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魔法と交わる現代武術  作者: ゆたなるい
第一章 邂逅の姫君
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第06話 騎士との激突




 突如襲い掛かってきた異世界の騎士―――ルスラン・フラトコフ。

 片手に大槍を携え、魔法を扱うその襲撃者に和輝は無手で対峙する。

 魔法を素手で粉砕してみせた和輝を見て、ルスランは獰猛な笑みを口元に浮かべた。


「面白ェじゃねぇか……」


 数歩前に歩み、腰を落として槍を構える。明らかな戦闘態勢。和輝を自身の天敵として見定めた証。

 鋭い眼光で正面を見据える和輝は、じっと構えを崩さずにルスランの動きをマークする。


「テメェがあのユリアンをぶちのめしたって話、嘘じゃなさそうだ。つまんねぇ任務だと思ってたがコイツぁ嬉しい誤算だなぁ!」


 狼のような眼光が見開かれる。

 開戦の狼煙はない。

 次の瞬間、ルスランの脚が地面を蹴り上げ、一陣の風に乗って和輝へ向けて猛進した。


「精々楽しませてみろよ! 小僧!」


 直進するルスランの速度は確実に常人のそれを超え、交錯は刹那。

 速度を上乗せされた大槍の一閃が、和輝目掛けて繰り出された。

 あまりにも速く、あまりにも強靭な一撃。モロに受ければ致命傷は免れない。


「……っ!」


 しかし和輝は一切焦りを見せることなく反応を示し、体を一歩右へ。空気を突き抜ける大槍が脇腹の僅か数センチ横を通り抜け、地面に深々と突き刺さる。

 まるで豆腐に箸を通したかのようにあっさりと沈み込んでいく刃。それだけで、奴の振るう筋力と技量、そして槍そのものの切れ味がいかほどのものかを想像できる。

 ルスランの攻撃はそれに留まらない。

 回避した和輝に反撃の暇を与えまいとするかのように、突如こちらの足元が小さくひび割れる。それが何を意味するかを、和輝はすでに何度か目にしていた。


(魔法か!)


 反撃は行わず、続けてさらに回避。膝をバネのように弾き後方へ跳び退る。

 直後、その座標から隆起したコンクリートの槍が天井目掛けて突き出された。飛び散る細かい破片が体を打つが、その程度は気にしない。体勢を整えつつ再度正面へと向き直る。

 だが、


「おせぇ!!」


 和輝が再び構えようとした時、すでにルスランは次の攻撃態勢に移っていた。

 横薙ぎに振るわれる大槍。慌てて身を屈め、寸でのところでやり過ごす。一瞬遅れてやってくる風圧が頬を撫でる。

 その風を感じた瞬間には、再びルスランの魔法が発動していた。

 奴の足元左右が捲れ上がり、和輝目掛けて水平方向に隆起するコンクリートの二本の槍。合間なく繰り出される魔法は確実に命を刈り取らんと突き進み、屈んでいた和輝は腕の力も利用して大きく跳び上がった。

 1.5メートルほど跳ぶ体。

 丁度その真下を、二本の岩槍が掠めていく。

 砕かれたコンクリートで形成されたその槍の上に爪先で着地する。しかし、その着地の瞬間を狙うかのごとく、ルスランの持つ大槍が頭上から振り下ろされた。

 ゴウッ! と空気を食い潰す一撃にそれでも尚和輝は反応する。ほとんど背中から飛び込むように真後ろへと飛び退き、股下を槍の切っ先が通り抜け、コンクリートの槍を粉々に砕き地面を叩き潰す。迫る連撃を何とか回避し切った和輝は、数メートルほどゴロゴロと転がったところでピタリと停止し、二の足で踏み止まった。

