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7話-トモダチ

4年前


『うわ、くっせぇ』


『トイレで飯食う奴ってどんな気持ちなんだろうな』


 ギャハハ、と下品に笑う男子生徒。僕の存在には気が付かない。気づくはずがない。だって僕は“空気”なんだから。


 ……お前らに僕の気持ちが分かってたまるか。


 もそもそと購買で買ったパンを食べる。酷い臭いのせいで味がしない。

 美味しくはない……よね。


 その時、コンコン、と僕のいる個室のドアがノックされた。今までノックなんか1度もされた事がなかったから、僕は戸惑っていた。


『ねぇ、君、退屈でしょう?』


 大人の声……?

 こんな声の先生はいなかったはずだ。


『僕が何者かなんて知らなくていいんですよ』


 まるで心の中を見透かされているようで、身動きが取れない。その言葉ひとつひとつが冷たくて、心臓を掴まれたみたいに頭の中は恐怖に染まっていた。


『僕と一緒に居れば、退屈しないですよ。』


「ど、どういう……こと、ですか」


 やっとの思いで出した声も震えている。ドアのむこうにある“恐怖”は僕の心臓を掴んだまま、クスクスと笑った。


『正直に言いましょう。君のその目立たない性質に興味があります。』


「…え?」


『僕はそういう類のものを研究している者でして。君を少し調べさせていただきたいのです。あぁ、もちろんタダで、とは言いません。その"能力"をコントロールできるようにして差し上げます。』


「能力…?コントロール…?ちょっと意味が……」


『これ以上のことはここで話すべきではありません。』


 僕が口を開こうとすると、それを制止するようにドアの隙間から一枚の紙が差し出された。


『興味があるのなら、そこにある番号まで連絡をください。』


待っていますよ。と、その男は去っていった。



数日後、僕がその人と連絡を取ったのは言うまでもない。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




『はい、じゃあ引いた番号と同じ席に移動して』


 担任の指示で思い思いの感想を口にしながら移動していく。僕は窓際の一番後ろの席になった。黒板は見えにくい位置だけれど、目立たたない良い席だ。

 しかし問題が一つあった。それは僕の前の席、邪答院(けいとういん)さんの存在。


 彼女はクラスで浮いた存在で、孤立している。ただ存在感の無い僕と違うのは、悪目立ちしているということだ。怖い、と思う反面、かっこいい、とも思っていた。まるで孤高の狼の如く…なんて少し言い過ぎかもしれないが、僕にはそう見えていた。


 その日、久しぶりにあの人から連絡があった。


『邪答院スバルを見張ってください』


 僕は息が止まりそうだった。僕が?邪答院さんを?なんで?


『彼女はギフトについて、猫屋敷(ねこやしき) (らく)について知っています。ユーザーではありませんが、武術・体術に優れています。今後脅威になりかねません。』


 猫屋敷……僕はその名前に聞き覚えがあった。僕の父はとある企業の社長だった。だが、突如会社が倒産したのだ。倒産させられた、というべきだろうか。

 そのせいで優しかった父は豹変し、酒に溺れ、母は僕を置いて家を出て行った。倒産させたのが猫屋敷グループである、ということは後々知ったことだけれど。


『それに君には直接関係ないですが、秘密警察の職員である酒匂(さかわ) 俊二(しゅんじ)の姪なんですよ』


 と付け足すように言った。


『よろしくお願いしますね。』


 面倒くさいことに巻き込まれなきゃいいけどなぁ。いや、あの時連絡を取った時点でもう巻き込まれてるのか。と僕は苦笑した。


 それにしてもタイミングが良すぎる。あの人は席替えのことを知っていたのだろうか。監視されている?

 …そんなことは僕の知るところではないから気にしないでおこう。



 そして幾日か過ぎた。だが特にこれといって動きがある訳でもなく、僕はただただいつも通りの日常を過ごしているだけだった。気配を消して、存在感を無くして。…昔は存在感が無さすぎて車に跳ねられそうになったっけ。

 あの人に出会うまでは、“通りすがりの人”とすら認識されなかったのだった。今は細かい調節ができるようになって、だいぶ過ごしやすくなった。


 あと、僕はもうひとつ、能力(ギフト)を貰った。

 実験体、という形だったけれど、僕はそれを望んで受け入れた。


 『模倣(コピー)』、それがもうひとつの能力。

1度に1つの能力しかコピー出来ないが、上書きしなければ使い続けることができる。ちなみに今は『幻術』が使える。


 ……あの双子、あの歳でよくここまでの幻覚を操れるよね…


 話は変わるがこの元々の体質も使いようによっては悪くないものだ。学校内でゲームをしていても気づかれない。


 今日も僕は自分の席でゲームをしていた。


「なぁ」


 前の席の邪答院さんと目が合う。


「聞いてんの?宇都宮、だっけ?」


 え?今僕に話しかけた?

