3:なんて
東堂学園:とうどうがくえん
初等~大学部まである、創立60周年を迎えたそれなりに由緒あるマンモス校。高等部まではエスカレーター式。
定員は上の学部ほど多く設定されており、中等部以上は編入生の方が割合的に多い。
学生寮もそこそこ大きいが、県外からやって来る人達が優先される為に学園周辺で一人暮らしする者も少なからずいる。
高等部は一クラス四十名、一学年十クラス。
敷地がやたら広く、食堂と体育館は三カ所ずつ、保健室と職員室は各学部ごとに別で用意されている。
初恋相手の美少女がイケメンになって帰って来た、というトンデモ体験から半日。元々愛想も悪くない、しかもイケメン(性別云々に突っ込んではいけない)の真琴は男女両方から質問責めにされていた。転校生でもないのに、とは思うが助ける気にはなれない。
「何で俺よりデカいんだ……」
「お前より小さい奴がどんだけいるんだよ」
「うるせぇ……って真琴!?」
「お前はお前で過剰反応過ぎる」
眉間にぶっとい皺を刻む真琴は……うん、元が整ってるだけにやたら怖い。
「そういやさ、何でこんなに遅れたんだよ?」
「……お前もそれ聞くのか」
「普通気になるだろ」
入学式に遅れるような用事といったら、冠婚葬祭くらいしか思い浮かばないんだが。後は引っ越しが間に合わなかったとかか?
「笑うなよ」
「答えによる」
「…………」
「怖いから睨まんでお願い」
そうして渋々と真琴が教えてくれた内容とは……!
「ぶっはははははははは!」
「大爆笑じゃねぇか!」
「いやだって、マジで有り得んのソレ? つーかそれ着てこいよ絶対似合ってたのに!」
「黙れ」
「ぷっ、うひゃひゃひゃゲホッ」
カシャッ
「てめぇの顔に挿げ替えたホモ写真をばら撒いてやる」
「すんませんごめんなさいやめて下さい本当にごめんなさい」
確かに噎せるほど爆笑したのは悪かったけど、再会したばっかの友達でそんな物作ろうとしないで下さい本当に。自分の爆笑写真をどうにか消して、それでも込み上げてくる笑いを必死に押し殺す。
真琴は有言実行を地で行くから、やると言ったら本気でやりかねない。幼少期もそれで何度ガキ大将共が泣かされてきたか。……俺も経験あるのは秘密だ。
「しっかし……大変だったな。引っ越しでバタついてたとはいえ、制服間違えられるなんて」
「お陰でご近所さんから白い目で見られたぞ。入学式にも行かない不良だ、って」
事の経緯はこうらしい。真琴は前々から進学先はこっちがいいと決めていたようで、海外赴任を打診された両親にこれ幸いと東条学園を受験、無事合格。引っ越し先を決めて準備と、そこまではよかった。
居住地と進学先とが大分離れてるって事で、制服は採寸データを業者に送ってそこから配送してもらう事になったものの、問題はそのデータ。真琴は男子にもひけを取らない高身長で、顔も涼しげなイケメン顔。
結論から言えば、データと顔写真を見た業者が『あ、性別間違えて発注したんだな』と勘違いして男子制服が届いてしまった、と。
「制服送り返して引っ越しの片付けしてようやく届いたと思ったら一週間経ってたんだよバカヤロー」
「爆笑してすまんかった」
でも男子制服を着た真琴も見たかった気がする。ちなみにうちの学校は制服にも何パターンかあって、男子はブレザー三色、ズボン四パターン。女子はブレザー三色、スカート五パターン、ネクタイかリボンか、から自由にチョイスできる。タイの色は学年共通だ。
「……所で真琴さんよ」
「何だ?」
「俺な、お前が初恋だったんですよ」
「それは初耳だが、うん」
「ガキの青臭い恋だった訳だ」
「うん」
「今現在、男友達と話してる気分なんだがどうしてくれる」
もし真琴が多少なり女子らしかったのなら、もしかしたらまだ初恋は続いたかもしれない。だが俺の繊細なハートは恋愛感情なんて木端微塵にしてしまって、今目の前にいる相手を「女子」と認識してくれない。
変に気まずくならなかっただけマシ、なんだろうか。
「俺は、昔からお前を大事な友人だと思ってるよ」
「へっ」
「正直お前の初恋だったとか言われても『ふーん』としか言えないし。前みたく気楽につるんでくれたら嬉しい」
「……なら、これからよろしくな、真琴」
「こっちこそよろしく、隆平」
ガシッ、と掴んだ手は女の子みたいな柔らかくて繊細な感じは欠片も無かったけど、今まで離れていたのが信じられないくらい馴染む温度だった。
俺の初恋相手だった奴はイケメンになって帰って来て、この日俺の唯一無二の親友へとクラスチェンジした。