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神崎真奈美の日記

作者: ひすいゆめ

この話も日記シリーズで法界の話です。

楽しんで読んで頂けると思います。

 私は高校に向かっていたはずだった。

 そう、いつものように。でも、校門の傍で急に目の前が真っ暗になった。

 気付くとそこは大きな木の上だった。頭の中が真っ白になって悲鳴を上げた。すると、小さな子どもがさっと跳んできた。信じられない光景に眼を丸くしていると、彼はそっと手を私にかざした。

 すると、私の体はふわりと浮いて、2人で下に降りることができた。

 「お姉ちゃん、下界人だろう?最近、落ちてくる人が多いんだ」

 訳が分からないので、とにかく、ここがどこなのか訊いた。

 「ここは他の次元から来る人は法界って呼んでいるよ」

 法界?すると、ここは別世界なのかな?混乱していると、彼は町に導いてくれると言った。

 街までもう少しというところで、恐ろしい化け物が現れた。塩の砂漠にうごめく巨大な芋虫が出てきた。

いくら普通の女の子より度胸のある私でも、大きな悲鳴を上げて駆け出していた。少年がその芋虫の前に立ちはだかる。そんな小さい子を残して私は逃げていたのだ。

 街の近くの小屋の中に逃げ込むと、そこには私と同じくらいの歳の少年が地面に座っていた。

 「下界人だな。法術はまだ使えないようだな。それとも、法術師の能力はないのか」

 「その法術って何?誰でも使えるんじゃないの?」

 そこで、彼は立ち上がると手を私に向けた。彼の手から何か目に見えないものが放たれて壁に穴を開けた。

 「これが法術。この世界には法力が満ちている。下界人でも法界人でも法能力があっても最初は空。

この世界の空気に満ちている法力に触れて、本能で法力を取り込む。そこで法術を使えるようになる。

1回法力を取り込めば、法力のない下界でも法力を回復させることができる。残った法力で回復の法術を自己回復能力でな。あとは、法術を使う基礎を覚えれば、誰でも法能力があれば法術は使える」

 良く分からないけど、その不思議な力がないと、この世界では生き残れない気がした。


 彼に従って法能力があるか試して見た。テーブルに水を入れたコップを乗せる。その水に意識を集中する。感情を高めていく。…と、そこまではいいんだけど、結局、何も変化はなかった。思い切り怒りをぶつけた。いきなり、この世界に放り投げ出されたこと。大きな芋虫に襲われたこと。子どもを見捨てて逃げ出したこと。無愛想な青年に色々教わったこと。様々な感覚がこみ上げてくる。

 すると、水が突然渦を巻いて飛び出して、元に戻った。彼は鼻で笑って言った。

 「とりあえず、かろうじて法能力はあるようだな」

 少し私は腹を立てた。私は頭にきて思い切りコップに意識を集中した。すると、水の中から小さな種が現れて大きく育った。コップは割れてそれは小屋の床に根付いて、徐々に大きくなって木になった。木は屋根を突き破り大きくなった。

 「ほう、植物のネーチャー系か」

 どうやら、ネーチャー系という法術の使い手らしい。私は、もっと強そうな系統がよかった。でも、それだけで疲れてしまった。彼は急に振り返り、空気の壁を作った。どうも、塩の砂漠の大芋虫がこっちにきたみたい。私は法力を回復することに集中した。青年は圧縮空気を放った。結界を通り抜けて芋虫に当たった。それはお腹に強烈な衝撃を受けて吹き飛んだ。10mくらい先まで飛んでいった。

 私は思い切り息を吸って、次の化け物の攻撃に備えた。青年がいるから、私の出番はないかもしれないけど、念のために、彼が負けたときに戦えるように。ところが、彼は簡単に再び襲ってきた芋虫をいとも簡単に空気の刃で切り刻んで倒してしまった。

 「で、これからどうする?」

 私は元の世界に戻る術を知らなかった。

 「あなたはここに詳しいんでしょ?」

 すると、彼は言った。

 「俺はしばらくここで力をつける。元の世界に帰るなら、法術師の下界人救急部隊に合流しろ」

 そういえば、ここは街のはずれ。すぐに街に入ることが先決。彼を残して小屋を出た。

 街に入るとローブ姿の集団に出会ったので、すぐに駆け寄った。彼らが救急部隊だと思ったのだ。

 …けど、違った。彼らにすぐに拘束されてしまった。

 「放して」

 「そう言って放す奴はいない。…お前、法界人じゃないな」

 「そうよ。放して」

 「どちらにしても、来てもらおう」

 彼らは私の腕を縛って、術を使って空間を移動した。気付くと彼らは重くて黒い鉛色の湖にいた。瞬間移動の法術を使った人がいたみたいだ。その湖畔にある岩に1人が呪文を唱えると城が現れた。その中に入り、地下の牢屋に閉じ込められた。そこには他にも沢山の人が囚われていて、

 全員、下界人だった。その中の1人の少女がいた。彼女も法能力があり、法術が使えた。

 「いずれ、私の仲間の2人が助けに来てくれるわ。テレパシーで意思の疎通もできる。今、彼らは20km先の街まで来てくれているみたい」

 「じゃあ、私達は助かるのね」

 「いいえ、楽観はできないわよ。ここのボスはザイガスという絶界の者だし、彼は5人の鬼術師を洗脳して操っているし」

 「強い味方を連れてくるわよ」

 「その前に貴女は外に出るの。貴女の力は強い。彼らに合流してここに導いて」

 そう言うと、少女、美由紀は私の肩を叩く。すると、私の体は透明になった。壁に向かって美由紀は私を突き押すと、私は壁を通り抜けて外に飛び出した。目の前には湖が広がり、背後には無機質な城がそびえていた。すぐに駆け出して、近くの針の森の中に飛び込んだ。

 針の森でしばらく歩いていると、巨大なねずみが現れて凄まじいスピードで駆けてきた。私はすぐに走り出すが、かなりの速さですぐに追いつかれた。すぐに両手を前に出した。針からコケが生え始めて次第にねずみの前に壁を作った。ねずみが戸惑っている間に逃げ出す。

すると、針の森から抜け出すことができた。大きな川が目の前に現れる。すぐに法術を使ってみた。精神を集中して水に手を向ける。すると、巨大すぎるオニバスの葉が上流から現れた。近くの小さい針の棒を抜いて櫂にして、オニバスの船に乗って向こう側に向かって進んだ。この先に何があるのか不安だけど、

 とりあえず、飲まず食わずでも大丈夫な世界のようなので、かなり助かっている。ダイエットになるかな?川を越えていると力尽きて眠ってしまった。気付くと巨大な水面しか見えない。海の沖まで流されたのかな。すぐに葦を伸ばして、それに掴まった。徐々に高くなり10mくらいで、やっと島を見つけた。それとも半島かな。湖で湖岸かもしれない。そこまで漕いでいくことにした。でも、すぐにいいことを思いついた。法術で向こう岸の木から蔓を伸ばしてこちらに飛ばした。そして、それを掴むと岸まで引き寄せた。

 すぐに岸にたどり着いた。そこは大きな森で中に明らかに化け物がいるようで、入るのを止めて湖岸を歩いた。すると、森が開けて砂丘が広がった。そこを歩いていくことにした。

 砂丘の中を歩いていくと、大きなドラゴンが目の前に現れた。驚いて駆け出した。すると、強烈なフレアブレスが吐いた。私は咄嗟に近くにあったサボテンを盾にする。サボテンは法術によって巨大な壁になった。フレアを完全に防ぐことはできなかったけど、私を助けることはできた。その間にサボテンの針を巨大にして放った。すると、ドラゴンは目に針が刺さり、大きく叫んで飛んでいってしまった。

 砂丘で私は先に進んでいると、巨大なドラゴンが姿を現した。私は先ほどのドラゴンが子どもで、その報復に来たのだと察して逃げ出した。バーストフレアを吐く。すると、私を庇う鉄の盾が現れた。

 あの巨大なドラゴンのブレスを防ぐとは、かなりの強力な法術だと思った。気付くと隣に2人の少年が立っていた。彼らの1人の力だろう。その1人が言った。

 「俺は都築涼。後ろのは途中で出会った科野京。俺は幸い法術の才能があったけど、あいつにはないらしいけどな」

 彼らも下界の人間らしい。でも、すでに涼の力はここの人間以上に法術は強力だったし、京はここの知識も沢山持っていた。

 「どうして、そんなに凄い力を持っているのに、法術師の救急班に下界に帰してもらおうとしないの?」

 私の質問にこう彼は答えた。

 「ここにあると言われている、法術をある程度発すると願いが叶うと言われている地下の古代遺跡を探している。似た場所なら幾つも見つけたけど、まだ、本物は見つけていない。『ヴィスヴァイヤ』という古代遺跡について、この世界で聞かなかったか?」

