A-1小節
初めましての方は初めまして、そうでない方はいつもありがとうございます、作者のシュームです。
今回は『吹奏楽』を題材に書いていこうと思います。
一から全部考えていくんでかなりペースは遅いですがお付き合いいただけると幸いです。
突如として鳴り響く時計の音で現実の世界へと戻ってきた。
素早く時計のアラームを止める。起きたばかりだからかまだ頭がまわらない。
(今日は何曜日だ?...月曜だっけか?...あぁ、そうか。今日からまた学校があるのか...)
だんだんと現状が掴めてきた。いつの間にか朝になっていたのだ。
そうしてのっそりと布団から出て、おぼつかない足取りで部屋の扉を開けて1階のリビングへと降りていった。
「お、やっと起きたか。早く支度しないと遅刻するぞ。」
俺、朝霧甲斐にそう言ってきたのは、実の姉である朝霧巫琴であった。
甲斐は身長が高くスラリとしており、少しくせっ毛のある茶色の髪をしている。対する姉はと言うと、実の姉に対して言うのもなんだが、容姿端麗でスタイルもよく、甲斐と同じく背も高い。これに加えて胸も大きいときたものだから他の男子からはよくモテたものであった。そしてよく俺に絡んできたりする。
「そんな事言ったって、姉ちゃんもまだ支度してないじゃんか。」
「私はすぐ出れるから大丈夫よ。それに、あんた中学のころ学ランだったからブレザー着るのに手間取ってたじゃない。」
「んなっ...あ、あれは初めて着るものだったからであって今はもう手間取らないって!」
「ほらあんたたち、そんなこと言い合ってたら二人とも遅刻するよ。」
母の言葉によってこの話は中断された。
甲斐は顔を洗って食卓についた。その頃にはもう姉の姿はそこにはなかった。
「母さん、姉ちゃんもう食べ終わったの?」
「そうよ。ほら、あんたも早く食べちゃいなさい。」
そう言われたので、甲斐は目の前にあるトーストに手をつけた。いつもと同じ味であった。
「そういえば甲斐、あんた今日から仮入部があるのよね?どこにするか決めたの?」
「うーん、まだ決まってないや。実際に見て見ないとなんとも言えないしね。」
「そう。てっきり中学でテニスやったもんだからそのまま続けるのかと思ってたんだけど。」
「なんか俺にテニスって合わなかったんだよね...もっと自分に合うもの探すことにするよ。」
「高校生活を共にするものなんだからちゃんと選びなさいね。」
「分かってるよ。」
甲斐はそう返事しておいた。
甲斐がちょうど食べ終わったくらいの時に、巫琴が着替えた状態でリビングに戻ってきた。
「それじゃお母さん、行ってくるね。」
「いってらっしゃい。気をつけてね。」
「はーい。」
そう言って巫琴は家を出ていった。
甲斐もパッパと歯を磨いて制服に着替え始めた。美琴にはああ言ったものの、やはりブレザーを着るのには少し時間がかかった。特にネクタイを締めるのにはまだまだ苦労するものであった。
そうして、少しの悪戦苦闘があった後、玄関へと向かっていった。
「いってきまーす。」
甲斐はそう言って自転車に乗り駅へと向った。
****
時間通りの電車に乗れたものの、席はもう空いてる場所がなかったので仕方なくドアの近くに寄りかかることにした。
英単語帳を片手に持って読む。そして、イヤホンをして音楽を聴く。それがいつもの日課になってきていた。
音楽は色々なジャンルの曲を聞いたりするものであったが、最近は『九十九明日香』という歌手の曲を聴くことが多くなった。なんでも自分と同じ高1らしい。世の中にはすごい人がいるものだ。
そんなふうに思っていると不意に自分のそばに誰かが来るのがわかった。いや、誰が来たのかも何となく想像出来たが。
「おはよ、甲斐!って、うぉ!授業もまた始まったばっかりなのに勉強してる...」
そう言ってきたのは、甲斐とは幼なじみである樹神葵巴であった。小柄な容姿でショートカットにした茶色の髪。また巫琴とは違い、膨らみのない平坦な体なためかどこか幼気なところがあった。
葵巴とは幼稚園の頃から付き合いはあったが、まさか高校まで同じになるとは二人とも思ってもみなかった。
「別にいいだろこのくらい。というか、お前は逆にもう少し勉強しろよ。入学してからの最初のテストどうだったんだよ。」
「あはは、聞かなかったことにしてくれ。」
