お墓の中からこんにちは♡
取り合えず投下。手直しは出来たらします。
ディクセン王国の貴族墓地では、現在しめやかに葬儀が執り行われている。
「汝……悲しむことなかれ……。されど喜ぶこともなかれ………さすれば汝は天へと召されるであろう………」
「ううっ………ハーシア姉さま……ううっ……」
「おおハーシア。我が愛しき娘よ。親の私よりも先に逝くとは何事だ!」
「悲しい……とても悲しいですわ………」
棺にすがり付いて泣く巨漢の少女の名はミトコンドリア・サボウ・ベルモンテ。伯爵令嬢14歳。この度不慮の事故で15歳の若さで亡くなったベルモンテ伯爵令嬢、ハーシア・デル・ベルモンテ嬢の義理の妹である。
そのミトコンドリアの肩を優しく抱きしめて嘆いているのは、ウィルス・デス・ベルモンテ伯爵。ハーシアの実の父親であり、ハゲ・デブ・出っ歯と3拍子そろった外見の持ち主である。ミトコンドリアとは一滴も血が繋がっていないはずなのに、実の娘であるハーシアよりも容姿が似通っており、自分に全く似ていないハーシアよりも、ミトコンドリアの方を溺愛していた。
そしてウィルスの後方に慎ましやかに佇み、ハラハラと涙を流しながら悲しみを口にしているのは、ミトコンドリアの母親で元は伯爵家に使えていたメイドであったメロウ・ダボゥ・ベルモンテ伯爵夫人であった。
3人はひとしきり大袈裟に泣いたり嘆いたりしていたのだが、ハーシアの棺が墓穴に入れられ土をかけ終わる頃には脳内でこんな事を考えていた。
義妹のミトコンドリアは、ハーシアの婚約者であるアシェラット・ネリ・ギジェリラ侯爵令息の美しい容姿を思い浮かべながら、婚約者のハーシアが死んだのだから、アシェラットの次の婚約者は妹の自分だと思い、内心ほくそ笑んでいた。
父親のベルモンテ伯爵は、前妻との間に出来た娘のハーシアが死んで、内心では喜んでいた。
現在ウィルスはベルモンテ伯爵と名乗ってはいるが婿養子であった。
元々は男爵家の三男で、ハーシアの母親であったミリガンとは家同士が決めた結婚であり、ミリガンはウィルスの卑屈な性格を煙たがっていたのだった。
そんなミリガンから産まれ、母親そっくりの美貌を受け継いだハーシアを、ウィルスは最後まで愛することが出来なかったのである。
義母であるメロウ夫人はハーシアが亡くなったので、大手を振ってベルモンテ伯爵家に伝えられている宝飾品のすべてを我が物に出来ると喜んでいた。
3人は喜びに弛む表情筋を叱咤して、悲しい表情を精一杯取り繕った不様な顔で参列者への対応を行っていた。
そんな中、1人の青年がベルモンテ伯爵へと声を掛けた。
「………ベルモンテ伯爵?この度はハーシア嬢がお亡くなりになり、誠に…………誠にご愁傷さまで御座いました」
青年の名はアシェラット・ネア・ギジェリラ。ハーシアの婚約者だったギジェリラ侯爵家の子息であった。
「おお……アシェラット様。これはこれはご丁寧に……。宜しければ我が娘、ミトコンドリアの横におば……………」
「…………いえ、結構」
ベルモンテ伯爵が指した方向にいたミトコンドリアは、一瞬喜びの笑顔を浮かべたのだがアシェラットが即座に断ったので、萎れた花の如くションボリと肩を落として俯いた。
「…………ベルモンテ伯爵。我が父、ギジェリラ侯爵ファウストよりの書状を託されましたのでお渡ししておきます」
アシェラットより手渡された書状には、確かにギジェリラ侯爵家の封蝋がされていた。
ベルモンテ伯爵が書状を受け取ったのを確認すると、アシェラットは直ぐにそのまま踵を返した。
そんなアシェラットに無礼にも静止を掛ける者がいた。
それはアシェラットに恋い焦がれるミトコンドリアであった。先ほどまで落ち込んで居たのに、早すぎる立ち直りである。
「あ~んお待ちになってぇ~!アシェラット様~」
ミトコンドリアはそう叫ぶと、肉感溢れる巨体をブルンブルン震わせながら、アシェラットの腕に自身の自慢(笑)である胸を押しあてて、とんでもない事を言ってのけた。
「うふふ~。これからはあたしがハーシア姉さまの代わりにアシェラット様の婚約者となるのでしょ?このあたしの身体はアシェラット様だけのものよ?」
どうだ?嬉しいだろう?と、言わんばかりの自信満々なミトコンドリアの態度と発言に、アシェラットは冷笑が込み上げてきた。
「ははっ…。これは異なことを言うなこの下嬋な娘は。貴様の様な身分も容姿も、振る舞いすらも下等な者となぞ、誰が婚約などするものか。我が愛して婚約者にと熱望した娘であるハーシアはもうおらん。だがその代わりに貴様などとは間違っても婚約などせんっ!その厚顔…………2度と我の前に出すでないはっ!」
アシェラットはゴミを見るような目付きでミトコンドリアを一瞥すると、汚らわしいと言わんばかりの態度で掴まれていたミトコンドリアの腕を自身の腕から振り払い、足早にその場から去って行ったのであった。
