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四代トラブルメーカー  作者: かいり
#殻を破ること
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7話―①『双子』

「大変だーッ!」



 叫び声と、壊れんばかりのドアの音と共にやって来たのは、事あるごとに変態的な想像をする残念な美少女・雷だった。ちょうど数分前にここ、天使メルを従える健治の家に到着した雷の友人達は、不思議そうに彼女を見る。雷は息を切らしながらも、必死に言葉を絞り出した。



「おっ……お父さんがッ……!」

「ちょっ……雷落ち着いて」



 冷静ながらもたまに抜けているところがある少女・白夜が、雷に声をかける。雷は息を整え、改めて皆に向き直った。



「お父さんが………ついに反撃するって……!」



 数年前、天神家率いる光軍と、闇属性家が率いる闇軍で、大規模な戦争が起こった。当時闇軍は、数も戦力も圧倒的に不利で、光軍の勝利はほぼ確実と思われていた。

 しかし、結果は大きく変わった。蘭李が協力を求めたとある双子の乱入により、両軍の頭は押さえ付けられたのだった。そのせいで戦争は引き分けという結果に終わった。それだけならまだしも、その双子はとある脅しをかけてきたのだ。



「この先、俺達や華城蘭李、そしてその友人や仲間に手を出したら、この戦争に関わった全員を殺す。光軍も闇軍も関係無く、皆殺しだ。それも、地位の高い奴から順にな」



 それが嫌なら大人しくしてろ。



「………成る程。だから君達は、今まで何も咎められずにつるんでいられてるのか」

「そうそう」



 ソファーの背に肘を乗せながら頷くのは、誰よりも飽きっぽい少女・蘭李だった。彼女は、隣でそわそわしている雷を落ち着かせる。



「普通そんな脅しされたって、何とも思わないけどなあ」

「あの強さを見ると、本当にやってきそうって思っちゃうよな」



 ヘタレで名高い少年・紫苑と、秀才で名高い少年・槍耶がぼんやりと呟く。その傍で鼻息を鳴らすのは、強さを求める現実主義者・海斗だった。健治は彼らを眺め、少し首を傾げる。



「その双子って、蘭李の知り合いなんだよね? 蘭李はともかく、彼らもどちらの軍にも属してなかったのかい?」

「まあね。他人と関わるような性格じゃないし」

「へえ」

「もー! そんな悠長に話してる場合じゃないよ!」



 雷が鈍い音を立てて床を蹴った。皆彼女に注目する。雷は蘭李に詰め寄った。



「蘭李! その二人はどこにいるの⁉ 助けに行くよ!」

「ええっ⁉ 別に大丈夫だと思うけど……」

「ダメッ! お父さんが動いたってことは、何かしら策があるからってことなんだから!」

「でもこっから結構遠いよ? 二人の家」

「~~ッ!」

「なら、魔法道具屋は? 瞬間移動出来るものとかあるんじゃ?」



 槍耶の言葉に、雷は目を光らせた。蘭李の腕をガシッと掴み、リビングのドアに焦点を合わせる。



「行くぞぉおおおッ!」

「うわぁああああああああッ⁉」



 雷は猛スピードでリビングから出ていった。掴まれている蘭李は当然引きずられていく。彼女の先祖である蜜柑と睡蓮も、急いで二人についていった。

 まるで、嵐が去ったように静まり返る室内。皆ちらりと目を合わせた。



「……俺達も行くか」

「そうだな」



 彼らはぞろぞろと、皇家を後にした。



「これが一番安いものかなー」

「ありがとう!」



 健治達が『Ondine』に到着し扉を開けると、雷は店主である夏から商品を受け取っていた。カウンターの脇では、蘭李がぐったりと座っている。白夜と共に来た秋桜は、ふよふよと蘭李のもとへと漂っていった。紫苑が雷のもとへ歩み寄る。