 荒い息を吐きつつ、正面を見据える。

 ルスランは余裕の表情のまま、振り下ろした槍をゆっくり持ち上げた。


「ハッ! ヒョロヒョロと逃げ回るのは随分と得意みたいじゃねぇか。だがいつまでそれが持つかねぇ!」


 挑発的なルスランの言葉に、しかし和輝はほとんど話を聞いていない。

 奴の握り締める大槍。地面から繰り出された魔法による岩の槍。それらをじっくりと見つめつつ、この状況の中必死に頭の中で分析を行っていた。


(あの地面を砕いて槍を作り出す魔法……あれがあいつの主力みたいだな。大槍を振り抜いた直後の隙を魔法で埋めて、絶え間なく攻撃を繰り出し続ける。単純だけど、その分しっかりとした戦法だ)


 こちらも評価を改めなければならないと、和輝は目の前の男――いや、魔法使い(メイジ)という存在に対する自己評価を改正する。

 いかんせん、初めてぶっ飛ばした相手は不意打ちで簡単に昏倒させられたり、ここしばらく一緒に行動していたマルタもしっかりしているようでどこか抜けた奴であった。そういった先入観のせいで魔法使いなる連中を甘く見ていたのは否めない。

 しかしこうして面と向かった真剣勝負となれば、やはり印象も変わってくる。

 鍛えられた体。手馴れた武器の扱い。魔法なる不可思議な力を自身の立ち回りに組み込んだ戦略。どこを取っても隙がなく、異世界の住人とはいえ相手は戦闘のプロであるということを思い知らされる。

 実際にこうして何度も魔法を見せ付けられても未だに現実味がないが、こればかりは認めざる終えない。

 相手は強敵だ。

 甘く見ていてはこちらがやられる。決して楽に勝てる相手ではない。

 ルスランの姿を視界の中心に捉えつつ、和輝は再び構えを取った。


(……とはいえ、このままハイそうですかって、アイツを連れてかれるのは納得できないよな)


 チラリと、マルタの方に視線を送る。

 彼女は地面から伸びるコンクリートの槍に全身を拘束され、身動きが取れずにいる。今にも泣き出しそうな、不安げな表情で和輝の背中を見つめていた。

 マルタを取り巻く事情は、一度彼女から話を聞いただけでしっかりとは把握できていない。彼女がどれほどの脅威に立ち向かうために逃走劇を繰り広げているのか、言葉通り住む世界の違う和輝にとってそれこそ荒唐無稽な話である。

