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雨と気だるげ

 土と水が混ざり合った匂い。


 雨音が聞こえたもので薄目を開けた。周囲は薄暗く、自分が乗っている荷馬車が揺れていることだけが分かる。そして、何より私は寝ていたらしいことも理解した。どうやらユウダミも中に入って寝ているらしく、小さな寝息だけがかすかに聞こえる。夕霧は、休まずに荷馬車を動かしているようだ。先ほどまで日が射していたが、室内は少し肌寒い。気温は十度を下回っている程度だろうか?雨を遮る天井があるだけでも御の字ではあるが、寒い事には変わらないので、私は少し文句を言うことにした。独り言は余計なことであるが、寒いことは伝えなければならない。


「寒い」


 一人で話す分には、別に苦にはならない。

   

 会話ではなくただの単語だ。動詞、形容詞、形容動詞とか複雑な単語を組み合わせた文ではなく、ただの意思表示であり、簡潔的な小さい一言に過ぎない。何より、それはただの言葉であり、会話ではない。ワタシは丸まり、荷の中に備え付けてあった一枚の毛布を取った。あれからどれくらいの時間が過ぎたかはわからないが、もう寝る気にはならない。目をつぶるのは好きであるし、あまり夢を見たないたちのワタシとしては、睡眠は好意的な行為であるが、私はそれをする気がなかった。だから、私は毛布を膝にかけ少し丸まり、つまらない書籍の続きを見ることにした。室内は薄暗いが、夜目が効く私の目には、紙媒体の文の序列がぼんやりとであるが見える……見える…が。


 …読みづらい。


 遺憾ではあるが、ランプを使おうかと迷っていると、規則正しかったユウダミの寝息に小さくうなった声が混じっていた。どうやら彼は寒いらしい。先ほどまで丸まっていた体をさらに丸める。ワタシは少し考えて、もう一枚の毛布を取りだした。動くのが嫌いであるゆえに、少々悩んだものだが、風邪をひかれた場合の労力を考えてみると、引かれなかった場合のほうが数段手間がかからないことを考慮し、ワタシにとってそちらの方が動かないことを考えて、ワタシは毛布をユウダミにかけた。彼は少しうなった後、静かに寝息を立てる。


 ワタシは…何をしたかったのだろうか。


 ………ああそうだ。…ランプ。

 だが、先ほどランプに使用するはずであった労力は使い果たした。これ以上動くのは、ワタシとしての行動原理に反する。ワタシは、動くのが嫌いだったから。


 ワタシはおとなしく雨の音を聞くことにした。


 夕霧は、何やら鼻歌を歌っているらしく、雨音でかき消されそうな小さな声が聞こえる。

 その音は、どこか懐かしく。どこか寂しそうであり。ワタシの目をもう一度重くする。







 ……気が付けば、意識が遠のいていて…。





 ____ただ、雨の音だけが聞こえた。

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