アシェラッドが去った後には、ポカンと口をだらしなく開いたミトコンドリアと、侯爵からの書状を読んでその内容に唖然とするベルモンテ伯爵と、青ざめながらあたふたとあわてふためく夫人の姿が残されたのであった。
その一連の見苦しい態度を見て、参列した他の貴族たちは「全く……見苦しいですな」「ええ……本当に」「あのデブス……厚かましくもアシェラッド様にあのような振る舞いをなさるなんて……万死に値しますわ」「そうですわね!しかも義理とは言え、姉君であったハーシア嬢の婚約者に色目を使うなんて!下品にも程がありますわよ」などという会話をしていたのであった。
元々そんなに無かったベルモンテ伯爵の面目は丸潰れであった。
そして侯爵からの書状の内容は以下の通りである。
【我がギジェリラ侯爵家の世継ぎであるアシェラットと、ベルモンテ伯爵家のハーシア嬢の婚約はハーシア嬢の早世にて白紙とする。それとハーシア嬢の結婚と引き換えに約束していた多額の融資の件だが、結婚が白紙になるのだからそちらの話も、もちろん白紙になるのは明白である】
と、いうような内容が書いてあったのだった。
これにより侯爵家の融資を宛にして好き勝手に散財していたベルモンテ伯爵家は、この後怒濤の勢いで衰退し、遂にはお取り潰しになってしまったのであった。
2年後…………。
幼い息子のロバートと、妻の墓参りに訪れたファルマーは、突然降りだした雨に悪態を付いていた。
「ふぅ……やれやれ。せっかく仕事が一段落して、墓参りに来れたのにこの天気か………」
「パパー………きっとママが怒ってるんだよぉ!全然お参りに来ないってー!」
「うぐっ…………ま、まあそうかもな…………確かに久し振りだからな………」
「そうだよ。もっとちゃんと会いに来てって思ってるよ、きっと」
「そうだな。今度はもっと早く来ようか?」
「うんっ!約束だよ?」
ファルマーは、無邪気に喋るロバートの頭に手を置くと、優しく撫でてやる。
ロバートはくすぐったそうに目を細目ながら、嬉しそうにファルマーを見上げている。
そんな墓地内の小屋でのハートフルな親子の会話に、終止符を打つ出来事が起こった。
徐々に雨足が強まっていた、鉛色の空には稲光が幾重にも走り始める。
ピカッ…ゴロゴロ…ドッッッッカァーーーーン!!!!!
「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
「うひゃーーーーーーー!!」
稲妻は轟音を立てて、ファルマー達が雨宿りをしている小屋の直ぐ近くへと落ちた。
その衝撃にファルマーとロバートの両者は、叫びながら尻餅を付いて転んでしまった。
「だ、大丈夫か?ロバート?」
「う、うん………僕は大丈夫だよ、パパ……ちょっとお尻が痛いけどね」
「ははっ………パパもだよ」
強かに打ったお尻に手を添えながら、2人はゆっくり立ち上がり辺りを見回した。
すると先ほどの落雷が直撃したのか、直ぐ近くの地面が大きく抉れているのが目に入って来た。
そしてその光景にファルマーは驚愕した。何故かというと、抉れた地面の中から人間の手の部分である骨がニョッキリと突き出ていたからだ。
「うっ……………うわあっっっっっ!!!」
「ふえっ?パパ?どうしたのー?」
ロバートの方は気付かなかったみたいで、突然悲鳴を上げたファルマーの姿にキョトーンとしている。
墓地という場所柄、落雷で地面が抉れれば、それすなわち人骨である。
「あわわ………あわわわわ……えらいこっちゃ!ロバート!パパは外の状況を確認するために、少し出てくるから1人で待ってられるかい?」
「ええっ……そ、そんな………また雷が落ちるかも。こ……怖いよパパ…………」
「そうだな………。実はパパも怖い。でも確認しなければならない事があるんだよ。確認が終わったら直ぐにお前の元に帰ってくるから、ロバートよ……堪えてくれっ!」
「やっやだっ!!………やだやだやだぁー!!」
ファルマーは嫌がるロバートの頭にポンッと、手を乗せ豪快に撫でると、そのまま小屋の外へと向かったのであった。
外の天気は先ほどよりは幾分か雨足は弱まっており、雷のピークはどうやら終了している様で、空を覆っていた稲光は収まっている。
ファルマーは落雷があった抉れた地面の付近へと、震える足を進めたのだがそこには先ほど目にした白骨化した手は、確認できなかった。
「ふっ……ふぅぅぅぅ…………。な、何だ……見ま違いだったのか。いやぁ怯えて損しちゃったなぁ…………………………」
ファルマーは自身の見ま違いであった事に、心底ホッとしていた。
そんなファルマーの背後から、突然ボコボコボココッという不審な音が聞こえてきた。
「ひいっ…………ななななな……何だ?」