「何だそれ? ポスト?」



 雷が手に持っていたのは、小さな赤いポストだった。大きさが小さいというだけで、他は特に変わっている様子は無い。

 夏はカウンターの中から、紙とペンを取り出した。



「住所を書いた紙をそのポストに入れるとねー、なんとその場所に瞬時に行けるんだー」

「へー! すごい!」

「だけど書いた本人しか行けないし、連続で使う場合は間に少し間を空けないといけないんだー」

「よし! 早速これで行こう! 蘭李!」



 雷がくるりと振り向き、しゃがみこんで蘭李の両肩に手を乗せた。蘭李は彼女に苦笑いを向ける。



「住所なんて知らないよ……最寄りの駅なら分かるけど……」

「じゃあその駅の住所! 書いて!」

「ねぇ雷さん、ホントに行くの? 大丈夫だと思うよ?」

「ダメッ! 蘭李その二人が死んでもいいのッ⁈」

「よくないけどさ………」

「じゃあ早く!」



 蘭李はしぶしぶポケットから携帯を出し、ネットワークに繋いだ。夏からもらった紙に調べた住所を書き、雷に見せる。雷もその住所を写した。それを覗き込む白夜。



「雷、私らも行くよ」

「ありがとう!」

「皇くんも行くんだー? 珍しいねー?」

「双子にぜひ会ってみたいしね」

「じゃあ蘭李から行って!」

「ええっ⁉ 雷さんからじゃないの⁉」

「間違ってたらメールして!」

「信用されてないんだ……あたし……」



 蘭李は若干落ち込みながら立ち上がり、雷の持つポストに紙を投函する。すると、一拍間を置いて、蘭李は忽然と姿を消した。夏以外のその場の全員が目を見開く。



「すご……本当に行けるんだ」

「ねー、便利でしょー? 小さいから持ち歩きも出来るし、値段もお手頃だよー?」

「ちなみにいくらくらい?」

「円換算するとねー………五万円くらい?」

「あっ、予想以上だった……」

「五万でお手頃……ま、瞬間移動だしな」

「蘭李大丈夫だって! じゃあ次うち行くね!」



 携帯をしまった雷が、同じように投函し消えた。その後、紫苑、海斗、槍耶と続けて消えていく。白夜が投函しようとした時、蜜柑がその前に立ち塞がった。



「待て! このままじゃと我らが蘭李の所へ行けなくなる!」

「あ、たしかに」

「ぬしはちゃんと歩いて行け!」

「やだよ。電車でもたぶん二時間くらいかかるし」

「どうしたんだい? 白夜」



 白夜は健治に今の話を伝えた。彼は少し考え込み、閃いたように人差し指を立てた。



「なら、メルと一緒に来ればいい。メル、場所分かるよね?」

「はい。主の気配を辿って行けます」

「おお! 頼むぞ!」

「よろしくねー! メルちゃん!」

「よろしく」



 先祖達がメルのもとへ集まっていく。「頭いいなー、健治は」などと呟きながら、白夜も紙を投函し消えていった。健治も紙を入れようとしたが、寸前でピタリと止まった。薄く笑いながら、夏に振り向く。



「………ところで、このポストはここに置き去りにされるのかい?」

「さすが皇くん。細かいところに気付くねー。大丈夫、消える前にこれを掴んでおけば、一緒に持っていけるよー」



 にっこりと笑う夏。健治はほっと息を吐き、ポストを左手で持ち、そこに紙を入れた。彼も一拍後に姿を消し、メルと先祖達も店から出ていった。室内に静寂が訪れる。夏も余った紙とペンをしまい、店の奥へと消えていった。