 「私はここに来たばかりだから」

 「じゃあ、次の街まで俺達が護衛するぜ。俺は法術は使えないけど、頭脳と腕っ節に自信はあるし」

 涼がそう言ってくれた。

 砂丘を彼らと一緒に旅することになった。ずっと先にオアシスの町、鏡の檻というところがあるそうだ。

そこにいる救急班に帰してもらうことにした。彼らはその先に広がる森にある大蛇の封印されている場所に行くそうだ。

 オアシスで彼らと別れることになるのは、少し心細い気がした。それに、古代遺跡の『願いが叶う』という言葉に心が動かされた。砂丘の先には、蜃気楼が見えた。でも、オアシスの町は一向に見えてこない。

そこで涼の顔を垣間見た。彼は京と顔を見合わせている。

 「下等な幻術だな」

 そう涼が言った。そう、私達は同じ場所をずっと歩き続けていたようだった。すぐに京は手に大剣を出すと、それを思い切り振った。すると、目の前の空間に亀裂が入り、ガラスが割れるように目の前の景色が崩れた。目の前には沼地が広がり、ローブ姿の人がいた。私は牢の追手だと直感して身構えた。

 「あの人は法術師でも鬼術師でもないわよ」

 すると、京はすぐに答える。

 「そんなことは分かっている。でも、それは俺達には関係ないことだ」

 謎の人物と京の戦いが始まった。涼は鉄の翼を背に生やし、飛んでいった。そして、敵に向かって猛スピードで突っ込んだ。翼は刃になっていて、彼を引き裂く。しかし、ローブだけを切り裂いただけで、紙一重で避けられてしまった。私は援護する為にサボテンの針を放った。敵の動きが一瞬よろける。

 そこに京が高く跳んで思い切り蹴り上げた。最後に涼が槍を具現化して刺した。

彼はそのまま、光の粉となって散っていった。京は術を使えなくても十分なくらいな怪力で、柔術家であるみたいだった。砂丘をさらに進むと、やがて大きな岩が転がる大地が見えてきた。その先にオアシスの町がぼんやりと見えた。今にも駆け出したかったが、その前に憲兵がいて止められた。


 憲兵はスピアを構えて私達を牽制した。

 「俺達は怪しい者じゃない。町に入れてくれ」

 「ここは水が限られている。水を奪う者が増えてな」

 すると、涼はある皮製のリストバンドを見せる。そのドラゴンの紋章を見て、憲兵はすぐに距離をとった。

 「その紋章は何?」

 「ハイロワー特別評議員だよ」

 「何、それ」

 「簡単に言うと、この世界の一番偉い人と対等の権利をもらったんだ」

 「何故?」

 「別にいいだろう」

 涼はそれ以上、話そうとはしなかった。街に入ると涼は私を下界救急隊の出張所に連れて行った。

 「あい分かった。しかし、貴方達は帰らなくていいのですか?」

 「ああ」

 彼らは去っていった。

 私は次元移行法術師のいる零区という場所に向かうことになった。街の反対側は砂丘は10km進むと毛糸の草原になっていた。その中に大きなクレーターがあり、穴が開いていた。

 「これは次元の穴で、クリスタルタワーより四天王が法術を使っている」

 救急隊の1人がそう言った。私はテントが並ぶその穴の傍で入ることに戸惑った。次元の穴に飛び込むのに恐怖を感じた。今日は勇気が出ないので止めて、テントの1つに宿泊することにした。

 その間にも、子どもを含めて10人は飛び込んでいった。深夜、私が異様な雰囲気に目を覚ますと、外が騒然としていた。テントの入り口から顔を出すと、次元の穴から巨大な鬼が姿を現していた。

 それを封じようと、10人のローブを着た人達が法術を使って結界を張っている。でも、彼らは吹き飛ばされて、大鬼は完全に姿を現した。私は逃げ出した。クレーターの外には短い木々があったので、その中に身を隠した。完全に隠れるように木の形を変えて。そのまま、夜明けまで待った。

 良く考えたけど、あの次元の穴は下界につながっている。すると、あの巨人はあの穴から来たのではなく、ここにいる誰かが召喚したんだ。法術か他の術かは知らないけど。

 早朝、クレーターに向かった。そこには、すでに法術師はいなかった。でも、巨人もいない。菌類の胞子を飛ばして、辺りの生物を探った。すると、すぐ近くに沢山の人が集まっているのが分かった。すぐに駆けつけると、岩山に空けられた檻に閉じ込められた、

 あの救急隊の法術師達がいた。私が使えるのは植物の法術。岩を砕くことはできない。そこで、檻の前でどうするか考えていた。植物以外に術が使えるかもしれない。そう思い、思い切り精神を集中させて、手を前に出した。衝撃波が放たれたけど、岩には結界が張られていて弾かれた。私が砕けるなら、中の法術師達は自分で破壊して脱出しているだろう。思案に暮れてしまった。

 「クリスタルタワーに行って助けを呼んで来てくれ」

 法術師の1人がそう言った。クリスタルタワー?良く分からないけど、クリスタルの森にあるそうだ。そこはこの世界の首都のような町の中央にそびえるそうだ。場所も事情も良く分かっていない私に頼むことではないようだけど、やるしかないか。すぐに駆け出した。草原の中であるものが見つかった。妙な草が生えている。しばらく見ていると、種を飛ばす植物を見つけた。その植物を使うことにした。

 高く飛ばしてクリスタルタワーを感知する。次に巨大にして、見つけたタワーに向けた。種に乗って、蔓で私の体に括って飛ばした。即席ロケット。でも、着地まで考えていなかった。クリスタルタワーまで飛んでいったが、壁にぶつかりそうになった。

 クリスタルの壁に当たる直前で、目に見えないクッションに包まれて、ゆっくり地上に降りていった。

 その下には、長老が待っていた。

 「下界人だな、大体の事情は分かっている」

 巨人が出て下界への次元の穴が消えたことを説明すると、彼は知っていたように笑顔で頷いた。

 「とにかく、休みなさい」

 急に体中の力が抜けて、私は疲労のために倒れてしまった。気付くと、真っ白な空間にあるベッドに寝ていた。回復の間らしい。起き上がると、女性の看護法術師が現れた。

 「もう大丈夫ね。巨人はザイガスの生んだものだったそうだ」

 「ザイガス!」

 「もう、倒されたよ。下界人の手によってな」

 その言葉を聞いて安心して腰を抜かした。ザイガスの消滅で、また下界人の救急が始まることになった。

でも、次元の穴を再び開けるのに時間が掛かるそうで、その間に私はあの涼が言っていた願いが叶う場所を見つけることにした。確か、地下都市と言っていた。そこでクリスタルタワーの城下町で情報を集めることにした。

 すると、奇妙な言葉を話す子どもに出会った。彼は地下都市を知っているようだ。彼に付いていくことにした。クリスタルの森を越えて乗合馬車はある街で止まった。その近くには、地下都市は確かにあったけど、観光地になっていて、研究の為に発掘がされていた。明らかにここではないことは分かった。

 町をさ迷い、そのうちにある噂を耳にした。ゲルの火山に遺跡があるという伝説が残っているということだ。私はすぐにその火山に向かう馬車に乗った。すると、下界人が一緒になった。彼の名前は矢戦要と言うらしく、彼は法術も鬼術も使えるそうだ。そこで、この世界や法界、鬼界についての知識を詳細まで聞くことができた。彼はこの世界で、涼以上に地位を持ったハイロワーだということも知ったけど、そんなことは私には意味がなかった。馬車はニトロの泉の前で止まった。駅に降りると、近くの町で宿を取った。お金は要が払ってくれた。

 彼の目的は、涼と京を探しているということ。偶然にも、私とある意味目的地は一緒だった。私はボディガード代わりに彼と動向することにした。ニトロの水面を要が光の翼を出して、私を掴んで飛んでくれた。

落ちることを恐れていると、彼はスピードを徐々に上げて、向こう岸に着くことができた。

 そこは、未開の地、ファイアベルトであった。天然ガスが岩山から発生している。そこを歩いていると、侍のような人が現れた。未開の地なので、法界の人も来ない。彼は原住民だろう。すぐに、柄を掴んで構えた。居合いをしようとしているので、要は手に光の爪を伸ばした。

 「そんな低級の技で我と対峙するのか」

 彼はそう言う。法界人と同じ言葉を話すようだ。彼は居合い抜きをしたが、要は光の爪を剣のようにして受けて、空いている左手を敵の鳩尾に掌底を放った。彼が息を詰まらせているところ、その放った手のひらからエネルギー波を放った。敵は弾き飛ばされて岩に激突して気を失った。要の強さが尋常じゃないことがわかった。

 岩場の中を歩いていくと、巨大なドラゴンとそれに添う戦士が現れた。

 「今度はお前だ。法界では、法術なしでは生きていけない。まして、この未開の地ではな」

 私は頷いてここでは使えない植物の法術以外で勝負することにした。最初に放ったエネルギー砲。植物の他のカテゴリーはそれだと思った。思い切り両手に力を込めて凝縮させた。黄金の光は徐々に小さくなって赤くなった。その小さい光の粒は私の両手でさらに大きくなる。次に青い光の粒になった。凝縮されたエネルギーは、私の手から放たれた。

