番外編-秘密警察
「…あっちぃ……」
ダラダラと滝のように流れてくる汗を拭いながら俺は廃病院の裏にいた。
なんだってこんな真夏日の炎天下の中張り込みなんざしなきゃならねぇんだ…。
数時間前
「あ、先輩、署長から電話です」
俺より背の高いこの黙っていればモテそうな爽やかイケメンは、百鬼 八雲。俺の後輩であり相棒だ。
「あ?署長?こんな昼間に何の用だ」
「いやぁ、何というか…」
「まあいい、貸せ」
百鬼から受話器を受け取る。
「……はい、はい。…えっ、あぁ…そうですね…」
やり取りは数分で終わったが、頭の整理が追いつかない。
「はぁぁぁぁ……マジかよ…」
「大丈夫ですか先輩、コーヒー飲みます?」
「あぁ」
電話の内容はこうだ。
昨日とある廃病院にてギフトによる実験が実施されたらしい。その場所は昼間でも中は薄暗く、人があまり寄り付かない。ギフトの使用には絶好の穴場だ。現場で何が起こったのか、誰が関わっているのか、それを調べるのが今回の任務だった。
「先輩…もうダメです……暑すぎて死にそう…」
「うるせぇ、我慢しろ」
こうして炎天下の中、同じ場所同じ体制で張り込みを続けてはや3時間……。動きどころか人の気配すら無かった。が、任務は任務。俺達は張り込みを続ける。
ダラダラととめどなく流れてくる汗とジリジリと焦げるような暑さにイライラし始めていたが、まだ動くわけにはいかない。
が、その時
「…ん?」
一瞬、視界の端で何かが動いた気がした俺はすぐさまそれの正体を追うことにした。
「百鬼、お前はここで見張ってろ」
「え!?あ、ちょ、先輩!どこいくんですか!」
戸惑っている百鬼をよそに、俺は近くの物陰に移動した。もちろん俺のギフト、“瞬間移動”を使って。短距離を瞬時に移動するにはもってこいの能力だ。
そうしてその影を追って俺は建物の中までやってきた訳だが。
……暗くてよく見えねぇ…仕方ない、目が慣れるまでここでじっと…
「……!?」
金色の目が2つ、暗闇の奥で光っていた。
何だ…?
暗闇に少し慣れてきた目を凝らしてその正体を見ようとほんの少しだけ移動しようとしたその時、とんとん、と後から肩を叩かれた気がして、振り向いた。
「わっ!!!」
「~~っっ!!!!!?」
振り向くとそこには不気味な化け……いや、下から懐中電灯で顔を照らしあげた回り道 まよいがいた。
「ちょっ、俊二くん驚きすぎ!」
俺の反応を見てこいつはケタケタと声を上げて笑っている。
いや、そうじゃない、今はこいつの冗談に構ってる必要など……
自分が何かを追ってここまで来たことを思い出し、先ほど見た金色の目をもう一度確かめるべく視線を戻すと、まよいの持っていた懐中電灯に照らされて立っている一人の少女がいた。
「……と、いうわけなんよ」
話を聞くところによると、あちらはあちらで探偵の仕事をしていたらしい。隠密捜査のため、不審がられ、通報されたらしい。そしてこの少女、碓氷 虎々音は助手らしい。
「まぁ、わかった。ここ数日の不審な動きの正体はお前らだったってことでいいんだな」
「そうやね」
まぁ、多少引っかかる点はあるが、こいつの考えることだ。変に首を突っ込まない方が良いだろう。
俺はその場を後にし、百鬼のいる場所へ戻ることにした。
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「あ!先輩、何かありましたか?」
「いや、それが何か獣のようなものが見えたんで追いかけてったら獣も怪しいヤツもいなくてよ」
「え、じゃあ結局何だったんですか?」
俺ははぁ、とひとつため息をついて、あの馬鹿が原因だったことを伝える。
「まよいさんだったんですか…」
「あぁ。そういや探偵助手とかいうやつを連れてたな、確か名前は…碓氷…虎々音、だったか」
「……」
名前を聞いた途端、百鬼は一瞬妙な表情をしたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「おい、知り合いなのか?」
「あ、いえ、違います!」
「そうか、とりあえず本部に連絡して帰るか」
「そうですね」
そうして俺達はその場を後にするのだった。