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ユウダミ

 なだらかななだらかな道が続いている。


 「それで?そのインキ臭い石はなんだ。飯をもらう予定だったはずだろ?私は早く飯が食いたいんだ。私はユウダミの様に小食ではないし、レイの様に食事を必要としないわけではないからね。そろそろ食料が尽きるという理由で店に入ったのだろう?なのに、目的と行動が一致していない。このトリルを引っ張るのだって動力源とエネルギーが必要なのは知っているだろう?私が動かなくなってはどうしようもないのはご周知のとおりだろう?」


 夕霧は一人大きな独り言を言いながらも、その速度を緩めずに道を歩いていた。化け猫が異形である所以は、普通の猫が大多数の認識であったからであり、日頃から化け猫と生活を共にしていると、化け猫というより”デカいネコみたいな何か”という認識に染まっていく。それも慣れのせいだろう。というよりおかげか。化け猫という認識のまま生活していれば、おちおち夜も共にできない。……この言い方だと少々誤解を含む言い方になる…。おちおち蹴飛ばすこともできない。……が正しいだろうか。


 「それは仕方がないよ夕霧。何せ、あそこは石の店だ」


 夕霧の独り言が、ユウダミのせいで会話と変わった。

 

 まあ、予想していることではある。夕霧とユウダミの関係はワタシから見ても良好なものだ。文句が多い夕霧に対して、少し変なところがあるが、他人を尊重できるタイプのユウダミは相性がいい。

 ワタシは、その二人に染まることなく、先ほど手に入れた書籍を読んでいる。本を読むのは好きだ。これは動画ではないし、生き物でもない。ただ少し、動いている。という自覚はするが、それも他のものと比べれば些細なものだ。

 絵も好きではあるが、ワタシが似合うのは前者の方である。…だから。


 ユウダミが風景の話をしてきた。

 ワタシは、首を振って感情を伝える。

 ユウダミはあきらめて、彼らの話に戻った。


 「なるほど。バカみたいに大きな煙突はそのためか。お気の毒だね。あの彼も。……いや。あれは望んでそうしたのか。知識がないのは罪だねぇ。…中途半端な知識を活用しようとするのも罪だねぇ。それで?彼は霧だったのい? それとも積かい?」


 ちなみに、食料うんぬんかんぬんの話は実話であり、興味を覚えたユウダミが夕霧に対して口実を作ったというだけの話だ。まあ、夕霧は刻々承知ではあったが、腹黒いことを信条とする身としては悪口の一つも言わなければ反するというわけであろう。


 「積だろうね。死因はだけど……。彼は妙に保存がよかった」

 「それはかわいそうに。南無南無だ」

 「なにそれ。」


 ワタシはつぶやいた。

 ワタシの性格を知っている夕霧は、いつもの様に軽口を叩こうとしたがその前にユウダミが説明を始める。私は本から顔を放さぬまま、説明を聞く準備に取り掛かった。とはいっても、聞き耳を立てるだけであったが…。ワタシは構わずページをめくった。

「霧病という病気があってね。口石はその病気を治すときに使うのさ」

「薬ってこと?」

「薬って言ったら薬だね。だが”使ってはいけない薬だ”」


 この世界の麻薬みたいなものか。


「量を間違えるとほかの病気になってしまうのさ。それも、薬学草以上に扱いが難しい。処方薬としては使えない。”使いにくいんではなく、使えない”。何せ、患者がどれくらいの分量を使わなければいけないのか。それすらも曖昧な薬だからねぇ。口石を分量以上使うとなってしまうのが積っていう病気な訳。ま、レイには関係ないさ。何せ死なないんだから病気になっても意味がない。病気は健康であったことの証で、動くモノの証だ。動くモノであるならあるはずの予想外の故障。それがない君が気にする話ではないだろう?昔はどうだったかは分らないけどね」


 ……そうですか。

 まあ、これ以上深くは話してくれないだろう。これ以上は彼らの仕事の話であり、ワタシには関係ない話だ。ワタシは彼らの話を聞くのをあきらめ、書籍に集中することにした。書籍の内容は、ワタシ好みのものではなかったが、それでも、永遠と続く進む光景を見るよりはまだましである。故に文字を追い、内容を理解し、また、小さく息を吐いた。






 ワタシは少し、目を閉じた。

    

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