 細い光線の尾を引いて光弾は5m先で巨大な黄金の光になって広がった。それに包まれたドラゴンはブレスを吐くけど、そのブレスごと光のエネルギーは包んで一瞬で消滅させた。さらに、その背後の岩山は丸々消え去った。その先には荒野が広がった。戦士は高く飛んで避けたけど、エネルギー波から外れた岩山の上から降りてこなかった。私は一気に力が体から抜けて座り込んでしまった。

 戦士はその視線を要に向けていて分かった。私の技ではなく、隣の要に恐怖して逃げているんだ。

 荒地を進んでいると、やがて、ゼリーの海に出た。その上を歩いていて、気付くと先ほどの戦士が後をつけていることに気付いた。ゼリーの海を進むと、下から龍のような鮫が現れた。私はもう力は残っていない。要は光の爪と足を発して、敵の攻撃を待った。しかし、魚は要の能力に臆しているのか、なかなか私達をえさにしようとしない。そのまま進むと、魚達が多くなり始めた。気になっていると、魚はいよいよ行動を始めた。集団になって私達に襲いかかった。私は悲鳴を上げる。

 そこで、要は爪を振るった。2匹は一瞬にしてバラバラになった。それでも、他の大群は群がってきた。

 巨大な鮫の化け物、デーラはすぐに群れで飛び出した。要は変化してドラゴンの人型、ドラゴノイドになって、フレアブレスを吐いた。全ての魚は焼き尽くされた。と同時に、ゼリーの水面が溶け始めた。

 彼は私を抱えて翼を広げた。空高く舞い上がって下を見下ろすと、そこはどろどろの液体に変化していた。向こう岸まで飛んでいくと、そこは紙の草原であった。降りると元の人間の姿に戻った要は、

 向こうに見える遺跡を指差した。ピラミッドとその入り口に立つ2体の石像が見えた。

 「あそこに奴らはいるかもな」

 すぐに駆けつけようとするが、巨大なドラゴンが現れた。要はドラゴノイドに変化して、さらに力を放つと、元の人間の姿になった。でも、今まで以上に強力な力を感じた。ドラゴンに彼は攻撃をした。しかし、たたき落とされた。その上、強烈なブレスを吐いた。彼は気絶してしまった。

 要が気絶してしまった今、本格的なドラゴンの門番を倒すことは実質不可能になった。しかも、遺跡を狙ったことでドラゴンに命を狙われている。私達は最大のピンチだ。そこに、遺跡のピラミッドから光線が放たれた。中から光線が放たれてドラゴンは地面に伏せた。涼がそこにいた。その隙に、京が駆けてきて私と要を担いでピラミッドに向かった。あの中に入れば、巨大なドラゴンは追って入って来れない。

 でも、その前にドラゴンは私達の前に立ちはだかった。涼たちはドラゴンをかわしてピラミッドに逃げ込んだので、倒したわけでなく、その力もない。再びピンチになった。目を閉じて精神統一した涼は、巨大な剣を出して右腕に装着した。広い翼を背中に広げると、彼から凄まじいオーラが放たれ始めた。

 私と京はピラミッドから見守る。静寂に包まれた涼は、突然飛び出した。ドラゴンの後ろに回ると、剣を振りぬいた。ドラゴンは傷はつけることはできなかったが、岩山に激突した。怒りを見せるドラゴンは振り向き炎を吐いた。しかし、翼で高速移動して天に舞い上がると、涼は剣を振った。真空刃が放たれた。

 それでも、ドラゴンは腕を振ってそれを弾いた。結局、彼の攻撃もドラゴンの肌には通じなかった。ドラゴンは翼を広がると大きな羽ばたきを見せた。一瞬で近づいたドラゴンに涼は剣を振るった。それを受け止めて、ドラゴンは爪を振るった。剣は折れて彼は地面に激突した。レベル2に変化した涼でも通用しなかった。ミドルドラゴンでもかなりの強さだった。

 気絶していた要は冷たい性格になって覚醒していた。まるで二重人格みたいに彼は冷静に、かなりの強力な力を放っていた。すぐにドラゴンは危機感を感じて、彼に炎を吐いた。でも、彼は右手で受け止めて握りつぶした。圧倒的な強さだった。彼は手からものすごいエネルギー波を放った。すると、ドラゴンは吹き飛ばされて岩にめり込んだ。そのまま、彼は手をドラゴンの腹部に突き刺した。ドラゴンは咆哮を上げた。

 そのまま息絶えて要は私達の方を見た。その目は敵を見るような視線で、私達は戦慄を覚えた。

 そのとき、空から強烈な光が降り注ぎ、要は元の意識を取り戻して倒れた。空から降りてきたのは、見慣れない青年だった。彼が要を元に戻せたということは、それ以上の力を持っているということだろう。私はまず、敵かどうかを観察することにした。彼は天使のような姿をしていたが、すぐに元の姿に戻った。

 黒いローブを着た術師であった。いわゆる『鬼術師』だろう。

 「法術師との和解で、交流が始まったんだ」

 京がそう呟いた。

 「私は要の護衛で来た混沌界特別王宮近衛兵、第2隊隊長、颪だ」

 彼の自己紹介で自分が味方であることを説明した。颪は強力な力を持つ下界人の涼を訪ねるため、

ここに来たそうだ。そのため、彼が護衛についてきたとのこと。要が何故、この世界に来て涼達に興味を持ち、ここに来たのかは気付いてから聞くことにした。颪は気絶している要を抱いてピラミッドの入り口に寝かせた。

 「ここが貴方達の探していた地下遺跡?」

 私の質問に京は答えた。

 「分からん、俺達もここに来たばかりだからな」

 そこに涼が付け加えた。

 「それに入り口の先は行き止まりだ」

 私は奥まで行ってみた。50m先で袋小路になっているのに驚いた。何か仕掛けがないか探していると、後ろから京が声を掛けてきた。

 「迂闊に触るとトラップに掛かるぞ。遺跡の盗掘に備えてここはダミーで入り口のようなものが作っているのだからな」

 「じゃあ、本当の入り口は?」

 「それが分かれば、君達を助けてないさ」

 まずは要の回復を待つことにした。すると、涼が感知を始めた。そしてピラミッドから遠く離れた岩山の山頂を見た。

 「入り口はあそこか」

 でも、そこまで行く間に、あのドラゴンより強力なものが門番としているだろう。なにしろ、ダミーの門番があの強さなのだから。やはり、要の力が必要だ。回復までは行かないが、要の意識が戻り動けるようになったので、颪は黒い霧を向かいの岩山の山頂まで放った。

 「この中であれば、気配を消していける。ただし、攻撃は防げない。視覚のない化け物なら、感知できるだろう」

 「感知能力が強い奴もな」

 涼がそれに付け加えた。それでも、ここで休み続ける訳にいかず、先に進むことにした。涼はレベル2になり、要はレベル6になって進んだ。すると、3つの頭を持つワイバーンが舞い降りてきた。今のところ、私達に気付いていない。このまま、息をひそめて進んでいった。

 亜種ワイバーンは鼻を嗅ぐ仕草を見せ始める。私達はすぐに山頂まで飛んだ。その音で気付かれてしまった。颪と要にワイバーンを任せて、私と涼、京は遺跡への入り口を探した。知覚能力を私は試したが、全然分からない。その間に、彼らは3首のワイバーンに苦戦していた。3つの口から氷、炎、風のブレスが吐かれた。もう駄目だと思ったとき、颪は赤い布を左腕に巻き、シルバーの華麗なリングを左の中指に、シルバーの羽根のリングを右の中指にはめた。

 すると、右手の指輪から火の鳥を出して、それに乗り、左手の指輪から水の刃を出して、ワイバーンをあっという間に2つ首にした。さらに左腕から風の刃と波動の混合波を放った。もう1首が砕けて1首のワイバーンになった。颪は右手の炎の指輪、左手の水の指輪、左腕の風の布を使う。それは鬼術増幅装置であることは分かるけど、それが術で作られたものなのかどうか。この際、気にしないことにした。

 私達は遺跡の入り口を探す。すると、京が岩山にパンチをし始める。50mの区間を拳を振るうと、1箇所平たい場所があった。岩の質のせいかと思ったけど、涼が法術を放つ。彼は具現化だけでないようだ。

 幻術もできるらしく、その反対の幻術解除で、結界を解除して遺跡への入り口を見つけた。すぐにその中に入った。炎の剣を出して、風でパワーアップさせた颪は、ワイバーンのブレスを氷の盾で防いで、飛び掛って剣を振り下ろした。ワイバーンは断末魔を放って消えた。炎の鳥を作り、それに乗って岩山から落下するのを止め、遺跡の入り口に入り、内側から元の幻術の結界を作って後から来る者を防いだ。


 入り口から急に岩のエレベーターで急降下した。そのまま岩山の下の地下まで550m下がった。そこはピラミッドの地下まで続く通路だった。通路はすぐに壁に光の玉が発生して先まで続いた。術で照明発生装置があったようだ。壁は鮮やかなレリーフが刻まれている。先に進むと、途中で壁に阻まれる。そこには獅子の頭があった。それは岩で出来ているのに、話を始めた。