 着いたのは、駅から程遠い町外れだった。目の前に建つログハウスを見上げる白夜達をよそに、蘭李はテラスの階段を上り、躊躇わずに扉をノックする。



「蒼祁ー、朱兎ー、あたしだけど開けてー」



 沈黙が流れる。蘭李が再びノックしようとした時、扉が勢いよく開かれ、彼女の体に当たった。ガンッと痛々しい音が鳴り、蘭李がよろよろと後退する。



「………何だよ」



 扉の中から現れたのは、黒髪の少年だった。青い瞳を光らせ、蘭李達を鋭く睨み付ける。蘭李は頭を手で押さえながら少年に近付く。



「あのさ……ゆっくり開けてよ……」

「こんなのも避けられないようじゃすぐくたばるぞ?」

「そんなわけあるか!」



 少年がケラケラと笑う。蘭李はため息を吐き、後ろで眺めている白夜達に向き直った。



「こいつが双子の兄『神空かみぞら蒼祁そうき』。性格はひどいから気を付けてね」

「俺の性格のどこが酷いんだよ。こんなに素晴らしい性格なのに」

「そういうところだよ」



『蒼祁』が何かを言おうとしたその瞬間、彼の背後から勢いよく何かが飛んできた。その勢いで蒼祁も蘭李に突っ込み、二人はテラスから落ちて固い土の上に倒れる。白夜達が驚いて見てみると、二人の上にはもう一人、黒髪の少年がいた。



「蘭李ー! ひっさしぶりー!」



 少年は満面の笑みで叫ぶ。しかし、押し潰された彼女が反応出来るはずもなく。そのことを不思議に思ったのか、少年は蒼祁の背中をバシバシと叩き始めた。



「アニキー! 蘭李が動かないー! ていうかアニキどいてよー!」

「お前がまず退け……!」



 蒼祁が怒りを帯びた呻き声を上げる。少年は瞬時に飛び退き、傍に正座した。蒼祁がむくりと起き上がる。真っ赤な瞳で見上げる少年の頭を鷲掴み、キリキリと力を入れた。



「お前な……少し加減を知れ」

「えー? なんでー?」

「俺が痛いからだ」

「じゃあアニキがいる時には加減する!」

「いや常に加減して!」



 堪らなくなった蘭李が、ガバリと起き上がり叫んだ。咳き込みながら立ち上がり、服に付いた土を払う。唖然とする白夜達に気付き、苦笑いを浮かべた。



「こいつが双子の弟『神空朱兎(しゅと)』。こんな風に加減を知らない馬鹿力だから気を付けてね」

「なになにー⁉ 蘭李の友達ー⁉ よろしくねー!」



『朱兎』がニッコリと笑う。髪形や体型、顔のパーツなどは蒼祁とそっくりだったが、その雰囲気はまるで正反対だった。とても双子とは思えない。

 こんな双子もいるんだな―――白夜達は皆そう思った。

 健治が朱兎をじっと見つめながら、少しだけ首を傾げる。



「神空……しゅと?」

「そう。朱色の兎で朱兎。変わった名前だよね」

「お前も人のこと言えないと思うが」

「まあ蘭李ってのも珍しいよねー」

「蘭李めずらしいの? オレと一緒⁈」

「そう一緒一緒」

「ところで、お前何しに来たんだ?」



 蒼祁の問いに、蘭李ではなく雷が身を乗り出した。



「うちら、あなた達を助けに来たの!」

「は?」



 不審な視線を彼女に向ける蒼祁。蘭李は彼に、雷の話を伝えた。全て聞き終わった彼は、蘭李を見下すように眺め、フンッと鼻を鳴らす。



「余計なお世話だな」

「ちょっと蒼祁……雷さんは蒼祁達のことを心配して来てくれたんだよ!」

「お前だってどうせ思っただろ? いらん心配だと」

「………まあ」

「でもお父さんには秘策があるに決まってる! 絶対危ないよ!」



 蒼祁は雷を見据える。彼女は橙色の強い眼差しをしていた。彼は続けて蘭李を見る。突然向けられた視線に、蘭李は思わず息を飲んだ。

 少しの間を置き、蒼祁はニヤリと笑った。



「なら、お前らで守ってみせろよ。大人しく守られてやる」


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