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2話-降り出す雨


 クラスで浮いた存在である14歳の少女、邪答院(けいとういん)スバルは、特に代わり映えの無い毎日に飽き飽きしていた。


 漫画や小説に出てくるような特殊能力だとか、変わったものに憧れていた。

 しかし彼女は邪答院家の正式な跡取りで、空手や合気道などの様々な武術が得意なのだ。


 そんな特徴的な家系に生まれ育ったにもかかわらず、彼女は心の底から憧れていたのだった。



 つまらない授業をよそに、彼女はある人と出会った時のことを思い出していた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





1年前


『××市××区にある、猫屋敷(ねこやしき)邸が何者かによって襲われるという事件において、本日で丁度5年が経ちました。


 猫屋敷財閥関係者や使用人など、多数死亡が確認された事件ですが、警察は未だ真相を突き止められていない模様です。


 財閥関係者の親族や政府関係者などにより当時殺害されたとみられる方々を(いた)む式が挙げられています。』



 大通りでは毎年話題になっているらしい『猫屋敷殺人事件』は5年経った今も話題に上る大きなニュースであった。

 街中にある巨大画面には立派な洋館が映し出されている。そこは未だに警察や報道陣などで溢れかえっており、事件の深刻さを物語っていた。


 しかし、スバルにとってそんな事はどうでも良かった。今日も1日変わらずつまらない学校生活を送り、やっと解放されたのだ。



 ふと、信号の向こう側の路地に一際目立つ白髪(はくはつ)の男が立っているのが目に入った。

 若々しい服装などからして老人ではないことは確かだったが、白い棒のようなものをくわえていたので、成人をしているのかそれとも…と、かなりどうでもいいことを考えていた。


