アドニスたちのお茶会
エーディットが、ユリアナ・ボスフェルトにお茶会に招かれたのは、冬の寒さが体を震わせる頃だった。
家の中で、暖炉を囲み、ほのかにバラの香りのする紅茶を口にする。
「本当は、もっと良い季節にお呼びしたかったのよ。今日みたいに寒い日じゃなくて。お庭だって、自慢したいのに。」
「お招きいただけて、嬉しいです。お庭を見られないのは残念ですが。」
「あなたって、本当に可愛らしいわ。夫が反対さえしなければ、もっと早く会えたのに。」
「……エデゥアルト侯爵様が?」
「アルト様ったら、新婚なんだから、邪魔をするなの一点張りなのよ。」
ボスフェルトの当主は、ラウレンスより若く、すでに侯爵位を継いでいる。父親の不慮の事故によるものだが、その事故にラウレンスが関わっているかは知らない。
ただ、前当主が決して賢い人物ではなかったことは、有名な話だった。賢くない人は、ファンデルの周りに必要ない。
だから、エデゥアルトは、エーディットを招くことに反対していたのだ。ファンデルに認められていないエーディットを呼ぶことは、意味のない行為だと思ったのだろう。
ユリアナにお茶会に招かれた時、エーディットはラウレンスに尋ねた。
「ユリアナ様は、知っていらっしゃいますか?」
「……いや。アルトは、甘ちゃんだから。」
「どういう意味ですか?」
「大切なものには、何も知らせず、真綿にくるんで嫌なものを何も見せようとしない。アルトは、あの冷徹な見た目とは裏腹にね、大事なものには夢を見せていたいみたい。」
そう、あなたの見た目と、反対なのね。
大切なものに、ずっと夢を見させてくれる。残酷だけど、優しくて、甘やかで、ずるい。
まるで、恋愛小説みたいだ。
「エーディット様?」
「……きれいな花、ですね。」
夏の花を集めたドライフラワーが、暖炉の上に飾られている。
「誕生日に、アルト様が、下さったの。いろんなプレゼントをもらったけど、あの花もどうしてもとっておきたくて、ドライフラワーにしてもらったのよ。」
ドライフラワーに使われている花はどれも、とても綺麗だった。
「一本一本、アルト様が選んだのですって。それを聞いただけで、嬉しかったわ。」
きっと、エデゥアルトは、ユリアナを想像しながら、花を選んだのだろう。今日も、似合わない色のドレスを身に着けている自分が、急に哀れになった。
「嫌だわ、私のことばかり。エーディット様は新婚なのだから、あなたの話を教えてちょうだい。」
「ええ、そうですわね……」
何を話せばいいのだろうか。不仲であるわけではない。会えば、微笑みあい、談笑して、家政を任せられている。でも、エーディットには、ユリアナに話せることが何もなかった。
父は確かに言っていた。ラウレンスは、エーディットを不幸せにはしない。
そう、不幸せではない。これが、幸せか聞かれたら、分からなかったけど。
自分には華やかすぎる色のドレスのしわを指先でなぞって、エーディットは、淡い思い出に思い切り花を添えて話し続けた。
「そうだわ!冬の間に、一度、晩餐会を開くの。エーディット様は、社交に不慣れでらっしゃるのでしょう?アルト様の部下の方が多いし、その奥様達も呼ぶのよ。みんな、私のお友達だし、エーディット様もなじめると思うわ。」
「でも、夫に聞いてみないことには……」
「私から、アルト様にお願いするわ!独身の頃、ラウレンス様もいらしていたし、同僚たちへのお披露目にはぴったりだもの。」
似合わないイブニングドレスに華やかすぎるアクセサリーを身に着けた自分を想像する。
なんて、哀れなんだろうか。不幸せではないという言葉さえ、嘘であるように思えた。




