1:初恋は
木之下 隆平:きのした りゅうへい
高等部1-3 7番
懐っこい笑顔とチャラけた言動の、このお話の主人公もとい語り部。
大多数の女子よりも小柄なのがコンプレックスだが、持ち前のキャラで早くもクラスのマスコット的存在になりつつある。
惚れっぽい性格で、よく女子を口説いているがキャラ故か誰にも本気にしてもらえない。
俺の“初恋”は大分昔、確かまだ小学校に入ったばかりか、その少し前だった。今思えばあれは恋というより、比護欲とか憧れとか、色んな感情が混ざったもんだったんだろう。母親らしき女の人と一緒に公園へやって来たのは、びっくりするくらい綺麗なコだった。
「はい、遊んでらっしゃい」
「かあさんは?」
「お母さんはあっちで休んでるから、ね」
「うん」
さらさらの髪を肩の辺りで切り揃えて、ぱっちりした意思の強そうな瞳が印象的だった。見た目通りにしっかりした性格なのか聞き分け良く頷くその子を、優しく撫でる女の人はお腹が大きくなってて。弟か妹が出来るのかなぁ、なんて一人っ子だった俺はぼんやり羨ましく思って。
「なあ!」
気付いたら後ろ姿に声をかけていた。
「ひとり?」
「うん」
「おれ、りゅうへい。おまえは?」
「まこと」
「うし、じゃあおれらともだちな!」
「?」
「あそぼーぜ!」
その時、そいつ…まことが浮かべた笑顔は今でも忘れられない。ぱぁ、なんて漫画みたいな効果音が聞こえるくらい輝いた笑顔で頷いたまことは、それはもう最高に可愛くて。そんな可愛いまことは意外なくらいアグレッシブで、最後は二人バカみたいに笑って走り回ってた。
その後もたまにその公園で会う度に思いっきり遊び回って、小学校は学区が違って別だったけど、俺達はずっと友達なんだ、って理由も無しに信じていた。
「引っ越し…!?」
「うん。××県に行くから、会うのも難しいと思う」
親が転勤するから、それについて行く。そう言われたのは引っ越しの三日前だとかで、「最後に会えてよかった」なんて微笑まれたら何も言い返せなくて。確かあの時は、癇癪を起こして怒鳴って叩いてそのまま別れたと思う。その後でやっぱり後悔して、謝りたくてももうあいつは家族ごと遠くに行っていて。
中学に入って、色んな奴とバカ騒ぎしてもふとした瞬間にその時を思い出して、罪悪感と後悔とで胸が重くなる。地元で一番デカい、県外からでも人が集まる東堂学園の高等部に編入した所で……
「会える訳、ないのにな」
もしも、奇跡でも起きてまた会えたなら……どんなに叩かれようと罵られようと謝って謝り倒して、告白なんて出来なくても……また一緒に笑いたい。
「我ながら女々しいぜ…」
「木之下君、どうしたの?」
「んーや、独り言~。んで何々、さっきから何の話?」
「なんかさー、家庭の事情とかで入学式出れなかったコいるんだって。そのコも編入らしいし、大変だよねー」
「確かに大変だろうけど、そこまで気にする事か?」
「このクラスのコらしいから話してんのよ。ほら、あそこ」
あそこ、とその女子が指差したのは窓際から二列目の最後尾。ざわつく教室内でそこだけが静かに見えた。
「どのくらいで来るか知ってたりする?」
「その辺は抜かりないわ! 来週から、つまり丁度一週間遅れで来るんだって」
「相変わらず情報通だな」
「お兄ちゃん程じゃないよ」
そう言いながら照れる女子に愛想笑いを返しつつ、もう一度その机を見やる。何だか、無性に気になった。