 だが。

 ここ数日、同じ屋根の下で暮らして。

 柄にもなく、困ってる女の子を助けたいだなんて思ってしまって。

 面倒だ何だと言いながらも中途半端に踏み込んでしまったからこそ、今更放っておくなんて和輝には無理な話であった。


「待ってろ」


「え?」


 気が付けば、ポツリと言葉が漏れていた。


「アイツを今すぐぶっ飛ばす。だから待ってろ」


 それはある種の勝利宣言。何か言いたげなマルタではあったが、話は後だと言外に伝えるように和輝は視線を正面へと戻す。

 適当な調子で笑うルスランは槍の先端をこちらへ向けた。


「言葉だけは威勢がイイみたいだが……そいつがどこまで続くか見物だなァ!」


 言葉と同時、ルスランは再び地面を蹴り上げる。爆発的な初速と共に、大槍と一体となって直進する。

 和輝はすでにある程度のダメージを受けている。不意打ちで殴られた額からは一筋の血が流れ、無理矢理岩槍を砕いてみせた右拳は今も尚ポタポタと血液が滴り落ちている。

 あまり長期戦となってはこちらが不利。そうなっては結果は目に見えている。

 だからこそ和輝は一直線に向かってくるルスランに対し、回避でも防御でもなく。

 一歩、前へ踏み込む。


「ッ!!」


「!?」


 和輝の前進により、ルスランの想定していた接触のタイミングに僅かなズレが生じる。奴の動きに一瞬の戸惑いが生まれ、それは絶好の機会となる。

 突き進む矛先を上体を捻ることでやり過ごし――交差の瞬間。

 槍の柄をしっかりと両手で握り締めた。


「チッ、離れな!」


 ルスランの対応は早い。槍に掴みかかった和輝をそのまま遠心力で吹き飛ばそうと大振りに振り回す。

 だが生憎、その程度で手を離してしまうほど和輝はやわな鍛え方をしていない。

 柄の先端を握り締めた両の手は決して指を解かず、寧ろルスランが槍を振り回すことによって生まれた遠心力をそのまま全身に乗せ、両手を軸に回転。

 奴の側頭部目掛けて、回転エネルギーを乗せた膝蹴りをお見舞いする。


「ぐっ!?」


 ゴッ! と鈍い音が炸裂。ルスランの体が揺らめき、確かなダメージを受けて一瞬の眩暈に襲われる。

 和輝はその隙を決して見逃さない。

 二の足で地面に着地した直後、今度はこちらからだと言わんばかりに無防備なルスランの懐へと一気に踏み込む。


「はぁっ!」


 すかさず右掌から繰り出された掌底が、ルスランの懐に深く沈みこんだ。


「がっ……!?」


 右手から伝わる確かな手応え。じんわりと返ってくる衝撃が、奴の体に確実なダメージを与えたことを実感させる。

 当然、それだけで攻撃の手は休めない。仰け反ったルスランとの距離を一歩二歩と縮めつつ、更なる連撃を無防備にさらけ出された腹部へと叩き込んでいく。その一発一発が常人であれば意識を確実に刈り取られるほどの威力。繰り出される攻撃の数々がルスランの体力を瞬時に溶かしていく。


(槍の特性上、この距離なら反撃は食らわない――!)


 一見和輝の素手に対して有利とも見える大槍という広範囲武器。だが、そのリーチの長さは決して絶対的なマウントには成り得ない。

 槍の攻撃範囲は広いように見えて、実際には矛部分の僅かな範囲しか存在しない。柄部分も武器とみなし昆のように使うことも可能だが、切れ味がない以上殺傷能力は一段劣る。より手元に近い至近距離は、刀剣の類以上に槍の大きな弱点なのだ。

 つまりその領域まで踏み込んでしまえば、獲物の有無によるアドバンテージは最早存在しない。


(このまま押し切る!!)


 勢いを殺すことなく繰り出される掌底の連撃は、数秒の間に何十発もルスランの肉体に叩き込まれていく。一撃の威力よりも数を優先し、奴に反撃する暇を与えない。


「チ……ィ……ッ! くそったれがぁぁあああ!!」


 ――だが。

 咆哮と共に、靴底で地面を強く踏みしめるルスラン。それと同時に二人の直下がバキバキと音を立ててひび割れて。

 それが一体何の合図なのか――僅かに反応が遅れてしまう。

 直後、ルスランの周囲を囲むようにコンクリートで形成された槍の数々が天井へ向けて突き上がった。まるで剣山のように、魔法の力で形成された防壁が作り出される。


「ぐっ!」


 見てから反応し慌てて後方へ飛び退いたが、うち数本に体が掠める。脇腹と肩が薄く引き裂かれ、鮮血が零れ出る。

 だがこれだけの至近距離。魔法を使用した本人であるルスランも無事では済まない。

 何十本も伸びるコンクリートの剣山の隙間から、奴の体も所々が引き裂かれているのが見えた。あの距離感では術者本人も巻き込むため魔法は使用してこない――そうたかを括っていたが、ルスランも一枚岩ではないということ。

 魔法の影響を離れバラバラと崩れ落ちるコンクリートの奥から、全身を血塗れにしながらもルスランは獰猛に笑う。


「面白ェ……テメェ、最高に楽しませてくれんじゃねぇか!!」


 あれだけの打撃を受け、更には自分自身の魔法によるダメージも上乗せされて、尚もルスランは前傾的な戦闘体制を崩さない。

 自滅覚悟の回避手段をあれだけ平気に使用できるという時点で、やはり奴は強敵であるということ。異世界の騎士とやらも伊達じゃない。


「……来い!」


 構えを取り直し再三の宣戦布告。

 互いにじわじわと体力が減っている以上、ここから先は様子見などせず一気に決めるしかない。肉体、精神共に研ぎ澄まされた臨戦態勢を保ち、一動一挙を見逃すまいと鋭く正面を見据える。