 「ここで3つの課題を解け」

 そして、1つ目の課題が発声した。

 「口の中にある程度の法力を溜めなさい」

 そこで、颪は鬼術師なので無理である。私は少しは回復したものの、そこまでの力がない。しかも、要はまだ目が覚めてすぐ。全然、回復していない。全員の視線は涼に集中した。でも、彼は具現化と幻術しか使えない。万事休すになると思われたそのとき、颪は要に鬼術で精神の力を回復させた。要は法術も鬼術も使える。その力の源は精神力。精神力が回復すれば、法術も鬼術も同じである。彼は完全に回復した。

 岩の獅子に要は思い切り法術で炎を放った。すると、獅子は溶けて壁が消えた。その先には大きな空間が広がっていた。

 次の課題は、奇妙な化け物との戦いだった。その空間の中央には、狼の首を持った黒馬に乗った騎士だった。でも、その姿はまがまがしく、頭は炎で出来ていて、右手にはひげの生えた武将の首を掴んでいた。

 「魔王の首を持つ悪魔か」

 その颪の言葉に私は背筋をぞくっとさせた。左手のジャベリンを構えて、彼は馬を走らせた。京はすぐに駆け出して、その突かれるジャベリンを避けた。そのまま、高く飛んで肩を両足で蹴ると、炎の頭の悪魔は体勢を崩して魔王の首を落とした。すると、その頭は目を開き口からおぞましい声を発した。私はそこで気を失ってしまった。

 その後の状況は後に要に聞いた話である。京はさらに、耳を塞ぎながらその首を思い切り蹴った。それは岩に当たって声を止めた。この危険な世界の中で、法術なしで生きてきただけあると思った。涼も負けじと、本体に大剣を具現化させて振るった。ジャベリンは弾かれて岩の壁に刺さった。要はドラゴンのフレアブレスで魔王の首を燃やした。残る本体は狼馬に同化した。炎の馬と化した。

 そこで、涼はこう言った。

 「具現化できるのは、鉄だけじゃないぜ」

 そして、凄い勢いの水を放った。炎の馬は湯気を放ちながら後ずさり、そのまま倒れた。全員は前方に進んだ。前の壁が開いてさらに進むことが出来た。おそらく、ピラミッドの入り口の下辺りにきたところで、

最後の関門があった。

 「お前達の仲間の1人の分身を作り出す。それに勝てば、入ることを許可する」

 そこで、幻の空間が当たりに広がった。私達は中央に集まると、偽者の颪が現れた。それは影で出来ている。

 「お前らの中で一番強い者が相手だ」

 あの岩の獅子の声が響いた。鬼術師である颪が相手であれば、相反する力のある法術師が戦うべき。しかも、弱い私は駄目。そこで、涼が相手することにした。彼は手刀から光の刃を出した。でも、5分で消えた。

 「実は、物質でないものは形は自由に変えられるけど、容量や発生時間は変えられないんだ」

 と言いつつも、影の颪には有効な光の剣で勝負することにした。涼は再び光の剣を出して走り出した。

5分くらいの短時間しか発してられないので、すぐに攻撃を始める。闇の颪は炎の剣で受けて裁いた。

 「所詮、どんなに我に有効な技でも、当たらなければ意味がない」

 そこで、5分くらいたったところで、剣が消えた。そこで涼は距離をとって体勢を整えた。集中力を高めて、もう1度突っ込んだ。光の剣を発生させて、炎の剣を裁く。次に風の剣を弾いて、氷の盾を割った。

 最後に振りぬこうとした。そこで剣は消えた。炎の剣が彼を捉えた。彼は腹を押さえてうずくまった。

 しかし、涼は皆の不安をよそに、薄笑いを浮かべる。影の颪は2つに切れて消えた。

 「どういうこと?」

 私が聞くと彼はこう言った。

 「まず、5分程度で消えると思わせること。実は消えてなかったんだ。見えないほど細長くして、ワイヤーのようにして切った」

 最後の試練を越えて、私達はピラミッドの下のゲートに立った。ピラミッドの地下には、強大なレリーフと象形文字の刻まれた門があった。

 「課題は3つとは言われたが、その3つをクリアしてもこの先に危険はないとは言われていない」

 そう言うと要は光の爪と足を発生させて、飛んで門の上にあるドラゴンの像に爪を振るった。すると、岩のドラゴンは飛び出して避けた。

 「本物の門番、ドラゴンガーゴイルだ」

 今度は、腕の光の爪を巨大な剣にして、飛び掛る岩のドラゴンに切りかかった。それはフレアブレスを放った。彼は光の翼を出して空中で避けて、敵の翼を切り裂いた。落ちてそれは粉々の岩の欠片になった。

巨大な門の重い岩の扉を要が開いた。向こうには、スロープの通路が続いていた。皆でその通路を上がっていった。しかし、すぐに丁字路になった。

 「右にする?」

 私がそう言うと、要は首を傾げる。

 「雰囲気は左だが、きな臭い。どうするか」

 そこで、涼は暗いピラミッドにカンテラを具現化して視界を確保して左右を眺める。しかし、通路は長く奥まで見ることはできなかった。要は鬼術で影の狼を出して左に走らせた。

 すると、しばらくして要は言った。

 「行き止まりだ」

 どうやら、ダークウルフは彼の視界代わりらしい。同じ視界を共有することができるそうだ。

さらに時間がたつ。炎が上がった。

 「トラップだ。壁にあったレリーフが、隠し扉の鍵だと思ったが」

 かなり、恐ろしい遺跡であることがわかった。右に向かって私達は歩き出した。

 さらに進んでいくと、ピラミッドの内部に入ったらしく、雰囲気が一気に変った。大きなエントランスのような空間に出た。天井の中央に光の玉が浮いている。前方にドアが5つある。その上に象形文字が刻まれていた。

 「この扉に5人が別れて、1人ずつ試練を受けよ。3人以上打ち勝てば、さらなる場所へ通すことを許されるだろう」

 颪がそう読んだ。

 「こう見えても、ここの原住民の歴史には詳しいんだ」

 彼は敵対時期に法界の調査をしていたのだ。そこで、時間操作の仲間とこの地の前にいた原住民と会話をしたそうだ。颪、要、涼、京、そして、私と5人はバラバラに進むことになった。私はこわごわ扉を開くと、そこには巨大な鳥がいた。中は岩で出来ているので、生物法術は使えない。エネルギー波しかなかった。私は巨大な鳥に向かって、エネルギーを両手に集めた。それは私の攻撃準備を待ってはくれない。

 凄まじい勢いで突っ込んできた。黄色い光が小さくなっただけで、あの時のエネルギーまで溜めずに、中途半端に放った。すると、あの時ほどでなかったが、効き目はあった。巨大鳥は吹き飛び壁に叩きつけられた。この隙に、もう1度あの時の凄いエネルギーを溜めることにした。壁から落ちて床に寝そべる間に、黄色い光を小さく、鳥が起き上がる時に青い光に、鳥が気付いて再び飛び上がる時に青い光が収束して小さくなった。鳥が攻撃を始めて突っ込んでくると同時に、膨大なエネルギーが放たれた。

 鳥は跡形もなく消え、前方の壁さえ壊してしまった。前方にはさらに大きな空間があった。私が一番乗りで、一番弱い敵だったみたい。その控え室には、他の4人の部屋が見える水晶の結晶が4本巨大にそびえていた。


 私は最初に動いた颪に注目した。彼の敵は4本腕の戦士だった。颪は左の拳を握って叫ぶ。

 「とどろけ、白也びゃくや

 すると、部屋が凍り始める。天井からつららが下がり、地面から氷の塊が発生する。

 「うなれ、赤光しゃっこう

 すると、腕の布がたなびき風が渦巻いた。吹雪状態になり、ダイヤモンドダストが発生した。

 「この程度の温度低下は我には効かん。吹雪も目隠しにならん」

 敵は4本の剣を出して握った。颪は精神統一して氷の剣を握ると、目を瞑る。戦士は駆け出した。

 そこで、彼は屈んで超人的な跳力を見せた。足を伸ばした途端に彼は消えた。敵は颪のスピードに唖然とした。このまま、颪は出口側に現れて、振り返り叫んだ。

 「唸れ、白也」

 すると、彼の後ろから敵を含んで部屋がすっぽり氷で固められた。そのまま、出口のドアを開けようとしたが、開かなかった。

 「この程度で買ったと思うな」

 戦士は体の周りだけ、高温を発して防いだのだ。そのまま、氷を溶かすと剣を4本振りかざして駆け出した。

 「ざわめけ、黒羽こくは

 すると、強烈な炎が右の指輪から放たれた。

 「今までのは、この鬼力を溜めるための時間稼ぎだったのさ」

 颪はそう言って、炎は徐々に火力を高める。反対側の壁は溶け始める。4本の腕で防ぐ戦士も徐々に溶け始めた。終わると、ドアを開けて私のいる空間に出てきた。

 次は要の様子を見ることにした。要はドラゴンスレイヤーだった。かなり彼にとって分が悪いけど、

それでもドラゴノイドに変化した。彼は爪を伸ばして素早く走り、敵の後ろに回った。

 ところが、彼もドラゴンの性質を知っている。すぐにドラゴンキラーと呼ばれる槍で応戦した。それを避けてブレスを吐く。でも、左腕の小さな盾から光のバリアが張られ、それは簡単に防がれた。

