極まった思いの丈を叫ぶという呪いがかかっている。そしてこの聖剣は一度装備したら最後ほかの剣を装備することができない。


 そして身に着けている呪われた青の勇者服は、一度装備すると水に濡れたら猫になるという呪いが付与されている。この効果は服を着ている間だけ発動する。


 そしてこの服は呪われているものの、いや、呪われているからこそ守備力が非常に高いのだ!


「ふん、まあまあの手練れのようですが、貴方はここで仕留めます」


 宰相サーシャは細身の魔剣を顔もとに引き上げ、目を眇めながら言った。彼の藍の瞳はギラリと冷たく光る。


ギュンと瞬間移動で勇者の首をとろうとしたとき……。



 宰相サーシャは視線の端にとんでもないものをとらえた。


 



 魔王さまが、ワーウルフに姫抱っこされてトイレから帰還してきたのだ。



(う、うああああああああ!!)


 

 宰相サーシャの心臓に銀の杭が撃ち込まれたかのような衝撃が走った。

 なんてことだ!

 目先のことにとらわれたせいで、おいしいところをひっさらわれてしまったではないか!!


 ギュン



 宰相サーシャは瞬間移動先を変更した。


「魔王さま! 私がお運びしましたのに!」


 涙目でワーウルフに縋る宰相サーシャに勇者の戦意はそがれた。


(ここが……難攻不落の地獄の城……だと?)


 勇者ルーズベルトは茫然とした。


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