特訓とスノーボルトの決意
「助けに行きましょう。」
ヒューストンはかなりモルフェスの身を案じていた。しかしスタインは待ったをかけた。
「いや、今いけばスノーボルトが思い通り動いてくれず負ける危険性があるんだ。フレームを命令性のリモコン式に変える事は出来るが、それには18時間はかかる。」
「18時間。」
ボルトは言った。
「人間の脳波が入ってる所にまた入れ直すとコンピューターがおかしくなる可能性もある。」
「やはり彼の心を変えるしかない。ヒューストンさん、また彼の特訓に付き合ってくれんか。」
ヒューストンはクレーン車に乗った。向こう側にはスノーボルトがいる。
「よし、行くぞ!」
ごうごうと音を立てクレーン車は向かっていった。クレーンの先には半径1メートル近い鉄球がついている。ヒューストンはクレーンを引っ張って鉄球を揺らし勢いをつけた、そしてスノーボルトに向かって投げかけた。スノーボルトは受け止める姿勢をとった。そして鉄球を見事に受け止めた。足が少し後ずさったが。手や足は震えながらも必死に鉄球を受け止めている。そして、
「うおお!」
と言う叫びと共に投げ返した。ヒューストンは言った。
「よし、今度は鉄球を殴るんだ。」
ヒューストンは再度鉄球を放った。スノーボルトは直立状態から拳を握って引き絞り力をため、思い切り向かってくる鉄球を殴った。鉄球には穴があきひびがはいり、金属の粉がこぼれた。
「よし、次は岩だ。」
2人は人のいない所に行き、スノーボルトは山岳の岩を思い切り何発も殴った。はたから見ていても人間のように気合が入っていた。空手やボクシングの選手の様だった。何発か殴った所でヒューストンは止めた。
「どうだ?汗をかくとすがすがしくなるだろ。」
「俺は汗かかないよ。」
ヒューストンは拍子抜けした。
「屁理屈こねだな!」
「あんたに俺の、ハンザ・ペーターの何がわかるんだ!」
「わからないよ。でも今モルフェス博士を救えるのはお前だけなんだ。」
「どうせあんたは見てるだけで戦わないんだろう。」
ヒューストンは泣き言を言った。特訓の付き合いで疲れイライラしていた。手の焼ける子供に言う気分だった。
「考え付くかぎりの事はやったのですが、いまいち真面目になりません。」
スタインは腕を組み考え込んだ。
「うーん。まず彼を理解せねばならないかもしれん。」
ヒューストンははっとした。これまで自分の言う事ばかり押しつけ、彼の事は何も知ろうとしなかった。対話をしているようでしていなかった事に。力不足と共に無神経さを感じた。
「そうか、俺は人間状態の彼を何も知らなかった。だからわかってくれないんだ。」
「知る方法があるが試してみるか?このヘッドホンを付けてから軽い催眠状態に入るんだ。そうすれば彼の過去の記憶が君に見えるようになる。全部ではないがな。」
ヒューストンはこわごわヘッドホンを付けた。これを見れば彼の過去がわかる。しかし一方でどうやるとあんなひねくれた性格になるのか。過去に何があったのか、それとも生まれつきか。知るのが怖かった。何より他人の過去を除くのが後ろめたかった。
ヒューストンはヘッドホンをつけ寝台で軽い眠りに入った。すると何か映像が見えてきた。そこには雪山で吹雪の中遭難して歩き回る子供がいた。激しい吹雪の中、親を探しているようだった。
「これは、ペーター君か?」
雪山を歩いている映像は一旦途切れた。
「どうなったんだ・・」
しばらくするとその子供が漁師に背負われ、船で漕ぎ出し漁に行く姿が見えた。
「この漁師は父親か?」
しかししばらくすると映像の漁師が言った。
「ほら頑張れ、お前は1人で生きてかなきゃならないんだ。」
「わかってる。両親が僕を吹雪の中に捨てたから。」
その後映像の中の少年はだんだんと大きくなったが、いつも漁ばかりで遊んでいる姿が無かった。いつも疲れているようだった。しばらくしてヒューストンは目が覚めた。
スタインは聞いた。
「何かわかったかね?」
「・・僕なんかがわかる事じゃないですけど、相当不幸な目にあったようです。」
しばらくして電話がまたかかってきた。
「まだ来ないのかね?こないんならモルフェスがどうなるかわかるな?殺すのは後としてまずは拷問から行くか。」
スタインは慌てた。
「待ってくれ、必ず行く!だからそれまで・・」
ヒューストンが来たところにスノーボルトも来た。スノーボルトは言った。
「あのおじさんが捕まったのか。」
「あ、ああ。」
「俺が行く。」
「えっ!」
「でもその前に。」
スノーボルトはスタインに言った。
「俺の脳を正しい心が持てるよう改造してくれ。」
「ええ!」
スタインは答えた。
「残念だが、その技術は儂にはない。」
「わかった、じゃあ俺が助けに行く。」
「僕も行く。」
ヒューストンが言うとスノーボルトは答えた。
「俺一人で行く。あんたは行くと危ない。」
「えっ、いやしかし、お前1人じゃ。」
「大丈夫だ。」
スタインは言った。
「よしこうしよう。今回だけヒューストンさんが付いていく。危なくなったら逃げると言う事にしよう。」
スノーボルトはうなずいた。
「わかった。行こう。」