 そして、ドラゴンキラーを回して突いた。要はさっと爪を使って払うと、今度は飛んだ。しかし、それはフェイクだった。ドラゴンキラーが受け流されたと同時に、その槍の柄から隠された穴が開き、それから弓矢が放たれた。要を貫き彼は地に倒れた。ドラゴンスレイヤーはにやりと微笑んだ。

 しかし、それは終わりじゃなかった。要は分身していたのだ。刺された要は消えて、ドラゴンスレイヤーの背後に本体の要がフレアブレスを放った。敵は弾き飛ばされて壁に激突した。

 そこで、再び分身して合体し、1体のドラゴノイドになって、さらに変化をして元の人間の姿になった。

 しかし、強烈なドラゴンの法術の力が放たれていた。

 「ドラゴンスレイヤー?意味がないな」

 そう言うと、とてつもない速さで懐に飛び込み、拳を放った。敵は壁にめり込んだ。最後に特別な力でグレーのドラゴンを放った。敵は完全に粉々になった。それは、法術と鬼術の合体技であり、それを可能にできるものはいなかった。なぜなら、相反する力を合わせて倍以上の力を発揮するのだから。要も私のいる場所に出てきた。

 次に涼のクリスタルを見ることにした。涼はすでに巨大な剣を出していた。相手は2匹の大蜘蛛である。

1匹は後ろを向き、粘着糸を網のように出した。それを切ろうとすると、剣は糸にくっつき絡みついた。すぐに捨てて新しい剣を出した。次の瞬間、天井からもう1匹が落ちてきた。剣をもう1本出して、前方の蜘蛛に1本を向けながら落ちてきた蜘蛛を串刺しにして切り捨てた。

 「俺の力は1つしか具現化できない訳じゃない」

 そう言って、剣を構えて駆け出した。蜘蛛は部屋中に糸を放つ。彼は大きな盾を出して全てを防いだ。

 次の行動に私達は驚いた。盾で涼は部屋の半分を防いでいるので、蜘蛛に近づくことはできないが攻撃したのだ。盾の形を変えたのだ。盾から針が無数に生えて、伸びていった。蜘蛛は串刺しになった。

 全てが終わると、私達のいる場所に出てきた。最後に法術を使えない京の水晶を見た。

 京はすでに格闘タイプのストーンゴーレムと戦っていた。彼はキックボクシングをしているが、石なのにパンチやキックを平気で放っている。彼は並半端な強さではないようだ。しかも、技で押していた。ゴーレムは丈夫だが、動きが遅い。明らかに京が有利だった。そのうち、空手になりゴーレムの右腕を弾き飛ばした。そして、足払いをするとそれは倒れた。そのままジャンプして、渾身の力を込めて腹に正拳突きをした。ゴーレムの全身にひびが走り、そのままばらばらになった。術も使わずにどれだけ強いのか、改めて思い知らされた。5人とも無事にこの困難を乗り切った。

 再び合流した私達は、広間の先の階段を上っていった。すると、玉座の間に出た。その玉座に座っていたのは、スケルトンの王であった。


 スケルトンは言った。

 「我が法術の試練を抜けて、よくぞここまできた」

 彼は死を受け入れることのできない呪いに掛かっているようだ。血肉さえなくなった今でも、死を許されない悲しいさだめ。私は悲しくなった。

 「貴方は?」

 要は訊く。彼は厳かに答えた。

 「かつて、この地には、エンル王国という国が広がっていた。しかし、ある時『空を得る悪魔』がここに来た。王国は地に沈んだ。全ての街がだ。私は最後まで戦ったが、殺された。そして、ここに埋葬された。

だが、1年後に目が覚めた。そう、初めて遅延法術の呪いにかけられていることが分かったのだよ」

 「で、ここに一緒に埋葬された宝を護るために法術でトラップを作った」

 要の言葉に頷いた。

 「この呪いは誰かの願いをかなえることで消える」

 その言葉に全員は顔を見合わせた。

 「その前に、悪魔を倒さないと。で、そいつは?」

 涼の言葉に古代の王は間をもって答える。

 「私と刺し違えた。この奥の封印の間にクリスタルで封印されている」

 「じゃあ、いずれ復活する可能性がある。倒そう」

 要が言うと、王は首を骨の横に振った。

 「不可能だ。あれは最強で桁違いの強さなんだ。この私でさえ、封印が精一杯で呪いを受けるのがやっとだったのだ」

 そこで、私達は考えた。

 「願いをかなえれば、呪いが解けるんでしょ。なら、あの化け物を倒すか消すっていうお願いすれば」

 私の言葉にスケルトンは言った。

 「それはできない。自分の術で自分を消すということになる。それをすると思うか?」

 「じゃあ、誰かの願いをかなえれば?呪いが解けるでしょ」

 「駄目だ。刺し違えたと言ったろう。俺の呪いが解ければ、瞬時に死ぬ。そうすると、結界が解けて奴が復活してしまう。あの封印は永久法術では、力が弱いから無理だったのだ」

 そこで、要が言った。

 「じゃあ、除術師のところに行けば…」

 「ここから出られたら、こんな場所にずっといない。副葬品も私には必要はないのだし。遠方でも結界の力はある程度、持続できるしな」

 「この部屋から出られない呪いもあるのか」

 要は唸った。ここは5人、いや、6人で倒すしかないと思った。願いをかなえに来た涼達には悪いが、化け物を倒せば呪いは解けて、彼は死んで願いは叶わないでしょう。

 スケルトンは止めたが、私達は封印の間に向かった。クリスタルに封印された魔王。要は光の手を巨大に発生させて、その鋭い爪でクリスタルを砕いた。魔王は固まったままだったが、徐々に息を吹き返した。

 「なんてことをするんだ。私達ではかなわんぞ」

 要は涼からあるものをもらった。それは具現化した巨大爆弾。それを思い切り投げた。遺跡は大爆発を起こした。魔王は復活したてだったので、防御する暇なく倒れた。遺跡は天井が崩れて私達は瓦礫の下に埋まった。でも、要が光の羽根でバリアを作ってくれたので、助かった。

 魔王はそれでも、まるで蚊に刺されたくらいに思っているだろう。魔王は手に力を溜める。エネルギーが徐々に溜まっていく。そのまま、私達に放った。ピラミッドは崩壊した。しかし、大きな光の羽根を羽ばたかせて、大きなドラゴンの光る手に私達を乗せて、要は素早く空高く舞い上がった。

 魔王の咆哮が空にとどろいた。私は力を溜め始めた。同時に要もブレスを溜め始める。涼は巨大なロケットランチャーを具現化し始める。颪は京と高みの見物をすることにした。一斉に私達は攻撃を放った。

ロケットランチャーからロケットミサイルの連打、要の口からフレアブレス、私は例のエネルギー波を放った。ピラミッドの瓦礫にいる魔王は爆発の中に巻き込まれた。


 爆風が収まると、右腕のない魔王がいた。まだ、全然ダメージを負っていないようだ。3人の最大攻撃でも叶わない。スケルトンの王の言うことは確かのようだ。彼ももうかつての力を持っていないので、刺し違えて封印することはできないでしょう。そこで、全員は颪に視線を集めた。彼は諦めたように傍観を止めた。鬼術の中の最大術を放った。黒く巨大な負のエネルギーボールを物凄い勢いで放った。

 魔王は受け止めたが、受け止めきれずに地面にめり込み、そのまま、エネルギーボールに飲み込まれた。

そのボールは徐々に小さくなり、消えた。次の瞬間、大爆発を起こした。今度こそ、と期待を込めて私達は見守る。爆煙が収まるのを待った。

 爆風が収まると、そこには影と化した魔王がいた。肉体を失った魔王は魂だけの存在になった。今度は、魔王は強烈な黒い炎を放った。要は光の右手で私達を掴み、左手をバリアにした。それでも、その光は失われ私達はダメージを受けて地面に落下した。そこを私は寸前でコケを見つけて、それを増やしてトランポリンにした。影の魔王はさらに追ってきて、黒い炎を吐いた。

 今度は颪が鬼術でバリアした。それでも、彼にだけバリアが破壊され迫った炎が襲った。颪は高く飛んで炎の羽根で空に浮かんで避けた。さらに、攻撃を始める。

 「唸れ、白也」

 氷が影の魔王は炎を封じられ、魂は氷の中に封じられた。それでも、数秒で氷が破壊されて宙に浮いた。

颪は下の私達に目で合図をした。私達はその意図を理解して頷いた。

 颪は氷の剣を発して力を高める。私達は法力を颪に注いだ。彼の剣は巨大な凄まじいエネルギーの剣となる。影の魔王は巨大な黒い光線を放つ。それを避けながら、魔王に突っ込んできた。魔王の攻撃を耐えることも跳ね返すこともできないと

 判断した颪は避けるしかなかった。しかも、懐に飛び込むしかない。遠くからの攻撃では、今までのようにダメージが小さい。近距離武器で近距離攻撃しか、ある程度のダメージを与えることができないと、

