3話-悪夢と現実
響き渡る獣の呻き声。
俺にはそれの正体が分からなかった。
ただ目の前に怯える聖とスバルの姿があるだけだった。
声をかけようとするが獣の声に邪魔をされて俺の声は届かない。手を伸ばそうと動かすが、何かに引っかかったような感覚があり動かなかった。足も、首も。
その違和感が何なのか確かめるために、俺は自分の手足を見た。
そこには鎖で繋がれた
獣の足があった。
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「楽、そろそろ起きなよ」
車椅子が移動する音とともに聖の声が聞こえ、容赦なく格子戸が開けられる。
「お前…今何時だと思ってるんだよ……」
まだ起きる時間ではない、と言いたげに聖を見ると、再び布団に潜り込む。
「何時だと思ってるんだって、それは僕の台詞だよ。12時だよ、もう昼!」
と、再び容赦なく布団を剥ぎ取ると、「着替えたらご飯食べにおいで」という言葉を置いて、車椅子で居間へ戻って行った。
もともと身体が悪かった聖は、最近になって足を悪くし、車椅子で生活するようになったのだった。
もちろん、あの車椅子は楽が言霊で具現化したものだ。
1度に複数のものを出したままにするのは不可能だが、あの程度のものなら出し続けることも楽にとって容易だった。
「楽、変な夢でも見た?」
居間へ行くと、聖は楽の顔を除きこみながら尋ねてきた。
「んー、別に?」
俺は出来立てのご飯を頬張りながら首を横に振った。
やらなければいけないことを思い出し、急いで食べ終え「出かけてくる」とだけ言い残して俺はある場所へ向かった。
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住宅街にある高層マンション。そいつはこの建物に住んでいた。
チャイムを数回鳴らす。しかし全く反応がない。
なかなか出てこないのでイライラしていると、不機嫌そうな声とともに、くすんだ金色の髪をした青年が出てきた。寝起きなのか髪はボサボサだった。
「……何、もう薬切れたの」
無愛想な金髪青年、仁科 章はズレたメガネを直しながら俺を見た。
ここの匂いはどうも好きになれない。
様々な薬やら植物やら変な液体の匂いが混ざりあって独特な異臭を放っている。
よくこんな所で生活出来るなと思いつつ要件を手短に伝えると、早速袋に入った薬を持ってきた。
「前のやつより少しだけ強くしてあるから暴走する心配はねぇ。ただし、副作用もそれなりになってるから気を付けろよ」
「……あぁ」
「…お前、いつまでも隠しておけると思ったら間違いだからな。聖くんにもまだ言ってねぇんだろ?」
「……うん」
俺が一番信頼してる聖にすら言ってない秘密。
ギフトとはそもそも、初めから人間の中に存在するもので、後から実験などによって植え付けることは禁じられている。
15年前、俺が1歳の時。俺は猫屋敷の養子になった。それは俺が生まれた時からギフトを発現させている貴重な存在だったから。
というのが本当の理由で、表向きには後継がいないからとされていた。
猫屋敷は裏でギフトの研究をしていた。持つ者と持たざる者の違いやギフトの種類。
更には後付けのギフト『フィードギフト』に至るまで。
そうして俺は5歳の時、ギフトを植え付けられた。
『獣化』
それが植え付けられたもう一つの俺のギフト。
実験は失敗だった。『獣化』という点においては成功だったのかもしれないが、何せコントロールがきかなかった。
要するに理性がぶっ飛んだのだった。
暴走しまくった俺は象なんかに使うような麻酔弾を打ち込まれ、鎖に繋がれた。
気が付けば檻の中だった。何らかの薬を飲まされ、暴走はおさまっていた。
それから5年後、章と出会うことになる。
当時16歳だった章は研究所所長の息子だったため、昔からそういう類に詳しかった。
いつ暴走するか分からない危険因子になった俺にはいつも章がついてきた。
無愛想な奴だったが、他の人に内緒で外に連れ出してくれたこともあった。
こんな面倒な体質に付き合っていけているのも、章が特注で処方している薬のおかげだ。
6年前の事件のとき、章は俺を連れ出した事がバレて俺とは別の部屋に閉じ込められていたが、混乱に乗じて章を連れて逃げたのだった。
あの場にいた俺たち以外の人間は全員死んだということは、後々知った。
「……まぁいい。さっさと帰れ」
用が終わると章は奥の部屋に入っていった。
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その夜、また夢を見た
暗くて冷たいそこには誰もいない。
遠くで叫び声がした気がして、俺は飛び出した。
廊下は血塗れで、いくつもの死体が転がっていた。
「……ここは…屋敷……?」
俺は倒れている死体の服のポケットに手を突っ込むと、鍵を取り出した。章の部屋の鍵だ。
屋敷の中をひたすら走り回った。
だが、走っても走っても走っても走っても辿り着かない。まるで迷路に迷ってしまったかのように。
走り回っていると、血塗れの廊下に1人、人影が見えた。屋敷の中は暗かったが、窓からは月明かりが指していて、そいつの顔を不気味に照らしていた。
俺は気づかれないようにそっと近づく。
「……っ」
月明かりに照らされた血塗れの顔が
こちらを見てニィ、と笑った。
シリアスにしようとして何が書きたいか分からなくなりました←