こんなコントみたいなやりとりも昔から変わらないままである。
「ところで甲斐、甲斐は仮入部どこ行くか決めた?」
「その話、今日母さんにも言われたわ。まだ決まってないよ。葵巴はどうなんだ?」
「私は中学でもやってた吹奏楽を続けるかな。楽器吹いてる時が一番楽しいんだもん。それに、吹奏楽部には巫琴さんもいるんでしょ?」
「まぁな。というか、姉ちゃんとお前って本当仲いいよな。」
「そりゃ、幼なじみのお姉さんだしよく遊んだりもしたしね。はぁ、私もあんなお姉ちゃん欲しかったなぁ...艶やかな黒のロングヘアにスラリとした足、背も高くって胸も大きいし、憧れるなぁ...」
「そりゃ、お前の持ってないもの色々持ってるしな。」
「身長も胸もまだまだ発展途中ですよーだ!」
そういって葵巴は頬を膨らませてむすっとした顔をした。
─ツギハ、セイホク-セイホク-。オデグチハヒダリガワデス。─
「お、もうそろそろ着くか。」
そういって甲斐は、降りる準備をした。
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県立清北高校。埼玉県にある高校で、今から30年前くらいに建てられた。県内の進学校のうちの一つでもあり、部活動も盛んに行われているため生徒数はそこそこ多い。
「やっぱり、学校まで4,50分かかるのにはまだ慣れないなぁ。」
「ま、通い続けてればそのうち慣れるだろ。」
2人は清北の校門の前まで来ていた。そうして、校舎の中へと入り自分たちのクラスがある3階まで行った。
「それじゃ、俺はD組だからここで。」
階段を登りきったところで甲斐はそう言った。
「うん、じゃぁね!」
葵巴はそう言って自分のクラスであるF組へ行ってしまった。
「お、なんだ甲斐。今日は彼女さんと一緒だったのか?」
振り返るとそこには赤宮莉玖がいた。短く切った髪にガッシリとした体型であるため誰がどう見てもスポーツ少年という様子である。
莉玖とは同じクラスで、席も前後であったことからすぐに友達となった。
「だから、彼女じゃなくてただの幼なじみだっつーの。」
「幼稚園の頃からの付き合いなのに幼なじみって方が変な気がするけどな。」
「余計なお世話だ!」
莉玖のからかいを受けながらも甲斐は自分の席へと着いた。
「それにしても今日から授業が始まっちゃうのかぁ。なんか入学式が遠い昔な感じがしてくるぜ。」
莉玖も自分の席へと着き、後ろの席に座っている甲斐の方へ話しかけた。
「まぁ、気持ちは分からなくもないけど。ただ、今日から仮入部も始まるんだろ?」
「そうそう!どの部活に入るか迷っちゃうぜ!」
「あれ、お前中学の頃何部だったんだっけ?」
「俺はサッカーだったよ。ただ、高校入ったら違うものにもチャレンジしてみたいってのもあるから、サッカー部にするかどうかは決まってないけど。お前はどうなんだ?」
「俺もまだ決まってないよ。今日の仮入部もどこ行くかとかまだないし。」
「そっか。まぁ、仮入部以外にも部活動のオリエンテーションで文化部とかが発表したりするからそのへんを見て決めてもいいしな。」
そうこうしているうちに、授業開始の予鈴が鳴った。
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「やっと終わったー!」
授業が終わっての開放感からか莉玖はそう言った。
「お前寝てただけじゃねぇか。」
「失礼な!数学と英語くらいしか寝てないわ!」
「寝てんじゃねぇかよ...」
「そんなことより、この後の予定ってなんだっけ?」
「部活動のオリエンテーションがあって、仮入部だ。」
「よし、じゃぁ早速見に行くか!」
意気揚々とした様子で莉玖は言った。
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オリエンテーションの行われる体育館までやってきた。
そこにはもう準備を始めている部活があった。きっとどこも新入生を多く獲得しようと必死になっているのであろう。
「あの感じからして最初は吹奏楽部かな?」
莉玖はそう言ったが、甲斐は莉玖がそういう前に既に気づいていた。姉がいたからである。
(そういえば、姉ちゃんの演奏ってしっかりと聞いたことなかったなぁ。姉ちゃんが今もってる楽器って何だったっけ...確かオーボエ...だったかな?)
