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四代トラブルメーカー  作者: かいり
#受け入れるということ
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15話―②『残された道』

 父親と二人暮らしの少年には、感情がありませんでした。楽しいと思うことも、悲しいと思うこともありませんでした。戦うことだけを教わってきた少年には、必要ないからです。

 そんなある日、少年は父親に命じられました。



「片割れを、殺してきなさい」



 少年は何も思わず、言われた場所へと向かいました。



「蘭李………元気出して……」



 心配そうな少年の声。声をかけられた蘭李は、何も答えずただベッドで横になり、背を向けていた。声の主の睡蓮も、隣にいる蜜柑も、その背を不安そうに眺める。



「どうしよう……蜜柑姉……」

「どうすることも出来ぬよ。こやつが死を受け入れん限り」

「そんな………」



 睡蓮は横目を向ける。座布団の上に座るコノハは、考え事をしているようで、虚空を見つめたまま動かなかった。



「コノハも元気無い………」

「こやつにとっても付き合いが長いからのう。そう簡単には割り切れんじゃろ」



 昨日、蒼祁の余命を知ってからずっと、二人はこの調子だった。特訓にも行かず、誰から何を言われても上の空。先祖達は不安そうに彼女を見守っていた。



「ねえ……本当に治す方法って無いのかな……?」

「匙を投げられたんじゃ。あるわけなかろうよ」

「でも、探せばまだ何かあるかもしれないよ!」

「無いと思うがのう……」



 突然むくりと起き上がった蘭李。驚く先祖二人とコノハ。蘭李はくるりと振り向き、睡蓮を見据えながら口を開いた。



「………探せば見つかるかな。治す方法」

「見つかる! 見つかるよ! 絶対治す方法はあるはずだよ!」

「止めろ睡蓮。根拠の無いことを言うでない」

「でも、絶対無いなんてことも言い切れないでしょ⁉」



 強く蜜柑を見据える睡蓮。水色の瞳が引く様子はなかった。そんな彼を眺めながら蘭李は力なく笑い、ベッドから降りる。



「ありがと、睡蓮。ちょっと元気出た」

「蘭李!」

「何かしらはあるはずだよね」

「………あまり期待はしない方が良いぞ」



 蜜柑の言葉には何も答えず、蘭李は携帯を開いた。とある番号に電話をかける。数回のコールの後、男の低い声が聞こえてきた。



「もしもし?」

「こんにちは、滝川さん」



 そう。蘭李が電話をかけた相手は、魔警察所属の医師・滝川若俊だった。蘭李から電話をかけることなど無かった為、彼は驚き混じりの声で返事をした。



「何だ?」

「あの……実は………」



 蘭李は蒼祁のことを話した。そして最後に、こう付け足した。



「蒼祁のこと、検査してくれませんか?」



 若俊は沈黙する。蘭李も黙って返答を待っていた。やがて、静かに若俊が答えた。



「………今回だけだぞ」

「ホントですか⁉」



 パッと蘭李の表情が明るくなった。じんわりと目に涙さえ滲んでいる。しかしすぐ、若俊は続けて言い放った。



「だが先に言っておく。期待はするな」

「え………?」

「医師全員分からなかったんだろ? そりゃボクの方が優れているが、必ず原因が判明すると約束出来るわけじゃないし、不明なままの可能性の方が高い」

「………それでも、お願いします」

「……分かった」



 そこで通話は途切れた。蘭李は部屋を飛び出し、階段を駆け下りる。家も飛び出して全速力で町を駆けた。コノハや先祖達も、慌ててついていく。

 蘭李が向かった先はもちろん、皇家だった。迎え入れてくれたメルに短くお礼を言い、リビングへと直行する蘭李。勢いよくドアを開け、部屋を見回した。ソファーに座る蒼祁を見つけ、彼のもとへ向かう。



「蒼祁! 病院行こう!」

「は? 行くわけねぇだろ」

「いいから来て!」

「行ったって意味無いだろ」

「いいから来てよッ!」



 叫び声の直後、蒼祁の隣に座っていた朱兎が立ち上がり、蒼祁を抱き上げ肩に担いだ。蒼祁は目を丸くする。



「はっ⁉ おいっ! 降ろせ朱兎っ!」

「行こう! アニキ!」

「もう散々行っただろ⁉ お前に引きずられて!」

「分かるかもしれないよ! 原因!」

「分かるわけねえ! 降ろせ!」



 ばたばたと暴れる蒼祁などものともせず、朱兎は蘭李についていった。まるで嵐が去ったかのように、リビングが静かになる。黙って見ていた白夜達は、ドアの方を眺めながら呟いた。



