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その四「命令」

ぞろぞろと大人たちが部屋に流れ込んで来た。

黒く分厚い服に身を包み各々が対個人には使わないような軍隊を想定しているような銃を装備している。


ここにいるのはただの実験体が二人。

それほどまでに危険視するほどではないはずだが彼らにはそうするだけの理由があるのだろう。


そして最後に来たのは白衣を着た一際偉そうな態度をした、青年のように見える男。

金髪に凛とした緑色の瞳、病的な白い肌をしており身体の細さから少し健康状態が悪いのが伺える。

きっと身なりにさえ気をつければ精悍で女性受けも良さそうな容姿をしていそうなものだが根っからの研究者なのだろう、気にしてすらいないように見えヒゲも邪魔にならない程度の剃り方しかしていない。


だがあの人自身、Jは何度か実験で見たことがある。この施設でも一番偉いとかなんとかで彼主体で実験の工程や進捗を進めているという話だ。


「A-00、検査は完了したのか。」


「…はいはい、終わりましたよ。他の子たちと変わりなし、正常に人間になってしまったからね。」


容姿の割に低めの声が響く。

こちらを見る彼の視線には嫌悪感と好奇心が混ざっているように感じる。

キツい目付きはそれだけで威圧感があるものだがそれが以前見た時よりも自分を見る視線は強くなっている。


こちらのことを気に入らないのはわかった。

自分たちが消費するためだけに造ってきた消耗品が突然、人間と同じだけの理性と知性を得たのだ。

それもたまにあるような一人二人くらいの事故ではなくほとんど全員がである。

実験は遅れる、新たに用意するにも同じような事態になるかもわからない状況で実験を進めることも出来ず不愉快なんだろう。

それと同時にいつものように処理しない辺りこちらに興味もある、と言ったところだろうか。


Aはというとせっかくの時間が邪魔されたと不機嫌そうになるが大人たちの前ではそんな顔は普通しない。

多少、と言いつつ全然隠すつもりもなくあからさまにムスッとした顔をしたままシーツを拾い上げ自分の身体を隠してベッドから降りる。


「まったく、キミたちはデリカシーがないよね。せっかくJ君と楽しんでたってのにさ。」

「そんなことはどうだって良い。それで、原因はわかったのか?」


楽しんでいたのはお姉ちゃんだけで僕はまったく楽しんでいない。

そうツッコミたかったがそんな雰囲気でもなさそうだ。


飄々とした態度とは裏腹に銃口の半分はAの方へと向けられている。

きっと、原因が自分たちであるなら即座に処分するつもりなんだろう。


そうされないのは不確定な要素が強いから。

Jを処分したとして事態が良くなるのならそうするだろうが、なにもなかった場合貴重なサンプルを一つ失うことになる。


施設の責任者であり総括を務めるクロードは顔をしかめる。

この事件を起こしたのが他のサブユニットクラスなら即座に処分して残った身体を解析に回したものを。

Jは運の良いことにメインユニットクラスだ。

変えの中々利かないクラスの成功体である以上、なんの代替案もなく処分するのはもったいない。


そしてなにより…。


「原因もなにも私たちは関係ないって、ちゃんと資料も証拠も出しただろ。あんまり疑うならG棟のヤツ等を解き放っちゃうよ。」


A-00のこの執着具合だ。

以前からJ_ナンバーズでもこの個体に対して特別扱いをしていたがバグが起こって以降更に顕著になっている。


「それは上位命令権のある俺に対して脅しているつもりか?」


マザーと呼ばれているとはいえ所詮は設定されたシステムだ。

いくら意識を持とうと逆らえるはずがない。


「もちろん。ブラフだと思うならやってみるかい?」

「……いや、止めておこう。お前を敵に回すのは原因が判明してからだ。」


が、現在起きているバグはこちらの想定外だらけだ。

もし、本当にこちらの指示を無視することまで出来るとしたら…。


そこまでの可能性を考えてその可能性を切り捨てる。

出来たとしても本気でかかればマザーの支援なしでも鎮圧する程度ならどうにでもなる。


だがそれでは意味がない。

多くの研究員と時間があまりにも無駄に消費される。

無駄はあまり好きではない。

コイツラはすべて貴重ではないが生み出すのにも時間が掛かっている。

それをただで消費したとあってはスポンサーにも批難されてしまうことはこちらも不本意だ。


「J-05。この事件の原因はお前では無いかもしれないが事の発端はお前であることは確定している。」


しばらく考え口を開く。

現在起きていることは不測の事態ではあるが同時にこれまで倫理的に禁止されていたいくつかの実験を行うにはちょうどいい。

なにしろ現段階のコイツラの扱いは全て不良品か、または処分猶予扱いとなっているからだ。


つまり何をしても問題はない。

スポンサーも一つ一つを調べて扱いを決定していく事も無いだろう。

要は結果さえ出せばいいのだから。


「そこで貴様にはデザイナーナンバーズを取り纏めZ区画を開拓してもらう。」


「なっ、…?!私は反対するよ。そんな所で何も知らないみんなが生き残れるはずがないじゃないか!!」


事情を知っているマザーは反対するのは当たり前だろう。

あそこはこちらの職員ですら踏み入れる者がいない特別区だ。


「何を言っている、もちろんお前にも行ってもらう。」


自我を持ってしまったマザーなどという異物は早々に厄介払いするべきである。

幸いにも現在は彼女がいなくても可動する程度ならば問題はない。

緊急時に備えて使えるメインユニットクラスもすでにいくつか確保している。


「……くそ、あぁわかった。その指示には従ってやる。」

「では、J-05。三日の間に志願者を集めろ。それ以外は是非に関わらずこれまでと同じ扱いをさせてもらう。」


ガリっと忌々しげに爪を噛みA-00が睨んでいる。


無理矢理納得したという雰囲気だ。

お姉ちゃんの表情からきっと彼の指定した区画はとんでもない所なんだろう。


「チョット待って!!全員じゃないの?!」


だがそれよりも聞かなきゃ行けないことがある。

志願者を集めろと言った。

つまり、彼らに拒否される可能性もあるという事だ。


「Z区の情報については明日ナンバーズ全員に告知する。それでどれだけ集まるかは知らんが貴様にはそこの指揮をとってもらう。」


わざわざこれまでライブラリにもなかった情報を開示するというのだ。

きっとどれくらい集まるかもすでに計算されているに違いない。


生き残れる可能性もないと思われているんだろう。


残念ながらそれを拒否することは出来ない。

お姉ちゃんが僕を庇っているから敵対しない素振りをしているだけできっと本当に都合が悪くなれば躊躇なく処分するつもりだろう。


つまりは実験の一環として未確認区画へ行き反応を見るのが目的なんだろう。

人数なんかはきっと二の次でその区画のサンプルが欲しいだけなんだ。


最悪僕とお姉ちゃんの二人だけで行くことになるんだろうけどこれまでの事を考えればそれでも構わないと思ってしまった。


「わ、わかりました。」

「では三日後だ。後は好きにしたまえ。」


不本意ではあるがきっと今処分されるよりはマシなんだろうと考え頷く。


銃が一斉に降ろされ一糸乱れぬ隊列が形成され打ち合わせもなくぶつかる事もなく同じ速度同じ歩幅で順に部屋から出て行く。


あの統率の具合からしてG棟の制圧部隊だろう。

化け物退治専門で施設でも指折りの戦闘集団だと記憶にある。

彼らがようやく消えて肩の力が抜けた。


だが、やることは多くなってしまった。

これから何が起こるのかわからないがとりあえずはすべきことをしなければと、幼い身体と心で決心するのであった。

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