 その時、その男性から何かを言う声が一際大きく聞こえたと同時に、スバルの真横でとてつもなく大きな衝撃音が聞こえた。



「…っ」



 振り向くとそこには大型のトラックが先程まで無かったはずのコンクリート壁にぶつかっていた。


 そこでスバルははっとする。気を抜いていたせいで赤信号を渡っていたのだ。

 幸いスバルに怪我はなく、スバルは何が起こったのか理解出来ないままその場から立ち上がり、無意識に路地のほうへ逃げ込んでいた。



「何が…起こって…」



 考えることが大の苦手なスバルだったが必死に頭の中を整理する。

 あのコンクリートは一体どこからきたのだろうか。道路のど真ん中にあんな壁が突然現れるはずが無い。



「おい」



 突然誰かに声をかけられ声のする方を見るとそこにはさっきの男がいた。



「気を付けろよ。」



 銀色のような白い髪を赤いカチューシャで上げ、煙草を吸っているように見えたのは棒付きの飴だった。

 近くで見ると思っていたよりかなり若く、歳はスバルとさほど変わらないように感じた。



「なっ…アンタ、さ、さっきの…コンクリート…って…」



 男のことより壁についての好奇心が勝り、少し興奮気味に質問したが、スバルの声は震えてしまっていた。



「見てたのか、んー…ま、いっか。」



 見られたことに対して多少は驚きの表情を見せたものの、案外どうでもよさそうにへへっと笑ってみせた。



「お前、何が好き?」


「えっ…?」


 突然の質問に焦ったスバルは、咄嗟に『りんご』と答えた。

 すると彼は片手をスバルの目の前に差し出し、『りんご』と呟くように言う。と同時に彼の手の上にはりんごが乗っていた。



「…な…にこれ…」


「やるよ」


 彼は持っていたりんごをスバルに手渡すと、もう1度出して、その赤い実に齧り付いた。

 スバルは言葉も出ず、ただ立ち尽くしたままりんごを見つめる。

 りんごだ。手触りも匂いも本物と同じ。



「俺は言霊を使えるんだ。一度見たり触ったりしたものは何でも具現化することが出来る。」



 いいだろ、と彼は得意げに笑って見せる。

 本物なのか気になりスバルも1口齧ってみたが、普通にりんごだった。



「俺は…ってことは他にも特殊能力使えるやつがいるの?」


「いるぞ、結構。俺らの中じゃ、保持者とかユーザーって言うんだ」



 ほら、と彼が指差す方向を見てみると、1人の男性がこちらを見て立っていた。


 今どき珍しい着物の羽織(はおり)姿で、髪は墨で塗りつぶしたように真っ黒だった。背中の真ん中辺りまで長い綺麗な髪を肩より少し下のところで結わえている。


 そして女性のように透けるような肌と整った顔立ちは、真っ黒な髪がそれを更に際立たせていた。



「ほら、じゃないよ(らく)。どれだけ探し回ったと思ってるんだ。」


「悪かったって、怒んなよ」



 彼のことを(らく)と呼ぶその男性は、何故か怒っていた。



「あのさぁ。楽の髪は目立つんだから、あんまり街中歩かないでって言ってるだろ」


(まこと)の服装も目立つと思うんだけど」



 そんな白髪の男性の指摘には触れず、着物の男性は話を続ける。



「で、その子は?」


「あー……車に()かれそうだったから助けた」



 それを聞いて男性の整った顔は更に引きつった。



「街中で能力使ったの…?」



 そういいながら着物の男性は、はぁぁ…とため息をつきながら頭を抱えていた。



「大丈夫だって、心配し過ぎなんだよ(まこと)は」



 2人の会話を聞いている中で、私は何かマズイことに関わってしまったのだろうかと少し不安を感じていた。



「ねぇ、君、名前は?僕は良縁寺(りょうえんじ) (まこと)。楽が迷惑かけたみたいで、ごめんね?」



 しかしそんな考えとは裏腹に、彼は柔らかい笑顔を向け、座り込んでいたスバルに手を差し伸べたのだった。


 そんな笑顔に、最初は少しとはいえ不安を感じていたスバルも、悪い人では無いことを理解した。



「え…と、私はスバル。邪答院(けいとういん) スバル」


「へぇ〜!珍しい名前だね」


「いや、お前も珍しい名前だろ」



 聖の天然ボケにすかさずツッコミを入れる楽のやり取りはまるで漫才のようだった。

 さっきも同じようなやり取りがあったような気がするが、これもいつもの事なのだろうとスバルは勝手に納得した。



「ちなみに僕は18で、楽は15歳だよ」


「2人とも同い歳じゃないのか!?」



 仲の良さからしててっきり同級生か何かだと思っていたのだが、3歳も違うとは想像していなかった。

 何よりも衝撃的だったのが、(まこと)はスバルより5つも上である事だった。



「そうだ、スバル、お前はいくつなんだよ?」



 年が離れているという事実を知った今、楽の質問に答えるのは少し抵抗があった。



「……えっと…13……です」



 さんざん敬語も使わず話していたのが急に申し訳なくなり、最後に小声で『です』を付け加えた。

 そんなスバルの反応を見て楽と聖は顔を見合わせて笑った。



「何今更敬語使ってるんだよ」


「いやぁ…」


「なんだ、何か言いたげだな」



  心の中を見透かすように、楽はスバルの目をじっと見つめる。



「…能力のこと、もっと教えて欲しいんだけど」



 スバルが質問すると、笑顔だった聖の表情が真剣なものに変わった。


 そしてそのまま何かを考えるように黙り込んでしまった。



「私何か変なこと言っちゃった?」



 しん、と静かになってしまったその空気に耐えられず、スバルは楽に小声で耳打ちする。

 すると楽は心配ない、というように不敵な笑みを浮かべた。



「聖、こいつになら話しても大丈夫だと思うぞ?邪答院家の奴なら尚更心配ねぇよ。」


「でも……」



 聖はまだ迷っている表情を見せながら、スバルに問いかけた。



「君が今日見たこと、僕らが今から話すこと、他の人には話さないって約束できる?」







 連れてこられたのは大きな日本家屋。広すぎて1人では迷子になりそうな程だ。そんな屋敷の広さに圧倒されつつも2人に着いて行った先は静かな離れだった。



「ここは楽の部屋だよ。ここなら他に人はいないし話すのには丁度いいんじゃないかな」



 聖はにっこり笑いながら人差し指を自分の唇の前に立てた。




 そうして話を聞き終わる頃には夜遅くになっていた。

 2人のこと、能力のこと、その能力を『ギフト』と呼ぶこと、6年前の事件の裏にはギフトの研究が関わっていたこと。なにより驚きだったのは、


 楽が『行方不明』ということになっている事だった。


 あの大画面で報道されていたニュースで話題になっていた猫屋敷財閥とは、楽のかつて暮らした家らしい。


 楽はもともと猫屋敷家の血縁ではなかったが、生まれつき言霊を使えたため、猫屋敷家に引き取られ重宝されていたそうだ。



 そもそも『ギフト』とは最初から使えるものではなく、成長する過程で発現するものらしい。

 ほとんどの人はその存在に気づかないまま一生を終えるため、知らないのが普通だそうだ。



「なんか……難しいな……」



 ここまでなるべくわかりやすいように説明してもらったが、複雑に絡み合っているため、スバルの頭はパンクしそうだった。



「これから先、お前を巻き込むことになると思うが後悔すんじゃねぇぞ」



 その言葉にスバルの胸は大きく脈を打った。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 気がつくと私は教室の机に突っ伏して寝ていた。1年前のことを思い出している間に、いつの間にか寝てしまっていたようだ。



「ふぁ…」



 軽く伸びをして、時計を見るともうすぐ最後の授業が終わる頃だった。窓の外を見ると雨が降り出していた。


 授業が終わり、傘を忘れたことに気づきどうやって帰ろうかと窓から校門の辺りを見ていると、そこに1人の人影が立っていることに気がついた。

 それは見慣れた白髪で。



 スバルは急いでカバンを持ち、階段を駆け下り、アイツの所へ走った。



「ほら、どうせ傘忘れたんだろ」



 見慣れた白髪の男、猫屋敷(ねこやしき) (らく)はいつも通りニッと笑いながら言霊で出した傘を私に投げた。



「サンキュ」



 降り出した雨はしばらく止みそうもなく、黒い雲が空を覆い隠していた。

2話での登場人物


猫屋敷 楽

性別:男

ギフト:言霊を使い、言った言葉を具現化することが出来る。

年齢:16歳

備考:生まれつき『ギフト』を発揮している、極僅かな存在であるユーザーの中でも更に珍しい存在。



良縁寺 聖

性別:男

ギフト:怪我や病気に触れると完治させてしまう能力。

年齢:18歳

備考:生まれつき身体が弱い。3年前に発作を起こして倒れているところを楽に助けてもらった。



邪答院 スバル

性別:女

ギフト:なし

年齢:14歳

備考:空手や柔道、合気道など体を使う武術が得意。頭を使うのが苦手。口が悪く荒っぽいが可愛いものが好き。

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