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四代トラブルメーカー  作者: かいり
#君をつくっているもの
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11話―⑪『魔具と持ち主』

「なっ……なんで悪魔が……⁉」

「なんでって、オレとコノハがグルだからだよ。そんなこともわかんねーの?」



 悪魔がコノハの隣に降り立つ。先程朱兎を殴り飛ばした影は、吸い込まれるように悪魔の影へと吸収された。

 突然の事態に、白夜は直人を解放する。槍耶や雷達も、悪魔から目が離せない。そして蘭李は、目の前に立つ悪魔とコノハに顔を青ざめた。



「なんで………もう手を切ったんじゃ……⁉」

「蘭李が約束破ったから」

「いやいや、それは違うだろ? コノハ」



 コノハの肩に腕を回し、妖しく笑う悪魔。



「もとから、こういう作戦だったじゃないか」



 悪魔へと数多の氷柱が飛んできた。しかし全て影に弾き飛ばされる。悪魔はケラケラ笑いながら、チラリと蘭李に視線を落とした。



「残念だったなあ蘭李くん? 何よりも大切な魔具に裏切られてよお」

「お前のせいだろ……っ!」

「はあ? 自分のせいだって言われたろ? 自分が行ってきた行為のせいで、コノハはお前を裏切った。だからこそ、お前はコノハの頼みを聞いたんじゃないのか?」

「ッ……!」



 再び朱兎が駆けてくる。悪魔に飛び掛かろうとするが、黒いドーム状の結界に阻まれ、攻撃は届かなかった。結界の中には蘭李とコノハもいる。



「ほら、ちゃんと場所は用意してやったんだから、さっさとやっちまえよ」

「言われなくたって」



 コノハが蘭李に向き直る。彼女の左腕に刺さっていた刃を抜き、今度は左の手のひらに突き刺した。苦痛の悲鳴が上がる。



「何やってんだコノハッ!」

「見て分からないの?」

「コノハやめて! なんで蘭李を殺すの⁉」

「――――――なんで?」



 ピタリとコノハの手が止まる。その刃だけでなく、服も血で染まっていた―――言うまでもなく、蘭李自身も。

 コノハは雷達を見回し、最後に蘭李を見下ろした。彼女は痛みで涙を流し、ぶるぶると震えている。その左手から、刃をゆっくりと抜いた。



「言ったって分からないから、殺すしかないんじゃん」



 ―――――――――グチャアッ



「ああああああああああッああああああああああッ!」



 何度も何度も蘭李の左腕に刃を突き刺すコノハ。その度に血が飛び散る。白夜と海斗はそれぞれ魔法を飛ばすが、結界には傷一つつかなかった。朱兎や槍耶は拳や武器で壊そうとするが、やはり効果はない。紫苑と雷は恐怖で、直人と蒼祁は体力の消耗で動けずにいた。睡蓮は泣きじゃくり、蜜柑と秋桜はコノハに叫んだ。



「やめろッ! コノハやめるのじゃッ!」

「何が気に入らないんだよお前ッ!」

「部外者には関係無いし」

「そんな理由で殺されてたまるかよッ!」



 刃を抜き、コノハは蘭李を見下ろした。左腕は真っ赤に染まり、鉄のにおいが強烈に漂っている。片膝をつき、コノハは蘭李を抱き起こした。彼女の呼吸は上がり、虚ろな目をしている。



「ねえ蘭李。例え僕が危なくても、絶対に銃を使わないって誓うなら、やめてあげてもいいよ?」

「………ッ………ぁ…………」

「え? 聞こえないんだけど。さっきまであんなに叫んでたのに」

「――――――お前、拗ねてるんだろ」



 怪訝そうな顔をして、コノハが振り向く。声の主である蒼祁は、ゆっくりと起き上がった。先程までよりかは回復したみたいで、力強くコノハを睨み付けている。



「ようやく分かった……。つまりはお前、蘭李が銃ばっか使ってるのが面白くないんだろ? そのせいで自分は使ってもらえないから」



 沈黙が流れた。蘭李の浅い呼吸だけが響いている。

 拗ねている―――その言葉に、白夜達も納得がいった。蘭李はここ最近、銃ばかりを使っていた。もちろんそれは、トラウマを克服するためだ。もし克服出来れば、戦闘力はぐんと上がる。だからなるべく早く慣れようと、必死に特訓していた。

 故にコノハは、ここ最近蘭李に使われていない。

 もし蒼祁の言うことが本当であれば、たしかに道理には合っている。武器なのに使ってもらえない。それは辛いことなんだろう。

 だけど―――と彼らは皆、疑問に感じた。

 ――――――たったそれだけのことで、こんなにも憎悪が沸くものだろうか……?