そんなことを思っているうちにオリエンテーションは始まろうとしていた。
「大変長らくお待たせいたしました!これより部活動のオリエンテーションを行いまーす!司会進行は私、生徒会副会長の三洗珠希がお送りいたしまーす!」
拍手の湧く会場。ここにいる全員、興奮冷めやまないといった様子であった。
「それではトップバッターをつとめるのは吹奏楽部です!去年までは人数が20人にも満たないという辛い状態でしたが、2年生の代で人数が一気に増えて27人になりました!それでは吹奏楽部です、どーぞ!」
スポットが吹奏楽部の方へと向けられる。いよいよだということで、甲斐にもどこか緊張する気持ちがあった。
そして演奏は始まる。アニメやゲーム、ドラマなんかの曲などよく知っている曲が演奏された。どの曲も上手いと感じるものばかりであった。が、
(うーんなんというか...なんか凄いのはわかるんだけど、あんまり吹奏楽って知らないし...興味はない...かな。)
吹奏楽をよく知らない甲斐にとってはこの演奏に対して特別何かを感じ取ることは無かった。。楽器の吹けない自分から見たらただ上手いなぁくらいにしか思えなかった。
そうしているうちにいつの間にか吹奏楽部の演奏は終わっていた。
****
「で、なんかやってみたいのはあったのか甲斐?」
オリエンテーションの終わったあと莉玖はそう聞いてきた。
「うーん、特にこれと言ったものはなかったよ。」
「そうか。俺は音楽部が面白そうだったからそこ行ってみようと思うけど、お前はどうする?」
「いや、遠慮しとくよ。適当にぶらついてくるわ。」
「わかった。そんじゃ、また明日な!」
莉玖はそう言い残して教室を出ていった。
知らぬ間に教室内の人はほとんどいなくなっていた。みんなもうそれぞれやりたい部活のとこへ行ったのだろう。
(さてと、この後どうするか...とりあえず、近場の部活でも見てくるかなぁ...)
そう甲斐が思って教室を出ようとすると、横から来た子とぶつかってしまった。それと同時に、バサバサっと何かが落ちる音がした。
「わわ、ごめんなさい!」
ぶつかってきた人は甲斐にそう謝った。
大人しそうでどこか優しさもあるように感じられた。
そして彼女は落としたものを拾い始めた。どうやらカバンの中身が散乱してしまったようだ。
「いや、俺も不注意だったからごめんな。」
そう言って甲斐も拾うのを手伝おうとした。
「あ、いいですよ!私が拾いますから。」
「いいよ、このくらい。」
そうして甲斐も彼女のものを拾うのを手伝った。そして、甲斐が彼女の筆箱に触れた時あるものに気づいた。
(あれ、この筆箱についているものって...)
「何か私の筆箱にありましたか?」
そう不思議そうに尋ねてくる彼女。
「いや、この筆箱についてるキーホルダーってどっかで見たことあるようなって思ったから。何だったっけ...」
「フルート...ですか?」
「そう、それだ。姉ちゃんが前そのキーホルダー持ってた時にそう言ってたよ。でも、姉ちゃんその後そのキーホルダーどうしたんだr...」
「フルートをご存知なんですか!」
今までとは全く違う様子で話しかけてこられた。あまりのギャップに甲斐は少したじろいだ。
しかし、相手もそんな甲斐を見てはっ、と我に返りさっきまでと同じ雰囲気に戻ってしまった。
「す、すみません。あんまり男子で知ってる人っていなかったものでつい...」
顔がこれほどまでかというほどに真っ赤にさせながら彼女は言った。
「大丈夫だよ、気にしないで!一旦落ち着いて!」
彼女を宥めるように甲斐は言った。彼女もそれを聞き少し落ち着いてきた。
「どう?少しは落ち着いた?」
「はい、お陰様で。...あの」
そこで彼女は言葉をきった。何か考えているようである。
「どうかした?」
明らかにまた顔が赤くなっていくのが感じられた。まだ何かあったのだろうか。
「あの...この後どこか行くとかってありますか?」
彼女はそう切り出してきた。
「いや、まだ決まってないけど。」
「だったら...
そう言って彼女は一呼吸置き
「だったら私と吹奏楽部の仮入部行きませんか!?」
その言葉が、甲斐のいつも通り回っていた人生の歯車を大きく変えるきっかけとなるのであった。
いかがでしたでしょうか。なかなか1から考えるってのは大変なものですね(苦笑)
さて、あらすじにも書いてあるとおり、この作品はフィクションなところに少し僕の実体験も含めて作られています。あの頃を思い出して書いていくとなんだか懐かしい気分になりました(笑)
また、タイトルが何故『フルだん!』なのかと疑問に思う方もいるかもしれませんが、『〇〇〇〇〇男子!』の略でフルだん!にしました。(〇の中は今後明らかになります。察しのいい方は気づくのでは?)
それでは次回もお楽しみに!