颪は判断したのだ。命がけになったとしても。影の魔王がエネルギーを両手に溜めている隙に、

氷の剣を横に振った。魔王は半分になって、凍りついた。そこに要が光の爪で加勢しようとした。

 すぐに要が魔王を砕いた。凍りついた魔王の上半身は、回復する前に粉々になった。そこで、安心した私の首に何かが巻きついた。魔王の下半身の尻尾だった。京は正拳突きで下半身を引き剥がす。

 息を整える私を颪は抱えて高台に逃げた。要は光の羽根でバリアを張って、光の爪を剣に変える。剣を具現化した涼は、それを抱えて魔王の下半身に向かって走った。しかし、すでに上半身の胸部と右手が再生していて、その右手で剣を受け止めた。剣をそのまま強化特殊合金に変え、魔王を包んだ。

 そこで、要が駆け出して合金に包まれた魔王を光の手で掴む。それを思い切り宇宙に放った。

 宇宙の果てに飛ばされた魔王を見て、私達はほっとしたその矢先に、背後で嫌な予感がして、私はコケのバリアを背後に張って跳んだ。すると、バリアを超えて背後から光線が放たれた。振り返ると、凍ってバラバラになったはずの、影の魔王の下半身が復活していた。すぐに要は光の羽根でバリアを張った。

 颪は影のエネルギーを放つ。そこで、魔王は影のバリアで跳ね返した。でも、要のバリアで防がれた。

 涼は巨大な剣を無数に出して、魔王を串刺しにした。しかし、彼は実体がない。意味がなかった。もう、私達には法力が残っていない。颪はまだ力を残っているかもしれないけど。私達は一時、非難することにした。幸い、魔王の傍なので、法界の中でも巨力な魔物達も近くにはいなかった。

 私達は涼の出したジェット機に乗り込んで、彼の最後の力で脱出を試みた。凄まじいスピードで、このエリアを抜けて光る粉の海岸にたどり着いた。しかし、魔王もあのエリアから追ってきていた。私達を生かしておくのは危険だと判断したのだろう。私達は再び対峙した。

 魔王に対抗するには、一度ヒーリングを行う必要がある。私はすぐに涼に法力の回復を行った。その間に、颪は凄まじいスピードで魔王の背後に回り、暗黒の剣で背中を刺した。魔王は徐々に肉体を取り戻しつつあったので、すぐに気付き振り向いて、颪に向けて腕を向け、波動を放った。

 刹那に屈んで避けると、後ろに跳んで距離を保った。そこで、要はすぐに颪に気が向いている隙に接近した。光の爪で攻撃した。でも、すぐに気付かれて振り向きざまに右腕で裏拳を放った。要はかろうじて両手で防いだが、吹き飛ばされて近くの虹色の岩に激突して気を失った。

 私のヒーリングが完了して、涼は法術で大砲を具現化して放つ。でも、魔王は片手でそれを防いだ。

颪は私達の元に戻ってきた。すでに万事手は尽きたようだった。

 そこで、魔王は私達の方に迫ってきた。私はもう駄目だとかがみこむと、巨大な力が発せられるのを近くで肌で感じた。振り向くと、別人格の要が凄い力を発していた。片手を魔王に向けて波動を放つ。

 すると、魔王は弾かれて地面にめり込んだ。颪も参戦して、高く飛んで黒い波動を放つ。魔王はダメージを受けて動かなくなった。そこで涼は特殊合金の檻で魔王を閉じ込めた。さらに要は両手を魔王に向ける。

エネルギーを最大限に溜め始める。そのうち、地面が揺れて空気が淀み始め、要は大きなエネルギー弾を発生させて、魔王に向けて放った。強烈な爆発が起こった。それは次元にゆがみが起こるほどのものだった。

 颪が咄嗟に黒いバリアを張って私達を護ったが、それでも、ダメージを負ってしまった。

 要は光を放ちドラゴノイドになり、すぐに元の姿でした。その先に新たな姿が待っていた。彼は角をはやして牙をむいた。

 「竜王後炎拳」

 背から炎の翼を発すると、一瞬で爆風の中の魔王の目の前に行き、踏み込むと地面がクレーターを作り、

裏拳を放つと、魔王は簡単に吹き飛んでしまった。虹色の岩にめり込んだ魔王をさらに追い詰めて、

天にアッパーで放り上げた。思い切り跳んで、凄まじいボディブローを連打して両手を組んで地面に叩きつけた。魔王はやっと立ち上がり、反撃を開始する。巨大な炎の玉を放つ。しかし、要は人差し指で弾いて、叫ぶ。

 「竜王爪炎拳」

 彼の手が緑の炎のドラゴンの爪に包まれた。後に要はこう言う。緑の炎は上界の法の炎で邪悪なものを滅する力を持つと。すぐに、要は魔王に緑の炎をまとった拳を放つ。魔王はすんでのところで避けて、空に逃げた。最大のエネルギーを放つが、要は両手で受けて跳ね返す。魔王は弾いて空高くエネルギーは放たれた。すかさず、要は高く飛んで緑の炎を放った。魔王は空中でかわそうとしたが、一瞬で後ろに回って、羽交い絞めにした。魔王は炎に直撃して、一瞬のうちに燃え尽きた。断末魔だけがあたりに残った。

 要は地に戻ると、今度はターゲットを私達に向けた。それに私達は驚き、すぐに身構えた。すると、スケルトン王が言った。

 「私に願うのだ。彼を元に戻すように」

 私達は顔を見合わせて戸惑った。涼たちには大切な願いがあるようだった。

 魔王がいなくなったので、強力な魔物が寄ってきた。そこで、もう1人の人格の要は、私達からターゲットを上級モンスターに変った。すぐに高く飛ぶと、上級ドラゴンの群れを捌き始めた。普通の法術師では、3人で1時間で何とか倒せるドラゴンを、群れを一瞬で倒していく。どんどん地面にバタバタと落ちていった。その間に、涼はスケルトンの王に言った。

 「俺達が探している仲間の真琴をここに連れてきてくれ」

 いきなり、この状態で自分の願いを言ったことに、私は面食らった。すると、王は急に光って灰と化した。と同時に、涼達くらいの女性が現れた。彼女は軽武装した勇ましい戦士の姿をしていた。

 「何をしていたんだ?救急隊にも掴まってないし」

 「魔物退治の手伝いだよ」

 そこで、空の要を見て言った。

 「何か、厄介な状況に召喚したなあ」

 彼女の法力がかなり強力なことは漂ってきていた。


 真琴は小さく呟くと、一瞬にして要の背後に飛んだ。そして、高速回転をして要ごと波動を放ち攻撃した。周りの上級ドラゴンは1匹もいなくなった。彼らの存在のおかげで、魔物は1匹もいない。涼と京は、祈りをかなえて呪いから放たれて命が尽きたスケルトン王の亡骸に冥福を祈っていた。私は上空に視線を戻す。真琴と要の戦いが始まっていた。味方同士の戦い。しかし、それもすぐに終わった。真琴は元の意識の要を無理やり引き出そうと、センシティブの法術を使った。すると、彼は気を失って元の姿に戻り地に落ちた。それを一瞬にして地に戻る真琴が受け止めた。これで、全てが終わった。


 「私は普通の法術師だ。力を増強しているのは、こいつのおかげだ」

 真琴は右指の指輪を見せた。

 「これは茶印さいんという道具で、主に重力を操る」

 波動も一瞬の移動も重力操作のおかげなのだ。それにしても、颪も持っているような道具が気になった。

 「それは何?」

 私の問いに、背後から颪が答えた。

 「これは『オーバーコード』。オーパーツだ」

 その答えを聞いて、気がついた要は言った。

 「オーパーツじゃない。別次元の道具だ」

 「何か知っているの?」

 「僕達の上の次元である上界の者の道具だ。普段は鍵やアクセサリーの形をしているが、力を込めると武具になったり、力を使える。その能力はオーバーコードによって異なるが」

 私は訳が分からなかった。結局、私達は元の世界に帰るため、街に向かうことにした。


 私達は気付くと黄金の平原にたどり着いていた。なかなか街が見えてこない。あいにく、私達は先の戦いで法力を使い切っているので、街まですぐに移動する術は使えない。そんな中、要は事情を話しオーバーコードを颪と真琴から受け取った。上界に関係のない者が持っているといずれ悪影響を及ぼすそうだ。

 しばらくすると、巨大なドラゴンが舞い降りてきた。最悪の状況で、真琴は私達を庇うように立った。でも、そのドラゴンは私達を眺めている。攻撃する様子はない。様子がおかしいことに気付くと、

 要は颪の肩を借りてドラゴンに近づいた。

 「味方か?」

 ドラゴンはフレアブレスを口の中に溜め始めた。フレアが放たれる瞬間に、要は全てのオーバーコードを

全て作動させた。すると、巨大な炎の竜巻が発生して中から大きな天使が現れた。背中合わせで2人がくっついている姿だった。

 「エンジェル・ジェミニ」

 要がそう呟いた。それは舞い上がり、下にいるドラゴンに炎を放った。ドラゴンも天使にブレスを放つ。

お互いの炎はぶつかり、強烈な爆発が起こった。爆風が収まると、そこにはドラゴンに乗った

 エンジェル・ジェミニがいた。彼はそれに乗って次元の彼方に連れていってくれた。再び、私達は街を探して歩みを進めることにした。

 しばらく進むと、やっと街が見えてきた。巨大な岩の上に巨大な樹木が生えるその岩の入り口が街の門であった。つまり、岩も樹木も街が入っているほどかなりの大きさということである。