 迎え撃つ和輝へ向けて、槍を腰溜めに構えるルスランが大きく踏み込んだ。


「上等だァ! 小僧!!」


 飛び出したルスランは――その手に握り締める大槍を短く握りなおした。

 柄の内側に入り込まれては不利。それを経て、得意な間合いを短縮しむしろ和輝に合わせるという単純ながらもしっかりとした戦法。

 互いの攻撃が届く距離に接近すると同時、槍の矛先が一筋の光となって一直線に繰り出される。

 だが、今まで同様の大振りな動作ではない。小さく小刻みに、無駄を晒さない最小限の刺突。和輝が回避し切った頃にはすでに槍を引き絞り、再びの刺突を放つ。まるでナイフでも扱っているかのように軽々と、大槍の先端で幾度となる連撃を突き放つ。


(さっきより速い……!)


 後方へじりじりと下がりながら、その悉くをギリギリのタイミングで回避する和輝。だが、突けば突くほど加速していくルスランの攻撃に反撃の隙がなく、焦る一筋の汗が頬を伝う。

 更に和輝を追い詰めるように――槍が振るわれながら、ルスランの魔法が発動する。

 和輝の背後で、ひび割れる地面。後退し続ける和輝を挟み込むように、コンクリートの槍が飛び出してきた。

 前方から繰り出される無数の刺突。後方を迎え撃つ魔法の一撃。

 一瞬の判断が脳内を駆け巡り、咄嗟に和輝は真横へと飛び退いた。

 前転で頭から飛び込むような緊急回避。

 前と後ろから飛び出す凶器の合間を縫うように何とか逃れてみせる―――が。


「そっちは行き止まりだァ!」


 和輝の回避をすでに予想していたように、転がった先から飛び出してくるコンクリートの槍。

 無茶な動作の直後で体勢に無理があった和輝は、それでも無理矢理体を捻る。脇下を突き進む岩槍は体にこそ触れなかったものの、服が引っ掛かり突き破っていく。

 何とかやり過ごした。

 だが。


(しまった、服が引っかかって……!)


 突き抜けた魔法の一撃に服の一部が引っかかってしまい、僅かに体の動きが停止してしまう。

 戦いの場でその一瞬は絶大な隙を生む。

 和輝が気付いたとき、すでにルスランは大槍を振りかざしていた。

 獲物を狙う狼の如くその眼光が煌めき、槍の矛先が確実に和輝の体をロックする。


「こいつで仕舞いだ! くたばりなァ!!」


 確実に標的を殺さんとする必殺の一撃。

 目にも留まらぬ速度で振り抜かれた大槍に、反応が遅れた和輝は体を回避へ移すことができず。


 腹部のど真ん中へと――その一閃が突き刺さった。


「カズキさん!!」


 マルタの悲痛な叫びが響き渡る。

 しかし名を呼ばれた少年はピクリとも動かなくなり……貫通し、背中から飛び出す矛先から赤い液体がボタボタと流れ落ちる。和輝の足元に広がっていく血溜りの量が、決して無事ではないことを意味していた。


「そ、そんな……」


 眼前に広がる光景に、震える声を零すマルタ。

 決定的な一撃を放ったルスランは、顔を下げ、動かなくなった和輝を見下ろしながら満足気に笑みを浮かべた。


「そこそこ楽しませてもらったぜ、小僧」


 誰がどう見たって勝敗は明確。

 ルスランも確実な勝利を確信し、少年に突き刺していた槍をゆっくりと引き抜いた。

 ―――いや。

 ()()()()()()()()


「……は?」


 ポツリと、奴の口から困惑の声が漏れる。

 遠めにその光景を見守るしかなかったマルタも、思わず目を見開く。

 なぜなら―――()()()()()()()