「………………」

「図星か。ハッ! 馬っ鹿じゃねぇの? 所詮お前は武器なんだよ。使われる身なんだよ。だからお前は文句を言える立場なんかじゃねぇ」

「………言えるよねぇ? 蘭李?」



 コノハが不敵に笑う。緑色の視線は、腕の中に収まる自身の持ち主に注がれた。



「蘭李は僕のこと、人だと思ってるって。だったら文句を言う権利はあるよね? だって人間だもん」

「それはそいつが分かってないだけだ。お前が武器であることに変わりはないんだよ」

「………ホント、そうだよね」

「は?」



 項垂れるコノハの横顔は、悲しそうな辛そうな表情であった。蘭李にも、蒼祁達にもその意味が理解出来ない。コノハはじっと蘭李を見つめながら、ぽつりと呟いた。



「僕は武器だ。人じゃない。誰かに使われる運命なんだ。そんなこと、昔から分かってたよ」

「なら―――」

「だけど、こいつは違った。僕のこと、大切な何かだと思ってた」



 力なく笑うコノハ。蘭李には、ただそれを見ているだけしか出来なかった。



「思えば、出会った時からそうだった。僕に名前なんかつけて、ずっと人でいてなんて言って、まるで武器として扱わない……家が家だけにしょうがないことだったけど、だとしても区別くらいしてほしかった」



