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5話-シロとクロ

「行ってきまーす」


 そういって白髪の少年は一人どこかへ出かけて行った。彼が一人で出かけるのは何も珍しいことではない。どこへ行くのかはあえて聞かないことにしている。

 僕に何かを隠していることだって知っている。それが何かはわからなくとも、きっと僕のことを思ってだから。


「さて、天気もいいことだし、僕も久しぶりに出かけようかな」


 連日の雨のせいでろくに外に出ていない。理由はこの足。半年ほど前からあまり動かなくなって、最近では車椅子で生活している。雨の日は不便ということもあってなかなか外出していなかったのだ。


 近くの公園に行く途中、人通りの少ない道路に何か黒いものが落ちているように見え、気になって近づいてみると、それは怪我をした黒い子犬だった。


「後足が折れてる…」


 そっと子犬を拾い上げ、膝の上に置いた。気を失っていたが、命に別状はないようだ。折れた足に手をかざすようにする。

 すると淡いオレンジ色の光を放ちながら、みるみるうちに怪我が治っていった。


「よし、これで大丈夫」


 この子、連れて帰って面倒みよう…。

 そして来た道を戻って家に帰ったのだった。





 次の日、離れから凄い叫び声がしてきた。

急いで行ってみると、黒い子犬に怯える楽の姿があった。それとは反対に子犬は尻尾をぶんぶんと振っている。


「楽……何してるの」


「なななな何ってこっちが聞きてぇよ!!!この犬なんだよ!!うわっ!ちょ、こっちくんなっ!!」


「昨日怪我してるのを見つけて拾ったんだよ。」


「おまっ、俺が動物苦手なの知ってるだろ!」


「うん、知ってるよ、苦手なのに何故か動物が寄ってくるのもね。」


 楽は昔から動物全般が苦手らしい。……動物には好かれているみたいだけれど。



「で、コイツどうするんだよ」


 朝ごはんを食べながら、楽は不機嫌そうな顔をして聞いてきた。


「うーん、飼おうかな……って」


「っはぁ!?」


「一応飼い主探しするつもりだけど、出てこなかったら飼うつもりだよ」


「……ったく……ま、どうせ俺がなんと言おうと変わんねーだろうしな」


「ありがとう」


「……どうせもう名前とか決めてるんだろ?」


 呆れ顔で続ける彼は、少し嫌そうだったけれど結局受け入れてくれるらしい。


「虎徹、なんだけど変かな?」


「いいんじゃね、虎じゃねぇけどな」


 楽は少し笑って思い出したようにこう言った。


「スバルとか喜ぶんじゃねぇか?」


「なんでスバルちゃん?」


「あいつ、結構動物とか可愛いもんとか好きみたいだし」


「そうだね、お昼頃に呼ぼうか」





「〜〜〜っっ!!かっっっわいい……」


 スバルちゃんは目を輝かせながら、虎徹を撫でている。


「でもさ、楽が動物苦手とか意外だったな」


「ちょ、お前、近づけんな!!」


 昔から不思議だと思っていた。楽は異常に動物を嫌う。だが動物は楽に寄っていく。楽に聞いても「俺が知るか」と一蹴された。


「聖?どうした」


 色々考えていると、ひょい、と楽に顔をのぞき込まれ、僕は思わず視線を泳がせてぎこちない笑みを返した。


「なんでもないよ」


僕はそう答えるしか無かった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


3年前



 やばい。僕は助けを呼ぼうと口を開いたが、声が出なかった。息が苦しい。


「……っ…………」


 喉の奥がひゅーひゅーと鳴るだけだ。

 発作で倒れることは何度かあった。だがその時はここまで苦しくなかったし、近くに人もいた。でも今は違う。

 誰もいない。ここで気を失ってもこんな広い家の離れの裏なんて誰も来ないだろう。そう思ったその時、近くの木がガサガサと動く音が聞こえた。


「ちょ、お前、大丈夫か!?」


 生理的に出た涙のせいで霞んだ視界には、白い髪の少年がいた。その少年は同じくらいの背丈の僕を重そうに担ぐと、人のいる方へ運んでくれたのだった。

 僕はその途中で気を失ってしまっていたのでそのあたりのことはよく覚えてないが、目が覚めた時、その少年はボロボロの服装で、僕を助けてくれたお礼に、と出された豪勢な食事にがっついていた。


「ん?おまえ、もう大丈夫なのか」


「うん、助かったよ、ありがとう。それにしても君、あんなところで何してたの?」


「あ。」


 少年はしまった、と言わんばかりにそわそわし始めた。


「いや…その…腹が、減ってて……なんか食えそうな果物の木が生えてたから…」


「あぁ、あの実かぁ。よかった、あの実、おいしそうだけど凄く苦いんだ」


「まじかよ!」


「勝手に良縁寺(りょうえんじ)家の敷地内に入り込んだとはいえ、僕を助けてくれたんだ、このことは僕が御咎めがないよう言っておくよ」


 僕がそういうと、少年はホッとした表情になった。


 この後彼の名前を聞いて家中大騒ぎになったのは言うまでもない。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夕方を少しすぎた頃、僕は自分の散歩も兼ねて虎徹を散歩させていた。

 しばらく行くと、先のほうに薄暗い路地が見えてきた。すると突然、虎徹がその奥を見つめたまま動こうとしなくなってしまった。そして威嚇をするように低く唸っている。


「虎徹……?」


 虎徹の見つめる先……僕は目を凝らした。すると人影が見えた。なんだ、人じゃないか、と安心したその時


『こんにちは』


 その声は周囲を凍りつかせるような冷たいものだった。ただ挨拶をされただけなのに。手の震えが止まらない。声が出ない。怖い。


『あぁ、そんなに怖がらないでよ。君には何もしないから。』


 君には、ね。と念を押すようにその人は言う。ゆっくりと近付いてきて、僕の目の前で立ち止まった。


 その人はにっこりと笑っていたが、仮面のように貼り付いた笑顔で、気味が悪かった。


「……あなたは一体…」


 すると突然死角から何かが僕の視界を横切り、真っ直ぐ男に向かって飛んできた。

 キン、という刃のぶつかる音と共に、1人の女性が男に刀を振り下ろしていた。だがその攻撃は青い光の壁に見事に防がれていた。


「……チッ」


『お久しぶりです、雲類鷲さん』


 突然の出来事で頭がついて行かない。すると僕の真後ろで声がした。


「詳しいことは帰ってお前んとこのバカに聞け」


 その白衣姿の青年は、僕の車椅子のハンドルにもたれかかりながら不愛想に言った。


『あぁ、章くんもいたんですね』


 気味の悪い男は、青年に気づくと嬉しそうに笑ったが、それもまた不気味なものだった。


「……相変わらずだな」


『あぁ、そういえば君は楽くん側に付いたんでしたね。情報屋というのならどちらの味方もすべきではないのに』


「…お前には関係ないだろ」


『いつまでも過去に囚われているようじゃ、何も得られませんよ?』


「……だまれ」


 無表情のままだったが、青年からは言い知れぬ殺気が放たれていた。一方男は、青年とのやり取りをしながら女性の攻撃を全てかわしていた。


「さっさとこの犬連れて帰りな」


 青年はそう言いながら、車椅子をぐるっと反対方向に向けると僕の膝の上に虎徹を乗せた。


「何があっても戻ってくるんじゃねぇぞ」


 彼のいう"バカ"はきっと楽のことだろう。いろいろ聞きたいことは沢山あったのだが、僕は言う通り家に帰ることにした。

 1つ角を曲がったあたりで爆発するようなすごい音が聞こえたが、僕は戻れなかった。



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