4:誰が
鬼柳 虎太郎:きりゅう こたろう
高等部1-2 12番
赤毛でガタイのいい無口なイケメン。真琴がいるとよく喋る。いないとほぼ単語になる。
厳つい名前とは裏腹に日英ハーフ。国籍は日本。悪目立ちする自分の容姿がコンプレックス。文武両道+顔もいいのでモテるが、本人目立つの苦手なので全力で逃げる。
好きな人を振り向かせ、繋ぎ止める為ならあざとく振る舞う一面も。
愛称はコタ。ただし真琴にしか呼ばせない。
「そういやさ、前々からこっち希望してたって何でだ?」
昼休み。俺は購買のパン、真琴は弁当を広げた所で聞いてみた。つーか真琴の弁当がおよそ女子らしくない。サイズは普通の百均で売ってるようなもんだが、中身は白米一段に煮物、野菜、肉で三分割された一段。お前は運動部の男子か。
いや女子らしい弁当ってのも実は想像つかないんだけどな。
「中学くらいに、やっぱりこっちに戻りたいと思ってな。向こうも勿論楽しかったんだが、やっぱ馴染みの連中とまた会いたかったし」
その馴染みの連中、とやらに俺も入ってるんだろう。きっと。……そうだと信じたい。
「それと海外に行きたくなかった」
「最大理由な気がするのは何でだ?」
俺なら喜んで行きそうだ。いや、国によるか。北欧とかだったら勘弁、俺寒いのちょー苦手。
「結局、伯父もいるここならって許可が下りたんだよ」
「へー……まあそりゃそうか、親族もいない土地よりかは安心だもんな」
「正直、あのおっさんはあんま好きじゃねぇんだけどな」
珍しい。真琴って基本、人が嫌いとか言わねえのに。待ってもそれ以上伯父さんの話は出て来なくて、2人して黙々と昼食を片付ける。……ていうか。
「あのさ」
「何だ」
「もしかして、その弁当ってお前の手作りか?」
つーか一人暮らしって事は手作りでファイナルアンサーだよな?
「…………どうせ彩りねぇよ」
気にしてたのかよ。……はっきりきっぱり『親友』ポジと認識したけど、こういうちょっとした所で家庭的な部分を見るとやっぱりキュンとする。
料理出来るコっていいよな。俺、料理壊滅的だから家族に台所侵入禁止令出されてるし。作れるだけで素直に尊敬するわ。
「俺、調理実習の時でも一切食材に触らせてもらえなかったんだよな」
「じゃあ何してたんだよ」
「皿洗ってー、鍋見守ってー、味見してー」
「ああうん、何か分かった」
どうせ子供の手伝いレベルだよチクショー。
そんな事しながら食べ終えて、まったりしてると。
「真琴!」
スッパァァァァン!て物凄い音立てながら教室のドアが開かれて、何かデッカイ奴がキョロキョロしてた。赤毛であの長身と言えば……
「確か鬼柳虎太郎だっけか、隣クラスの」
ごっつい名前だよなー、と言おうと正面に向き直ったら真琴がいなかった。見渡せば鬼柳の正面。そういや名前呼ばれてたな。
「よ、久しぶりコタ」
「おまっ、お前ぇぇぇぇ……! 戻る時、連絡しろって……」
「バタついてたんだって、ゴメンなー」
真琴すげぇ。がっくんがっくん揺さぶられながら平然と笑ってるよあいつ。え、つーか、何?
