捕らわれの身
川口市郊外の廃虚となった工場。
工場の奥の宿直室。
男が1人部屋の鍵を開けて中に入り、明かりを点ける。
隅のベッドに横になっている一馬と、モリモリの奥さんのナオナオ。
両手両足をロープで縛られ、口にはガムテープを貼られている。
一馬が起き上がってウーウー唸ってる。
「なんだ、トイレか?」
誘拐犯の一人タカは一馬のガムテープを剥がした。
「いって!腹へった!腹へった!腹へった」
「朝飯買って来てやったぞ」
コンビニで買って来たパンとおにぎりとお茶をテーブルに置いて、一馬の手のロープを解いた。
ナオナオも起き上がる。
タカはナオナオのガムテープと手のロープを解く。
一馬が怒鳴る。
「照り焼きチキンフィレオ食べたい!」
「贅沢言うな!」
ロープを解かれたナオナオは言った。
「いつになったら解放してくれるの?」
「金が手に入ったら解放してやる」
一馬がパンを頬張りながら言った。
「本当は殺す気でしょ」
「だ、大丈夫だ」
「動揺してるし」
「お願い、殺さないで‥」
涙ぐむナオナオ。
「あ~あ、泣かしちゃった」
「お前が変な事言うからだろ」
「おねえさん、なんか食べといた方がいいよ。いざっていう時、動けないと困るし」
一馬は2個目のパンに取り掛かる。
「いざってなんだ!逃げられると思ってんのか?」
「おじさん。ほかにも仲間いるんでしょ?」
「あ?あぁ、まあな。って、お前には関係ないだろ!」
「身代金はいくら?」
「聞いてどうする?」
「僕っていくら位のお金になるのかな~って。だいたい5億円くらい?」
「え?そんなに?」
「じゃあ3億?」
「いや、2億」
「ふ~ん。その2億を4人で分けて~、1人5千万円か」
「いや、3人だから~ 1人~ 6千~ 6百66万666円!」
「3人ね」
「あ!てめ!」
ナオナオは、おにぎりを食べながら、2人の会話を聞いていた。
その頃、駅前ロータリーではなかなか現れない犯人に、カズへーは苛立っていた。
「おい!もう7時30分だぞ!犯人はどうした!」
すると、1人の男がバッグに近づいた。
周りを見渡してから、しゃがんでチャックを開ける。
チャックを閉めて周りを見渡して、バッグを持って行った!
カズへーが号令をかけた!
「全員確保ー!!」
警官が一斉に駆け寄り、全員で男の上に乗っかるからたまったもんではない。
「ぐるじ~!!」
男からバッグを取り返して中身を確認すると、エロ本が山ほど出て来た。
カズへーはエロ本を広げて言った。
「一体どうなってるんだ‥」
そして、モリモリはと言うと
もりもりの運転する覆面パトカーは、2億円を積んであっち行ったりこっち行ったり、なかなか目的地に着かないようだ。
ユオは運転しながら言った。
「迷ってんのかな~。あの覆面、カーナビ付いてんのに」
ホヘトは言った。
「付いてるの知らないんじゃない?」
ボッサンは真剣な面もちで言った。
「ま~、そんな事はどうでもいいんだが。今、もりもりの車はウチらの3台前じゃん。2台前のBMW、かなり前から俺の視界のどっかにいるんだよな」
ホヘトは乗り出して聞いた。
「え?というと?」
「多分BMWも、モリモリを尾行してる。こっちには気づいてないと思うんだがな」
「モリモリさんを操ってる奴らか、モリモリさんの仲間か」
「その答えはすぐに分かるさ。どうやら終点らしい」
モリモリと2億円を乗せた車は、廃虚となった工場に入っていった‥