 和輝の左手が槍の柄を握り締め、ルスランに槍を引き抜かせまいと力が込められていた。

 ゆっくりと、少年の顔が持ち上がる。

 前髪から覗く双眸には、未だ力強い光が宿っていた。


「……さっき言っただろ。俺の体は、鍛えるために全身を一度壊し尽くしている。作り変えられた内臓から骨の一本まで、この体が俺の武器だ」


 確実に殺した。そう確信さえしたルスランは、目の前の少年が未だ平気な様子で言葉を紡ぐ姿に愕然と佇む。

 ―――痛みを感じないわけじゃない。

 突き刺されている腹部は、今だって焼けるような激痛を脳に伝えてくる。

 だが、桐嶋和輝にとってそれは些細なことでしかない。

 強烈な痛みをまるで自身の快感とでもするかのように、和輝は薄く笑う。空いた右手を持ち上げて、わざとらしく自身の額を小さく叩いて見せた。


「―――俺を殺したかったら、しっかり頭を狙わないと」


 フッ、という小さな吐息と同時。

 その右手が開いた―――ルスランがそれを目視した瞬間には、掌底が顎に向けて深々と突き刺さっていた。


「ごっ、ぁ……ッ!?」


 顎から打ち上げられ、僅か数センチ宙に浮くその体。

 支えを失った一瞬目掛けて、鞭の様にしなる和輝の蹴り上げがルスランの脇腹に叩き込まれる。肋骨を数本持っていく間違いないクリーンヒット。

 口から血を吐き出し、槍から手を離したルスランの体はいとも容易く後方へと吹き飛んだ。

 ファミレスの食品サンプルが並べられたショーウィンドウへと背中から突っ込み、ガラスを容易に砕いて中へと倒れ込む。バラバラに砕かれたガラス破片の中に埋もれるように倒れるルスランは、尚も全身に切り傷を作りながら立ち上がってみせた。


「く、っそがああ!!」


 大した根性。だが、頑強さでいったら確実にこちらが上を行くと、和輝は自負する。

 ボロボロになりふらつきながらも立ち上がったルスランは、自身の魔法を展開。彼の足元付近が大きくひび割れ、次の瞬間、砕かれたコンクリートで形成された槍が、銃弾のように和輝へ向けて射出されてきた。

 しかし、対する和輝の反応は恐ろしく速い。


「ッ……!」


 歯を食いしばり、自身の腹部に突き刺さった大槍を躊躇いなく片手で引き抜く。体の内側を引き裂く猛烈な痛みが駆け巡り、栓を抜いたように傷口から血が溢れ出すが和輝は物ともしない。

 奪い取ったルスランの槍をいとも容易く操って見せると、飛来する岩槍を迎え撃つように勢い良く振り抜いた。衝突する破砕音が連続して響き、作り出されたそれをコンクリートの破片へと還していく。


「ば、バカなッ!?」


 容易く打ち落とされた自身の魔法に驚愕するルスラン。

 和輝は動きを止めない。振り抜いた体勢から大きく振りかぶり、お返しとばかりに奴の顔面目掛けて大槍をぶん投げた。

 風を食い潰し一筋の矢となって突き進むそれに―――ルスランは疲弊した体力の中、何とか反応して体を逸らす。直後、彼の顔真横に投げ放たれた大槍が深々と突き刺さった。

 それを横目に……ルスランは手元へ返って来た自身の大槍に、思わず手を伸ばす。

 当然だ。それが自身の得意とする獲物である以上、僅かな時間とはいえ奪われたものを取り返すチャンスとなれば誰だって手を伸ばす。

 ―――しかし、その判断こそが最大の命取り。

 ルスランの気が逸れた僅か一瞬の隙に、


 和輝は奴の懐へと深く踏み込んでいた。


「っ!?」


 ルスランは槍の柄を握ったところで、眼前に迫った脅威にようやく気付く。

 だがもう遅い。

 今から槍を引き抜いて迎え撃つことも。魔法の発動だってこの距離であれば間に合わない。

 睨み付ける和輝の眼光がルスランを射抜く。

 その右拳を、岩のように硬く硬く握り締めて。


 ―――鈍い音が周囲に響く。

 繰り出された一発の拳は、ルスランの顔面へと容赦なく叩き込まれた。


 身体毎吹き飛び、再度背中を壁に叩きつけるルスラン。力なく地面へと落下しピクリとも動かなくなる。

 今度こそ、自他共に認める勝敗の結末であった。






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