 その街に入り、救急隊を探す。しかし、街に救急隊はいなかった。岩と木の街には、救急隊はすでに撤退しているようだった。宿に泊まり、通信法術師に救急隊を呼び寄せてもらい、その到着を待つことになった。

 2日がたった。救急隊が現れない。奇妙に思った私は、外に出て周囲を見回した。すると、一緒に要が宿から出てきて指輪を3つと布を1枚渡してくれた。

 「これ…オーバーコード」

 「お前さ、SNOWCODEの血を引いているよ。俺もそうだから、同じ者のことは感知できるんだ」

 「でも、全然その予兆が微塵もないけどね」

 「元の世界に戻れば、きっとすぐに使える。僕も実はアストラルコードは人から教わったんだ。理論も力もその使い方もね」

 その言葉とともに、ある人の言葉が聞こえた。

 「この街の周りに結界があって、救急隊や他の人間が入れないそうだ」

 すぐに私達は顔を見合わせて、街の外に向かった。


 街の外には鬼術師が数人、この町を囲んでいた。結界は彼らの鬼術で、法術師の救急隊が立ち往生している。

 「目的は何だ?」

 同じ鬼術師の颪が叫んだ。

 「この地にある混沌界の危機を及ぼすものを封じている」

 その意味は分からなかった。この街にある、混沌界の危機を及ぼすものと言えば?そう、この街全体なのだ。岩と木そのものなのだ。

 「その街を形成している青い月の岩と水の木は、法力の塊。我々の世界に多大な悪影響を及ぼしている」

 そこで、颪も自分の力の異変に気付いていたが、あえて言わなかったのだ。街の人達は私達を含めて結界を一時的に空けてもらい、その間に出て結界に街は包まれた。

 結局、街を出ることができ、近くにいた救急隊によって元の世界に戻ることになった。颪と別れ、要と涼、京、真琴と一緒に元の世界に戻る。戻ると、驚いた。あれだけの日にちがたっているのに、数日しか経っていなかったのだ。

 涼達は去っていった。要は言った。

 「オーバーコードを持って入れば、また上界と関わることになる。そのときの為にオーバーコードを使えるようになっておくといい」

 そう言って、要は去っていった。


 こちらの生活に戻って数日。特に不思議なことはおこらなかった。ところがすぐにそれは起こった。鳥のような人間が私の前に現れた。私は法術で草のバリアを張った。すると、彼は微笑んだ。

 「そう怯えるな。私はベルトラン。風を司る者の1柱」

 上界の者であり、敵ではないようだ。

 「貴女が持っているオーバーコードをいただきたい」

 私は首を横に振った。ベルトランは翼を広げて舞い上がると、レイピアを抜いて私に向けた。私はすぐに布をかざした。

 「唸れ、黒羽」

 すると、凄まじい竜巻が発生した。彼は竜巻に巻き込まれて、地面に落ちてしまった。そこで、初めて必死で使ったアストラルコードで、何とか上界の者と対峙することができた。しかし、そんなに甘くない。

 すぐに起き上がったベルトランは、羽根の炎の手裏剣を放ち始めた。

 「叫べ、白也」

 氷の壁が私の前に現れて、炎の攻撃をかわしてくれた。

 ベルトランは警戒をして距離を取った。でも、すぐに炎を吐いて攻撃をしてきた。私は氷の壁でまた防いで、その隙に逃げ出した。それでも、逃げ切れなかった。先回りされて、思い切り炎を吐いた。私は屈んで目を瞑る。しかし、炎が襲ってこない。

 ゆっくり目を開けると、ある人が私の前で炎を弾いてくれていた。彼は光弾を放つと、ベルトランは叶わないと悟って、すぐに逃げ出した。彼は振り向いてこういう言った。

 「その道具を持っていると、上界の者に狙われる。僕に渡してくれないかな。持っていても、意味はないよ」

 その言葉を信じるかどうか迷ってしまった。

 「大丈夫。僕はエンジェルジェミニ。上界から堕りた者だ。勿論、君の味方でもある」

 そう言われて信じられる訳はなかった。

 「静寂を司る者。今はこの天使の姿だが、人間に転生している関係で、人間の意識が覚醒したら、元に戻ってしまう」

 人間に転生したら、上界の者という前世の意識が残ったまま、人間になってしまうということか。その人間の意識から、ある種のきっかけで元の姿に戻り、前世の意識を表に出して力を使えるということなのだろう。彼に渡しても大丈夫だろうと、感覚的に思えた。指輪2つと布を彼に渡して、もう狙われることはないでしょう。


 法界のことを忘れかけた頃、法界の使者が私の前に現れた。

 「私はクリスタルタワー、風の守護の永久です。貴女にお願いがあります」

 法界は自然が少ないので、それを増やしてほしいというのだ。それなら、他の優秀な法術師が沢山いるはず。少しいぶかしげに思いつつも、その人に従って、再び法界にやってきた。そこは草1本生えていない無機質な世界だった。種を持ってきたので、それをばら撒き法術を放ったけど、種に変化が起こらなかった。

 「何で?」

 ここで法術を使うことはできなくなっていた。他の法界人は法術を使えるみたいだけど、何故か私は法術を使えない。そこで、クリスタルタワーに向かった。評議会の1人、スレファの話では、私がオーバーコードの使いすぎによる精神力のオーバーヒートらしい。

 この世界を助ける為、私のオーバーヒートを直すことになった。クリスタルタワーのヒーリングルームに入って、救護法術師に助けてもらうことになった。あの道具はかなりの力を使うらしく、なかなか治らなかった。

 ヒーリングでオーバーヒートを直していると、長老が現れた。彼の話では、自然がなくなった原因は、ある人物のせいだということなのだ。そこで、その人物を倒す先発隊が発足したそうだ。私は第3隊に参加してほしいとのこと。自然回復の話が徐々に変ってきている。不安が増えてきた。

 私の回復を待たず、第3部隊が発進した。私はおそらく攻撃を2度か植物操作を5回が限界だろう。しばらく、進んでいくと空飛ぶ船、クリスタルレットに乗り込んだ。クリスタルでできたクルーザーだ。それは主砲がついているので、軍艦であるのが分かった。大きさから巡洋艦クラスだろう。そのまま、空を飛んでいくと、下にきらめくものがあった。先発隊の軍艦の成れの果てだとすぐ分かった。私は息をのんた。

 凄まじい上昇気流が突然発生した。先発隊の二の舞にならないように、クリスタルの船の船長はカジを切って乗り切ろうとした。他の法術師は空気を操る術で何とか体制を整えようとしている。

 そこで、戦艦の前に容姿端麗な男性が現れた。すぐに船長は敵と判断して主砲を放った。

でも、その人は右手だけで主砲の玉を受け止めて、それを跳ね返した。威力は倍以上になっていただろう。

3人のハイロワーの法術師がバリアを張った。それでも防ぎ切れずに船体に当たった。クリスタルは多少砕けた。私はあまり力が使えないので、そのまま黙って見ているしかなかった。例え、使えたとしても叶わないでしょう。

 その男性は煙を出している戦艦に近づいた。戦艦は変形した。開いて花のようになり、光り輝いて一瞬にして着地して4人の戦闘法術師が出て行った。でも、彼には叶わないでしょう。今の私が行ってもかなわないだろう。そこで、彼は右手を上げてエネルギーを溜め始める。私は苦肉の策で、エネルギーを両手に溜め始めた。そこで、それを手で制する者がいた。

 「それは今、使うところではない」

 そう言うと、彼も戦艦から出て行った。5人の法術師は、結界を彼に張った。

 そこに新たなる少年が現れた。彼は結界の中の敵に向かって睨み付けた。どうも、新参者は味方のようだ。彼の右手から光の弾が放たれた。結界を通って敵に当たった。それも無意味で、結界を気合で破壊した彼は、少年に向かって炎を放つ。それを簡単に受け止めて言った。

 「俺はえん。お前は何だ?」

 敵は地上に降りてそれに答えた。

 「私はこう」

 2人とも同じ感じの雰囲気を漂わせていた。明らかに法界人と違っていた。


 えんとこうの戦いが始まった。空に舞い上がった2人は高エネルギー波を放ち合う。地上に衝撃波がどんどん届いた。

 「何者?」

 私は法術師の1人に聞いた。すると、彼は気難しい顔で答えた。

 「先住の民、エントアストだ」

 先住民がいるのは、なんとなくわかるが、この状況がいまいち理解できなかった。戦艦は今度は3つの円錐がつながった姿になり、地面に沈んでいった。

 「エントアストの戦いに巻き込まれると、命がいくつあっても足りない」

 船長がそう言った。クリスタルの戦艦は地底を進むと、巨大な空間に出た。この世界の者でも誰も発見していないでしょう。その下には焼き物でできた街だ。すぐにビルの屋上に着地した。