怯えるファルマーの眼前で抉れた地面が隆起し、そこからいきなり真っ白い骨のみで構成されたモンスター………スケルトンが現れた。
「でででででで…………出たぁーーーーーー!」
ファルマーは恐怖で悲鳴を上げると、限界が来たのかその場で意識を失って倒れ込んでしまったのであった。
「はいっ!出ましたよ?こーんにーちはぁーーーーーーーーー♡って…………あらっ?ちょっ、ちょっと!?ど、どうされましたか?」
一方、地面から飛び出したスケルトンは、突然倒れ込んでしまったファルマーに、驚きながら駆け寄った。
「ええー?この人突然倒れましたが大丈夫でしょうか?私の様なか弱い乙女の細腕では、運んであげられませんし、誰か呼んで参りましょ…………………………おぎゃーーーーーーーーーー!!!!」
最初はファルマーの心配していたスケルトンであったが、自身の腕に視線を向けると大絶叫した。
「あわっ……あわわ………あわわわわ…………」
自身の腕や足を見ながら、声にならない声を上げ続けるスケルトンの頭部に、側面から小石が当たる。
コンッ!コツンッ!
「……あわ………………あ、あら?」
スケルトンが小石が飛んできた方を向くと、そこには雨に濡れながらもしっかりとスケルトンへと、小石を投げるロバートの姿があった。
「えいっ!えいっ!パパから離れろー!このモンスターめー!!」
中々命中率が良い様でコンッ……カツンッ……コツンッ……と、スケルトンへと何個かは命中する。
しかし…………そんなロバートの攻撃は、残念な事にスケルトンにはそれほどダメージでは無いようであった。
「こらこらボク?人に向かって石を投げてはいけませんよ?危ないでしょう?」
「うえっ!?」
ロバートは驚愕した。よもやモンスターから石を投げてはいけないと、たしなめられるとは夢にも思って無かったからだ。
「えっ………その………ごめんなさい………?」
ロバートは内心、人では無いのでは?と、少し思ったがモンスターが人間みたいな事を言うので、つい素直に謝ってしまったのであった。
「うんうん………素直で宜しい!子供は素直が一番ですからねー」
スケルトンは腕の骨を組ながら、頭を上下に振りながら頷いた。
「……………凄いや!僕、モンスターと喋ったの産まれて初めてだよ!!」
「………うっ………うーん……。そのモンスターって言うのは、やっぱり私の事なのですか?」
「うんそうだけど………えっ?違うの?」
「その、自分ではモンスターのつもりは全く無いのですが………………この腕とか足とか見ますと………ねぇ………はぁーーーー」
スケルトンは困った様に、自身の腕に視線を向けながら溜め息を付いた。
表情は骨なので全く変化は無いのだが、それを補って余りあるほどに雄弁な声音であった。
「見た目はモンスターみたいだけど、普通に喋れるから君はきっとただのモンスターじゃないんだよー!」
「ああ……私はモンスターで確定なのですね………はぁーーーー」
「あっ!いや………でも……その……うん!優しい感じだし……外見は………モンスターっぽいけど話は通じるし……」
落ち込むスケルトンを、励まそうとロバートは幼いながらも必死に考えるがイマイチ上手く行かない。
そんな中、忘れ去られた存在が意識を取り戻す。
「………うっ………痛ててて…………」
上半身を起き上がらせたその人物…………ファルマーは、身体のあちこちが痛んで声を上げた。
「……………っ!!!パ、パパーーーーー」
そんなファルマーにいち早く気付いたロバートは、思いきり抱き付こうと走り出した。
ヒョイッ………。
しかしスケルトンに邪魔をされた。倒れていたファルマーの元へと走っていたロバートを、片腕で持ち上げたのである。
「こらこら!急に駆け出したと思ったら……もしや抱き付こうとしていませんでしたか?貴方のお父様はさっきまで倒れていらしたのですよ?急に抱き付いたら危険でしょう?」
「あっ………そ、そっか。そうだよね……君の言う通りだ!」
「いえいえ、分かって頂けたのならば結構ですよ?」
「うん。じゃあ抱き付かなければ良いの?」
「そうですね。この場合はご本人に窺った方が宜しいでしょうね」
「分かった!聞いてみる!パパーー!大丈夫?身体は痛い?立てないなら僕が誰か呼んで来るけど?」
「…………………………………………………」
ロバートが必死になってファルマーに色々と話掛けるが、残念ながらファルマーへは届いていない。
自分の息子と親しげに会話するスケルトンに驚愕していたからである。
しかし普通のスケルトンは喋らない……もし喋るスケルトンであるならば、それはスケルトンの上位モンスターであるリッチであるが、であるのならばこんな人間の墓地になど居るはずが無く、どこかの迷宮の主として君臨していてもおかしくは無い。したがってこの目の前の息子と親しげに会話するモンスターは、リッチの亜種では無かろうか?