 僕はあくまで武器であり、蘭李ひととは違うんだって。



「だけど、これはこれでいいかなって思い始めた。戦わない運命、人みたいな運命をこいつと生きていく。歯がゆい気もしたけど、魔力者と縁がないなら仕方ないって思った」



 コノハがぎゅっと蘭李の肩を握る。



「けど…………お前らと会って、全てが変わった」



 コノハは顔を上げ、蒼祁を睨み付けた。結界を挟んで、緑と青の視線が牽制し合う。



「僕らを魔力者の世界に放り込んだ」

「魔力者なんだから当たり前だろ」

「違う。お前らとさえ会わなければ、少なくとも蘭李が銃を使うなんてことはなかったはずだ」



 それを聞いて、呆れたように息を吐く蒼祁。



「例え俺達と会わなくても、いずれ他の武器を試すようになるだろ。遅いか早いかの問題だ」

「お前が蘭李に銃の戦い方なんて教えなければ、こいつは銃の才能に目覚めることもなかった!」



 コノハの叫び声に、蒼祁の隣にいた朱兎がびくりと肩を上げた。



「あの学園で銃なんか教えたからッ! こいつは次第に僕を使わなくなったッ!」

「お前だと弱いからな。仕方ないだろ」

「……そうだよ。蘭李に剣技の才能はない。このままだと、いつか本当に僕は棄てられる。だから、だからこそ、僕はこいつに言ったんだよ。あの「事件」の後に………」





 ――――――もうそれ使うのやめなよ。もう二度と友達を殺さないために、僕だけを使いなよ。僕なら制御出来るしさ。





「お前が原因だったのか……!」



 蒼祁がギッとコノハを睨む。白夜達も驚いていた。が同時に、夏に言われた言葉を、紫苑達三人は思い出した。



「魔具には、持ち主しかいない………」

「は?」



 思わず呟いてしまった紫苑に、コノハが素早く反応した。慌てて紫苑が声を上げる。



「いっいやっ! 雛堂さんが言ってたんだよ! コノハを責めないでやってって……」

「………ふーん」

「責めるな? フン、笑わせるな。持ち主の言うことを聞けない魔具に存在価値なんて無い」

「そこまで言わなくても……!」

「いいんだよそれで。魔具は持ち主のために命を使うんだから」



 小さく笑うコノハ。その右腕が、再び刃に変化した。



「悪いのは、僕との約束を二回も破ったこいつだから」



 刃が下ろされる。右の太ももに突き刺さり、声にならない悲鳴が上がった。抉るように刃は肉に侵入していく。



「ねえ蘭李。友達を殺したくないから銃をやめたんじゃないの? 僕が魔具として死なないために銃をやめたんじゃないの?」

「…………っ………………」

「蘭李はそんなに誰かを殺したいの?」



 ももから刃が引き抜かれる。蘭李の体は青白くなっていた。このままでは本当に死んでしまう―――誰が見ても分かる程、危機的な状態だった。

 そんな蘭李を見て、嬉しそうに笑うコノハは、彼女に顔を近付けた。



「安心しなよ。お前が死んだら、僕も死ぬからさ」

「は……? どういうことだよ……」

「新しい持ち主を探すんじゃ……?」

「そんなわけないじゃん。僕の持ち主は蘭李だけだよ。それに誰かに乗り換える気なら、こんなことしないで黙って出ていくでしょ」



 脱力しきった蘭李に、背後から腕を回すコノハ。血がこびりついてもお構い無しだった。



魔具ぼくには持ち主(らんり)しかいない。それ以外の人間なんて、世界なんてどうでもいいんだよ。その狭い世界で魔具として扱ってくれれば、それ以外には何もいらない。魔具(ぼくら)はそういうものなんだよ」





 例え、持ち主のせいで死ぬようなことになってもね。





「そんなのはダメだよ」





 ―――――――――バチィイインッ





 蘭李達を覆ってた結界に穴が開いた。どこからか、矢が勢いよく飛んできたのだ。悪魔は飛んできた方を睨む。煉瓦色のツインテールに、白と黒のセーラー服。弓を携え、真っ白い大きな羽を背中から生やしている少女。

 そう。メルが、空から降り立ったのだ。



「てめぇら……!」

「遅くなって悪かったね、皆」



 歩いてくる健治の隣に降り立つメル。彼女は弓矢を悪魔へと構えた。矢が放たれると、再び結界に突き刺さり、次第に崩壊を始めた。



「さっきまでそこの悪魔に足止めされててね。結構なダメージを食らったけど、もう回復しきったから大丈夫。だよね? メル」

「はい」

「……くそ野郎ッ!」



 叫ぶ悪魔に朱兎も飛んできて、彼に回し蹴りを食らわせた。悪魔の体が吹っ飛ぶ。それをメルが追いかけた。飛行しながら矢を放つ。同じく飛行して避ける悪魔は、彼女を影で捕まえようとしている。だが彼女もそれらを避ける。



「――――――ッ……!」



 コノハは唇を噛み締め、蘭李を地面に寝かせた。右腕を刃に変える。緑色の目で彼女を捉え、思いっきり振り上げた。



「やめろコノハッ!」



 白夜が叫ぶ。と同時に、海斗が銃弾を放った。コノハの右肩を弾が撃ち抜く。痛みで顔をしかめたコノハだったが、もう一度鋭く蘭李を見据えた。



「こうするしか……ないんだよッ!」



 刃が振り下ろされる。今更走っても間に合わない。ならばと、白夜や槍耶が魔法を放つ。たがそれよりも早く、コノハに接触出来た者がいた。





 ――――――――――――ガキィイイインッ





 半分に折られた刃が宙に飛ぶ。緑色のそれはくるくると舞い、コノハの背後へと落ちる。一方のコノハの右腕は、刀身が半分折られていた。

 彼は見上げる。自分の腕を折ったのは紛れもなく、目の前にいるこの人物だと確信した。



 真っ赤な目を、獲物を捉えた獣のように光らせる朱兎だと。



「――――――ごめん。コノハ」



 朱兎が小声で呟く。次の瞬間、赤い光に包まれた左手を、コノハの喉目掛けて突き出した。





 ――――――――――――グチャアアアアッ





 時が止まった。それを見ていた者達全員、起こった出来事をすぐ理解することは出来なかった。

 それは、突き刺した本人である朱兎も、



 一番間近にいた、コノハも。





 朱兎の左手は、蘭李の右肩の辺りを貫いていた。





「―――――――え………?」



 ドサリ―――コノハと蘭李が倒れる。彼はおそるおそる視線を落とした。コノハの上に被さる蘭李は、右腕を彼の首に絡ませている。左腕は脱力しきっているが、その姿はまるで、庇ったかのようにも思えた。



「え………っ………あ……っ………⁉」



 朱兎の体が震え始める。ゆっくりと腕を引くと、自身の赤く染まったそれに恐怖した。その視界に映る蘭李は、ピクリとも動かない。ぺたぺたと頬に手を当て、ぼろぼろと涙が溢れる。



 そして――――――。





「あッ――――――ああああああああああああああああああああッ!」





 彼は、泣き叫んだ。


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