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石の街

 薄目を開けると、いつのまにやら日が昇っていたらしい。


 賑やかな声が聞こえる。だが、それは複雑的でありそれらの音源を特定できるほど意識がはっきりしていない。ワタシはどうやら起きているらしいこと。どこかうるさいところにいる事。そして何より、何時ものような揺れる感覚がないことから、どこかに止まっていることは理解できるが……。だんだんぼやけてきた意識が覚醒し始める。……ああ。ワタシはどうやら、また眠っていたようだ。……毛布とこの気怠さが何よりの証拠であることは言うまでもない。一つあくびをすると、ワタシはようやく状況が理解できそうであった。


 どうやら、いつの間にかどこかの集落にたどり着いたらしく、外からは賑やかな人の声がする。目の前で眠っていたユウダミの姿と、彼がいつも携帯する薬学草が入った荷袋がなくなっていた。どうやら、今日はここで商売をするようだ。ワタシは毛布をきれいにたたみ、所定の位置に戻した。外に出ようか…。何か面白い本があるかもしれない。お目当てのものを期待して、ワタシは日の射す外に足を踏み入れる。


 そこは、段差が目立つ大きな町であった。










 変わっているのは町の構造だろうか。掘削現場の跡地の様に、すり鉢状の構造をしているその村は、どうやら中心に向かうほど新しい家が作られているらしく、すべて木造建築である家々は年代を分かりやすく教える。

 どうやら今回もそのような場所に来てしまったらしい。ワタシは、慣れたため息の代わりに一つ背伸びをした。夕霧は昼寝にいそしんでいてユウダミはどうやらその町に向かったようである。夕霧が止まっている場所は、町の関所のような場所のようだ。

 ……状況が理解できない。彼はなぜ入らないのだろうか?……そういえば、夕霧は高いところが苦手と公言していた。ワタシはそれを思い出し、合点がいき、そののちに関所に向かった。服装は気にせずに。関所には、二十代後半の男性が槍を構えていた。ワタシは、どう話しかけようか迷ったが、どうやら向こうは、ユウダミの連れだという事を理解しているらしく、こう切り出した。ワタシの格好に興味を示しながら。


「薬学師の先生の連れさんだね?ずいぶんとハイカラな服だ。どこから来たんだいお嬢さん」


 ああ。ワタシの背の話はやめていただきたい。

 その喋り方はどうやら六歳ほど若く見られているようであるがワタシは十六歳であるから一桁違うし何よりワタシは幼いと言われるのがあまり好きではない。…言葉で伝えても無駄なことはわかっているし、会話になるのが嫌な私は、いやいやながらも肯定を表して首を縦に振った。それを彼はどうやら恥ずかしがり屋であるから。と勘違いしたらしく、少し私の頭をなで村の中に入れた。子ども扱いに多少の不満と、憤りを感じるが、ワタシは気にしないことにしたのである。


「薬学師の先生は中央にいるよ」

「ありがとう」


 頭を下げて、敬意を表して。彼が聞こえない声音で言った。感謝は伝えなければならないんだろうけど、ワタシは会話が嫌いだから独り言を言った。門番の青年は、ワタシに対して少し手を振っていた。ワタシはそれを一目し、動く街の中に入っていく。


 別にユウダミのことは関係ないというのも、無駄な話。


 賑やかな街だ。

 急こう配の絶壁が印象的で、所々に設置されている手すり越しで見ていても少し怖い街。

 一つ一つの段差になっている生活空間は長ったらしいけど狭くて、家一軒のスペースを使うと交通に多少不便といったような道幅であった。だけども、人々の賑やかさは変わらないらしい。家々は住宅地と商店街のような店が連なる区画に分かれているらしく、私が今歩いている店が乱立しているところは、別名”ソウ”と呼ばれている建物群のようだ。ワタシは、一段目を降り、二段目の層にて休憩をしていた。この町は長く、人が多くて困る。


 書物を扱うお店は、早々に見つかった。


 ただ、この町の人は、そのようなものに興味を覚えないらしい。


 広い店内のわりに、客がワタシともう一人といった状態の店の中で、店主がいろいろと話を聞けたのは印象に残る。その中でも一番変わったことといえば、この町の食事事情だ。

 この町の住人は、どうやら石を食うらしい。この町に新しく引っ越したばかりだそうで、その風習がとても奇妙で面白いと彼は話していた。石を食うとはあまり聞きなれないが、どうやって食べるのか。ワタシは興味がないわけではない。だけども、興味はあってもそこまでだ。何せ、ワタシはユウダミのような人ではないのだ。

 ワタシは荷物になった二冊の本を、両手で抱くように持って上に上がるための階段に向かおうとした。…だけど、ワタシは足を止め。ユウダミを探すことを少し考え……。町の中心にいくことにした。


 ユウダミはあまり道を覚えるのが得意ではないからである。

 

 

「はぁ。」


 ワタシは小さく、息を吐いた。

 至る所から聞こえる鉄の音は、その町がどのように発展してきたかを物語る歴史のようなもので、そこら中から見える蒸気は町を充満するにおいの元、鉄の匂い、少しばかりの硫黄のにおいも混じっているようで、……この町の匂いは、あまり好きになれそうになさそうで…私は少し息を吐き出した。中心に近づくほど匂いはきつくなり、あまり人が住むには快適さが置いて行かれているような街である。

 中心に向かって降りるほどに新しい家々が見える。先ほど見た通りであったが、遠目から見る印象とは別なものがある。……あまり裕福でなさそうな服装の人々の姿が多くなっていく。きつくなる匂い。衛生的とは思えない光景と気温。確かに新しく建てられた建物と散乱しているゴミ。上層部では賑やかであり、比較的きれいな町並みであった情景も、だいぶ鮮やかではない薄汚れた光景に変わっていく。それも、絵家だけが真新しいという奇妙な情景。

 それらが変わる要因は、ワタシの足であり、情景を見続けているワタシの目であり、なにより、ワタシの行動。


 「安くしとくよ。」


    

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