そしてファルマーが最終的に辿り着いた答えは………………………………
「はっはっはっ!大丈夫だよロバート!パパは少し足を捻った程度さ!」
…………………………現実逃避であった。
明らかに顔面の表情筋をひきつらせながら微笑むファルマーに、ロバートとスケルトン……いや、リッチにランクアップした両者はファルマーを無視して2人で会話を始めてしまう。
「えっと………貴方はロバートくんと言うのですか?」
「うん!僕はロバート・ランデル!ロバートで良いよ!年齢は6歳!君はー?」
「私ですか?私はハーシア………ハーシア・デル・ベルモンテです。歳は16ですね」
「へー。何だか本当に人間みたいな名前と年齢だね」
「人間のつもり何ですけどねー?」
「………見た目がもうちょっと人間らしければ、そう言っても良かったんだろうけど……ほら、亜人族とかならさ」
「ううっ……そうですかぁ……はぁーー」
「ドンマイ!!」
ガックリと肩を落とすリッチ……いや、ハーシアを慰めるロバートの姿にファルマーは、自分が意識を失って居る間に随分と打ち解けた2人へと向かって我慢できず叫んでしまった。
「…………………この状況……突っ込まずにはいられねぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーよ!!!」
と。
毎回恒例(?)の人物達のその後オマケ
ハーシア→意気投合したロバートの家で厄介になることに。普段は頭から頭巾を被って生活を送り、ほぼロバート宅から外へは出ません。
あれだ!ニート化する。モンスターのニート化。
ロバート→その後冷静沈着な青年へと成長し、ハーシアのリッチ化の謎を解くために奔走する。
ハーシアの事を実の姉のように慕う。
ファルマー→物事を深く考えすぎて中々ハーシアに慣れない(だだし、ファルマーがおかしいのでは無いロバートがおかしいのである)
一緒に暮らし始めて数年後に、やっとハーシアとの日常会話が成り立つ不憫な男。
アシェラッド→ハーシアの婚約者にして、リッチ化の原因。
ハーシアの死後、家督は弟へと譲り本人は危ない宗教組織に出入りする様になる。そこで行われていた禁忌の術である、死者蘇生の儀式にのめり込み、何度も繰り返される呪詛によりハーシアはリッチとして蘇ってしまった。
その後ハーシアの墓参りに行くと、墓石が粉々になり地面が抉れているのを発見し、ハーシアが蘇ったのだと確信し、狂喜乱舞してハーシアの行方を捜索する。
こいつからは変質的な盲執を感じ、ハーシアがリッチになってしまっても気にせず愛を囁くと思われる………多分。重い。
ミトコンドリア&ウィルス&メロウ→没落後の行方は要として知れない。
そして分かっていたと思いますが、ハーシアの死にはこいつら全員関わってる。共犯。
ギジェリラ侯爵→息子のアシェラッドのハーシアへの変質的な盲執には薄々感づいていた。
なのでアシェラッドが弟に家督を譲りたいと言い出した時、無理に引き留めなかった。
マデラン→作中には存在すらも語られなかったアシェラッドの弟。
優秀な兄が家督を継ぐと考えていた為、本人に侯爵としてのやる気は限り無く零に近い。
ノンビリした領地経営で民には慕われた。
って所ですかな。
単発の話ばっかで申し訳ない。メッチャ飽き性なんす。