「二人って知り合い?」
グッジョブ近くの女子。名前知らねえけど。
「小学校まで一緒だったんだ。幼馴染ってやつ」
ガーン。
俺の状態を言い表すならまさにそれ。そりゃ幼馴染は一人だけ、なんて訳ないんだし、俺以外にいたって不思議じゃないし……てか小学校同じなら、まさしく幼馴染だろう。
俺が色々と考えてる間に、二人はこっちに来ていた。
「紹介すんぜ、こっち鬼柳虎太郎。名前も見た目もごっついけどシャイボーイだから。んでこっちが木之下隆平。前に何度か話したろ、そいつ」
「虎太郎と、呼んでくれ」
「あ、ああ、俺も隆平でいい」
ぺこ、と会釈する鬼柳……もとい虎太郎は、案外いい奴らしい。制服の上からでも分かる逞しい体つきにコンプレックスが刺激されたが。高身長でマッチョでイケメンとか、神はこいつに一体何物与えたんだろう。
近くの席から椅子を借りて座った虎太郎には、どこからどう見ても俺が勝てる要素が見つからなかった。……どうせチビだよ。顔もフツメンだよ。強いて言うなら女子から「かわいい」って言われる顔だよ。嬉しくねえ。
「あのさ」
「何だ」
「不躾かもだけど……虎太郎の髪ってさ、地毛?」
「自前だ」
「こいつ、名前は厳ついけどハーフなんだぜ」
「へー……え?」
「母が、イギリス人だ。日本国籍を取得済みだから、俺も日本人」
なるほど。ハーフ故の赤毛に高身長にそのルックスだった訳か。ルックス関係ない? 堀が深いとイケメンに見えるだろ!?
「くっそ身長くれよ十センチくらい」
「やれるもんならくれてやる」
「うぎぎぎぎぎ」
案外いい奴っぽい、ぽいけど俺のコンプレックス刺激しまくってくる!
何で俺こんなチビのまんまなんだよすぐ伸びるって父ちゃんは言うけど俺あんたと五センチも変わらねえんだぞ! 父ちゃんだって母ちゃんと大差ねぇじゃん!
「身長ってそんなに大事か?」
「少なくとも人並みには欲しいです切実に!」
「平均でいい。……ああ、好きな奴より高くなりたいのは、男の性だな」
そう言って真琴を見つめる虎太郎に、真琴は「アホか」ってだけでそれ以上は何も言わない。一瞬バカップルの惚気に見えたけど、虎太郎の一方通行……なのか? それともただの日常茶飯事? お似合い過ぎて邪魔できねぇのが悔しい。
でも初恋相手の恋人候補(仮)が登場とか……何この少女漫画みたいなシチュエーション。あれ、そうすると男女逆? 俺が主人公つーかヒロインポジ? 勘弁しろ洒落にならん。
「んで虎太郎は何か用があって来たんじゃねえの?」
「こっちに進学すると言っていた幼馴染からいつまで経っても連絡一つ来ずに悶々としていたら隣クラスに特徴が一致する奴が来たと聞いたからだが?」
「何つーか、本当にすまんかった」
ノンブレスで言い切った虎太郎に真琴が頭を下げた。バタついてたのはさっきの話から予想はついていたが、連絡くらいしてやれよと思った俺は傍観体勢を貫く。決して虎太郎の勢いに押されたとかイケメンが静かにキレると怖いとか思ったからじゃない。断じてない。
「春奈と舞も待ち侘びていたからな、覚悟しておけ」
「マジか……舞は菓子で釣れるからいいとして、春奈はなぁ……」
「大人しく着せ替え人形になればいい」
「勘弁してくれ……」
がっくり項垂れる真琴はどうやら春奈って奴に弱いらしい。名前からして女子だよな? 真琴は見た目と中身はどうあれ一応女子の括りなんだし、つまりは……
「虎太郎、お前入学早々ハーレム出来たのか」
「は?」
「や、冗談だって! 女子の名前ばっか出たからつい、な!」
怖ぇよ。目がクワッて開いたぞ今。たった一音が恐ろしい低音だったぞ。
「俺とコタ、春奈、舞、それとシュウ。小学生の時よく遊んでた面子だよ」
「ついでに言えば春奈は年上の男と交際中だ」
「リア充予備軍は友人までリア充かよチクショー!!」
いきなり叫んだ俺に視線が集中したけど知った事か。この衝動、今、叫ばねば!
「リア充爆発しろ!」
「おい木之下、廊下まで丸聞こえだぞ」
薄っぺらい出席簿でも角で叩かれると結構痛いんだな……