 「ここがあの先住民の町?」

 船長は首を振った。

 「こんな場所は文献にも載っていない」

 私たちはビルの入り口から内部に入った。すべてが焼き物のタイルなどでできている。そのまま、通りに出る。道路もタイル張りだった。そこに天井から爆発してえんとこうが現れた。彼らの戦いは地下まで影響を及ぼしたのだ。

 地下都市で戦いが繰り広げられた。すぐに戦艦は何かを発射した。こうとえんが破った天井をセメントのようなもので塞いだ。すぐに路上に着地して、私達を回収すると、戦艦は元の姿になって飛んだ。主砲はこうとえんに向けられている。彼らは両手にエネルギーを溜め始めていた。そこに主砲が放たれて、2人のエネルギーもろとも大爆発をした。2人は不思議な柔らかい結界に包まれた。

 と同時に、戦艦は青い光を放ち上に吸い込まれていった。地上に出ると、地下にあの2人を封じたまま脱出できたことに、私達は歓声を上げた。最後のエネルギーを全開したために、戦艦は不時着して動かなくなった。


 しかし、私達の考えは甘かった。彼らは地下で結界を破り、地上に出てきた。土煙が辺りに舞う。

 「彼らは神だ。私達にはどうすることもできん」

 船長は動かなくなった戦艦から出て、法術師全員で法力を戦艦のエネルギー充填装置に手を向けて、エネルギーが補充されていった。

 「充填はどのくらい掛かる?」

 「おそらく、どんなに急いでも1時間だろうな」

 「それで、勝てるの?」

 「2人が今まで全力で戦っているから、敵の消費もダメージも半端じゃないから、主砲がうまく当たれば、あるいはギリギリな」

 それは明らかに不利な賭けであった。


 すると、こうとえんは突如、姿が消えた。気づくと、強大なドラゴンが空に舞っていた。

 「まさか、こうとえんがドラゴンに怯えて逃げた?」

 すると、私の言葉に船長は首を横に振った。

 「その逆だ」

 彼はそのドラゴンの上を指差した。そこには、今まで敵同士だった2人が降りてきて、ともにドラゴンと戦い始めた。ドラゴンは瞬殺だった。終わると、すぐに戦いが再び始まる。

 「いつまで戦っているの?」

 「それが彼らだ」

 戦艦の充電はかなり進んでいた。戦艦の充電が完了した。でも、2人はこちらに気づいていても、構っているほど余裕がなかった。それほど、彼らの力は均衡しているのだ。戦艦の主砲は全エネルギーを充填して、あの2人に向けられる。全法術師は結界を全力で発して2人の動きを2秒止めることに必死になった。

 その2秒で主砲は発射される。すさまじい波動が全空気を轟かせて、玉虫色の光が放たれた。私のエネルギー砲の法術なんて比にならないのは見て明らかだった。2人は光の中に包まれて消滅した。


 すべてが終わり、クリスタルタワーに戻るため、戦艦に法力を注入しているが、全員力を使い果たしていて、充電になかなかはかどらなかった。その中で、私は種をばら撒いて法術を使った。種は急速に育ち、たちまち緑をこの地上に増やしていった。

 「この術は、自動増加するから、後はこの植物に任せればいいよ」

 私はそう言って、空を仰いだ。太陽が強烈に光を照らしている。その中に何かが落ちてくるのがわかった。嫌な予感がして、すぐに警戒して戦艦の陰に隠れた。

 降りてきたのは巨大なドラゴンであった。こうとえんが倒したハイレベルドラゴンの親である。戦艦の法術師は、戦艦のエネルギー充填を止めるが、力はすでに力尽きていた。私が何とかするしかなかった。

 でも、ネーチャー系の法術を精一杯使って、この世界の地に緑を増やしたので、攻撃する力は残っていない。ドラゴンは炎を吐いた。戦艦の中に皆が非難して炎を避けた。戦艦は炎に耐え切れずにクリスタルの外装はひび割れた。

 「どうするの?」

 私が聞くと、船長はこう言った。

 「本部に連絡はしているのだが」

 そう言った途端、最終救急部隊がやってきた。3隻の戦艦がドラゴンに攻撃を始めた。私たちは助かったのだ。


 戦艦の攻撃にドラゴンはすかさず私達から離れていった。1隻の戦艦が私達を収容して、ドラゴンに対峙した。3隻は主砲を一気に放った。3つのエネルギーの光は1つに合わさると、強烈なエネルギーに増幅された。ドラゴンは避け切れず、右半分は消え去った。そのまま、落下していくドラゴンを見ながら、私達はクリスタルタワーに帰還した。

 ここでの私の役目はようやく終わった。と、思われたその時、私の植物を食べ始めるモンスターが見えた。下にいるそれがこの世界に植物をなくしたのだ。戦艦は帰還を止めて、そのモンスターの上を飛んだ。

 戦艦は一斉に法力砲を連射した。化け物は背中の殻を大きくして、その中に隠れてしまった。殻はかなり固く、戦艦の砲撃にもびくともしなかった。かなりの力の剣士が現れて、屋上に出ると剣を構えて飛び降りた。化け物の殻に剣を突いた。それでも、ひび一つ入らない。剣士は法術を使って剣に力を込める。徐々に剣は殻にめり込んでいき、そのうちに剣は地まで刺すことができた。モンスターは動かなくなった。

 剣士はさらに法力を高めて、剣に込めると、モンスターは徐々に小さくなっていった。でも、すぐに大きくなって剣を体の中に取り込んだ。剣士はとっさに大きく跳んで距離をとった。

 モンスターはすぐに元の姿になり、元の力を取り戻した。戦艦はまた一斉射撃をするが、再び殻に閉じこもり防ぐ。剣士は剣を法術で具現化すると、それを構えて戦艦の射撃の雨の中に入った。その中でモンスターの殻を突いて、切り裂いた。体が露になった場所に戦艦の法力レーザーが当たり、すぐに弱り始める。

 しかし、すぐに回復する能力があるので、剣士は剣を吸収されないように、剣をすばやく動かし、殻ごと切り裂き始めた。回復能力が追いつかず、モンスターは徐々に小さくなっていった。

 そこで私はあるアイデアを思いついた。自己回復が間に合わず、近くの植物を食べている。その植物をありったけの猛毒を法術で含ませた。すると、モンスターは毒の植物を食べてすぐに苦しんで動きを止めた。

 そこで一気に戦艦はありったけの爆撃を開始した。剣士は戦艦に回収される。モンスターは殻で防ぐこともできず、このまま、消え去っていった。全員は歓声を上げたが、館長が言った。

 「あの化け物はどこから?」

 すると、感知系の法術師が数人、分析を始めた。その中で、1人が言った。

 「次元の穴が開いている。次元の穴は閉じ切っていなかったんだ」

 すぐに私達はそこに向かうことになった。次元の穴はすぐに見つかった。でも、それを閉じ始めると、それを阻む者が現れた。鬼のような存在で、艦長は大鬼とそれを呼んだ。

 戦艦は一斉射撃をすると、大鬼はすぐに消えた。一部の法術師は次元の穴を閉めた。大鬼は艦内に現れる。すぐに結界を張られ、大鬼は次元の能力を封じられた。そこで、残りの法術師は攻撃を始める。大鬼はすぐに弱っていった。

 大鬼は最後の力で自爆をした。大爆発して戦艦は3隻とも制御不能になり、煙を吐きながら地に向かって落ちた。でも、私は巨大な草のトランポリンを作り、全員は無事に不時着した。怪我人も出ず無事に済んだ。

 「あの大鬼はどこから?」

 「法術で召還した者がいる」

 感知系の術師の3人が口をそろえて言った。そこで、その術師を感知し始めるが、痕跡と気配を完全に消している。

 「鬼術だ」

 長老がそう言った。和解したはずの鬼術師が法界に戦争をしかけたのか。とにかく、犯人を捜すため、全員は精神を集中させた。鬼術師の気配を2人の法術師が察知した。壊れた戦艦を捨て、私達はその方向に向かった。

 「これは3人はいる。しかも、どれも強敵だ」

 慎重に、力や気配を隠しながら進む。すると、黄緑色の草原に3人が私達を待っていた。

 「手下を使うより、自分達の方が早いと見えたようだ」

 彼らは近づくと同時に話をしてきた。

 「我々に戦う意思はない。鬼界の化け物が手違いでこちらに来てしまったんだ」

 その話を信じるかどうか、クリスタルタワーで評議員の会議で決めることになった。クリスタルタワーの評議員は裁判を始める。その間に私は役目を終えたので元の世界に戻してもらうことになった。次元移行をして元の世界に戻る。こちらでは、全然時間が進んでいないので、何日もすごしてきた私は変な感覚で、

一人だけ少し先に歳をとった気もして残念に思えた。これで法界へ行くことはないだろうと安心した。

 平和な生活が物足りなくなったけど。

 

                    完


知っている名前等が出てきます。

一応、外伝もののシリーズと思っていただけると分かりやすいです。

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