今は誰の気にも止まらないはずなのに…


「そのゲーム、面白い?」


「えっ…と」


 だが気づいているのは彼女だけだった。


「気になってるんだよね、私も買おうかな…」


 周りには邪答院さんが一人で喋っているように見えてしまっていて、変な目で見られていたけど気にしてないようだった。


「…どした?」


「う、ううん、何でもないよ。このゲーム、面白いけどすぐに飽きちゃうよ」


「そっかー…他におススメのゲームとかある?」


 あまり人と喋らないせいでうまく受け答えできているかわからないけれど、珍しく彼女は少しだけ楽しそうだった。


「おーい、邪答院!何後ろ向いてるんだー!授業中だぞ」


 後ろを向いていたせいで邪答院さんは先生に大きな声で注意をされてしまった。


「ちぇ、めんどくせぇな。宇都宮、昼休み話そうぜ!」


「え、ちょっ、」


 先生に対して文句を言いながらも、邪答院さんは僕が返事をするまえに前を向いてしまった。

……昼休みって…まさかお昼一緒に食べるとかじゃないよね…。






「宇都宮!購買行くぞ!」


「えっえっ…ちょっ、」


 授業が終わった直後、邪答院さんはそう言うと僕の手を引いて教室をすごい勢いで飛び出した。

 やっぱり…嫌な予感はしてたんだ……。


 授業が終わった後だと言うのに購買は色んな人でごった返していた。彼女はそのまま1人で集団の中に突っ込んでいき、あっという間に先頭まで行っていた。

 パンを数個買って戻ってくると、彼女はまた僕の手を引いて歩き出した。

 女の子に触られるのに慣れていないため恥ずかしかったが本人も周囲も気にしていないよう…………と言うより連行されている感がすごい。


「ど、どこ行くの……」


「ん?屋上」


「屋上……って、立ち入り禁止じゃないの?」


 と言いつつ僕も入ったことはあるのだが。


「いーのいーの」


 ドアの前に来ると、立ち入り禁止の貼り紙を無視してドアを開けた。


「あーーーー!!!腹減った」


 そう言いながら買ったパンを頬張り始める。


「あれ、おまえ、昼飯は?」


「えっ、あ……持ってきてない」


「ん」


「えっ?」


 僕の言葉を聞くと自分の買ったパンを1つ、僕の方に差し出した。


「やるっつってんの」


 僕が戸惑っていると、半ば無理矢理僕の口に押し付けた。


「むぐっ…」


「宇都宮ってさぁ、友達いるの?」


「なっ、なんなのさっきから……」


 完全に彼女のペースにのまれていた僕はもうどうする事もできなかった。


「いや、いつも1人でゲームとかばっかしてるからさー」


「別に1人でも問題ないし……昔からだし」


「そっか」


 さっきまで抱えるほどあったはずの大量のパンをあっという間に食べ、最後のひとくちを飲み込むと、彼女は勢い良く立ち上がり僕の目の前に満面の笑みで立った。


「じゃあ私と友達になれ!」


 はあ?……変わった考え方の持ち主とは思っていたけれど、まさかこんな発想に至るなんて思いもしなかった。


「ぼ、僕は別に」


「おまえの意見なんて知るか!私が友達って言ったら友達なんだよ」


「えええ……」


 そんなこんなで僕と邪答院さんは、よくわからないまま『トモダチ』になったのだが。僕にとってそれは良いことなのかそれとも悪いことなのか、それはこの時の僕には知る(よし)もなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『もしもし、宇都宮くん』


「何ですか」


『何ですか…ってわかっているはずでしょう?』


「邪答院さんの事ですよね」


『ええ。その調子でうまく親しげにしていてくださいね。』


「はい、わかってますよ」






















『彼女にはこちら側に来てもらうのですから』

7話での登場人物


宇都宮(うつのみや) 千紅咲(ちぐさ)

性別:男

ギフト:自分の気配や存在感を消すことができる。能力の模倣(コピー)も使えるが、元々持っていたギフトではないため、体力の消耗が激しい。

年齢:14歳

備考:スバルと同じクラス

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