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6話-二つの霧

 俺、酒匂(さかわ) 俊二(しゅんじ)は勤務を終えて、自宅へと向かっていた。


 首の根元まできっちりとしめていたネクタイを少しだけ緩ませながらコンビニに立ち寄り、グレープフルーツのチューハイを2,3個とつまみになるようなものを購入した。明日は休日、久しぶりの休暇で俺は少し気が抜けていたのかもしれない。


 午後10時頃だっただろうか。閑静な住宅街に差し掛かったころ、不意に自分の背後に気配を感じ、振り返ろうとした瞬間、


「……っ!!!」


 とてつもなく固い"何か"で後頭部を殴られた。打ち所が悪かったせいか俺は一瞬で気を失ってしまった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 目が覚めると頭に激痛が走った。どうやら殴られたのは夢ではないらしい。あたりは薄暗く、よく見えなかったが目を凝らすと2つの小さな人影のようなものが見えた。

 もう少し近くに行こうとして、ガシャン、と両手足につけられた鎖に気が付いた。どれほど引っ張ってもびくともしない。


「くそっ…」


 するとクスクスと子供の笑い声がどこからか聞こえてきた。普通ならあの影から聞こえるのだろうと思うのだが、笑い声は自分の頭の奥のほうから聞こえている気がしたのだ。


 幻聴、幻覚。俺はふとそんな考えに辿り着いた。相手がユーザーであるのならあり得ない話ではない。ただ、この手のギフトは禁じられているはずだ。"植え付け"によってしか使えないギフト。裏でそういうものの研究が行われているという噂は耳にしていたが、まさかこんなところで出くわすとは。


「もう気づいちゃったの?」


「つまんない」


 再びどこからともなく声が聞こえた。2つとも幼い声だが、1つは少女、もう1つは少年のものだった。


「ねぇ、みーくん、」


「何、ちーちゃん」


「もっと面白いことしない?」


「いいね」


 そう言った途端、足元から地面を這いずるような音が聞こえてきた。嫌な予感がして下を見ると、蛇がうじゃうじゃと足元を這いずり回っていた。


 まて、落ち着け、これは幻覚だ。


「それ、本物だよ」


「毒ヘビ」


「……っ!!!?」


 一瞬にして血の気が引いていくのがわかった。


「オジサン、瞬間移動、出来るんでしょ?」


「使って逃げればいいじゃない」


 俺のギフトを知ってる……?何故だ。俺のことは身内にすら言ってない。だとするとどこから漏れた?こいつらが侵入してデータを盗んだ?いや、それはない。あそこは厳重なセキュリティで管理されている。こんな子供が安易に入り込めるはずがない……だとすると内通者……か。


「考えてる暇はないよ」


「ほらほら足元」


 俺の能力の弱点まで知ってやがる……とにかくこの鎖をどうにかしねぇと。


「くっ…そ……」


 どうする。両手足塞がってちゃギフトも使えねぇ。かといってこの鎖は力づくじゃ外せそうもねぇ……


「……っ…!!!!」


 今度はどこからとも無く矢のようなものが飛んできた。わざとなのか全て刺さることはなく体を(かす)めて背後の壁に刺さった。


「もっと遊んであげるね」


「ボロボロになるまで」





「っ…はぁ、はぁ、…クソガキが……ってぇ…」


 その言葉通り、俺はもうボロボロだった。為す術もなく、ただ痛めつけられ、体力と精神力を消耗していくだけ。……どうすりゃいいんだよ。


 と、その時。

 何かが破壊される音と共に、ムカつく関西弁の声。


「ほんまに阿呆やねぇ、俊二くん?」


「…よぉ」


「誰!?」


「くるな!」


 幻術使いの双子は想定外の事態に、子犬のように吠えていた。


「あらあら、随分とカワイイ子に遊ばれてたんやね」


「う…るせぇ……遅ぇんだよ……」


 敵が焦ったことにより、足元の毒ヘビは消えていた。やはり偽物だったらしい。


「ウチに幻術はきかへんよ」


 そうだった。こいつのギフト、千里眼は広範囲のものの位置をただ()るだけじゃない。"本物"の位置のみ視ることができる。


「いくら電話しても出ぇへんから何かあったんかと思って探しに来たんよ。ここに来る前に一応、百鬼(なきり)君にも連絡しておいたからもうすぐ来るはずやで」


「……いつ連絡とるような仲になったんだよお前ら」


「ウチが勝手に調べただけや」






「先輩!!大丈夫ですか!?」


 フロアに入ってくるなり百鬼は心配そうに駆け寄ってきた。その時にはもうあの双子はいつの間にか消えていた。

 両手足につけられていた鎖も偽物。あとに残ったのは生々しい傷跡だけだった。たとえ幻でも傷は残るらしい。


「んじゃ、ウチはこれで。」


「俺に用があったんじゃねぇのか」


「……忘れとった」


「おい」


「まぁ、ええわ、ここで話すのもなんやし、後日、な」


 よくわからない意味ありげな言葉を残してまよいは去っていった。


「彼女、本当一体何なんでしょう…」


「何がだ?」


「…あぁ、いや、突然非通知で電話が鳴ったので出てみたら彼女だったので…僕連絡先教えましたっけ…」


 首をかしげながら不思議そうに言う百鬼を見て俺は思わず笑った。


「ちょ、先輩なにわらってるんですか!」


「いいや、なんでもねぇよ」


 そういって痛む体を起こしてゆっくりと立ち上がる。


「ってぇな…」


「肩貸しましょうか?」


「大丈夫だ」





 足元には昨日飲み損ねた酒とつまみの入ったコンビニの袋が落ちていた。





不破(ふわ) 蝶影(ちかげ)深影(みかげ)

性別:女・男

ギフト:幻覚や幻術を使う。

年齢:8歳

備考:一卵性の双子。6年前の事件と直接の関係はないが、少しずつ登場している謎の男との関りがある。

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