「……原因、見付かるといいな」

「ねー……」



 沈黙が流れた。昨日からそうだ。何となく話しづらい雰囲気が彼らの間を満たしていた。



「本当に蒼祁の方なのか……」

「え?」



 健治の呟きに、紫苑が驚いて目を向けた。健治は彼に小さく笑いかける。



「この前ね、朱兎と魔法図書館に行ったんだ。その時何かを患っているって聞いたから、てっきり朱兎が病気なのかと思っていたんだけど……」

「そうなんですか………」



 それ以上健治が何かを言うことはなかった。その後しばらく、リビングには沈黙が流れていた。



「だから言っただろ。無意味だって」



 ロビーの椅子で落ち込み俯く蘭李を、蒼祁が呆れ顔で見下ろす。朱兎も彼女の隣で、落ちそうな涙を必死に食い止めていた。

 若俊の病院へ連行された蒼祁は、全身をくまなく検査された。午前に始めたというのに、終わった頃は日の暮れた夜だった。

 そして、今現在分かっている結果だけ見ると、蒼祁の病気の原因は分からない、という結論に至る。



「ったく……無駄な時間過ごしちまった」

「………蒼祁は嫌じゃないの?」



 震えた声。蘭李の頭上に浮かぶ蜜柑と睡蓮は下へと、朱兎は左へと視線を移す。蘭李は俯いたまま、力任せに拳を膝の上で握っていた。



「死んじゃうんだよ……? なんでそんなに冷静でいられるの……?」

「諦めたからな」

「そんな簡単に諦めないでよッ!」



 顔を上げた蘭李は涙目で、キッと蒼祁を睨み上げた。その姿に驚く、蒼祁と朱兎。



「蒼祁が死ぬなんて嫌だよッ! しかも原因が分からないなんてもっと嫌ッ!」



 誰もいないロビーに響く、少女の叫び声。続けて静寂が広かった。蒼祁はしばらく蘭李を見下ろした後、ため息を吐いて一言。



「俺が生きようが死のうが、お前には関係無いだろ」



 蘭李は目を見開いた。ぷるぷると拳が震え、ぎゅっと唇を噛み締める。



「―――――――もういいッ!」



 そう吐き捨て、蘭李はその場から駆け出した。慌てて朱兎と睡蓮が追いかける。蜜柑は、一人取り残された蒼祁を眺めた。彼は椅子に腰かけ背にもたれる。弱々しく光る青い瞳は、虚空を見上げた。



「………良いのか? あれで」



 薄暗い廊下からやって来る若俊。しかし、蒼祁は彼に顔を向けることはしなかった。



「いいんだよ。どうせ死ぬんだ」

「喧嘩別れしても良いと?」

「………もともと仲良くなんてない。あいつは俺が嫌いだからな」

「その割には心配してるじゃないか」

「あいつは「死」が嫌いだからな」



 静かに瞼を閉じる蒼祁。彼の脳裏には、過去の光景が蘇っていた。『学園』の仲間と、楽しそうに笑う蘭李と朱兎。まるで走馬灯のように、あの日々が次から次へと思い出されていた。


 その中で、黒く塗り潰された一人が、二人に笑いかけた。


 彼は気付いていた。「それ」は始めから真っ黒であったことを。気付いていたのに、分からなかった。必死に叫んでも、声は届かなかった。二人が「それ」に近付く。「それ」は彼に振り向き、楽しそうに笑った。





 ―――――――――君も、こっちにおいでよ。





「神空?」



 ハッと目を覚ました。若俊が蒼祁をレンズ越しに、じっと見下ろしている。蒼祁は胸に手を当てた。ドクンドクンと高鳴っている心臓。



「大丈夫か?」

「……………ああ……」



 蒼祁は深呼吸をした。先程の記憶をどこかへ押しやり、小さく呟いた。



「ちょっと、嫌なモノを思い出しただけだ」



「蘭李! 待って!」



 背後からぐっと腕を引かれ、蘭李は振り向いた。朱兎が彼女の腕を掴んでいたのだ。蘭李はその手を振り払おうとするが、力で勝てるはずもなく、びくともしなかった。



「離してよっ!」

「あんなのアニキの本心じゃないよ!」

「はあ⁉ 何言ってんの⁉」

「やけになってるだけだよ!」



 蘭李は目を見開いた。抵抗するのも忘れ、彼女は唖然と朱兎を見上げる。朱兎の赤い目は、悲しそうな色を帯びていた。



「アニキ………本当は死にたくなんかないんだよ」



 沈黙が流れる。不安そうに二人を見守る睡蓮の手を、一滴のしずくが上から下へと貫いた。見上げると、ポツリポツリと雨粒が落ちてきていた。その後続けて、いくつものしずくが降り注ぐ。それでも構わず、蘭李と朱兎は雨に晒されながら、頼りない光を放つ街灯の下を歩き出した。



「………本当に治す方法は無いの?」

「色んな本も漁った。けど………」



 朱兎は腹の前で両手を握り締める。隣では、蘭李が残念そうに俯いた。二人の横を通り過ぎる人々は、異様なものを見たような目で彼らに振り返る。



「けどね、アニキを生かす方法は思い付いたんだ」



 呆然と蘭李が顔を上げた。濡れた視界に映る朱兎は、ぎこちない笑みを浮かべていた。



「病気は治せないけど。魔力を取られるなら、あげればいいと思わない?」

「………そんなこと出来るの?」

「魔導石があるでしょ?」



 蘭李は目を見開いた。黄色い瞳には驚愕と困惑、そして希望の火が灯っていた。



「魔力を渡す魔法があったんだ。たぶん魔導石の……。それならアニキを死なせずに済む」

「すごい………すごいよ朱兎!」

「でもまだ出来てないんだ……」

「あたしもやる!」



 朱兎の手を取り、蘭李は彼に顔を近付けた。



「あたしもその魔法、習得するよ! 絶対に出来るようになる!」

「うん………頑張ろう! 蘭李!」

「うん!」



 くしゅん、と蘭李がくしゃみをした。自分達がずぶ濡れなことにやっと気付いたのか、蘭李は自分の肩を抱いて体を震わせた。朱兎がクスリと笑う。



「風邪引かないように早く帰ろ!」

「そうだね………風邪なんか引いたら練習どころじゃなくなっちゃうね!」



 いつ振りかの笑みを浮かべながら、二人は水飛沫を上げて駆けていった。


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