マリオネット
22:00
川口警察署第1会議室
犯人から連絡が入る。
『金は用意出来たのか?』
カズへーはマイクで答えた。
「用意した。一馬くんの声を聞かせてくれ」
『ここには居ない。無事だ。信用しろ』
「金はどこに持って行けばいいんだ」
『まず、2億円を黒いボストンバッグ一つに入れろ。それを、明日の朝7時に、川口駅東口ロータリーの公衆トイレ横のゴミ箱の前に置け』
「人質は?一馬くんは、いつ解放する?」
『金を確認してから居場所を教える。それから、川口署の盛田刑事に金を持って来させろ。他の奴じゃだめだ。下手なマネすれば人質の命は無いからな』
電話は切れた。
ラッキーデカ長は言った。
「朝7時の駅前っていったら、通勤ラッシュだな」
ボッサンは言った。
「人混みに紛れて金を持って行く気か」
ホヘトはモリモリに聞いた。
「モリモリご指名って、知り合い?」
「知らないッス‥」
深夜12:30
捜査1課の部屋
真っ暗で誰も居ないのを確認して中に入るホヘト。
マグライトの光を絞って点けて、ラッキーデカ長のデスクに向かう。
パソコンを開いて電源を入れる。
案の定パスワードでロックされている。
手帳を出して、何回かパスワードを入れるがロックが解除出来ない。
「はぁ~。駄目か」
あきらめてパソコンを閉じて辺りを見渡しながら部屋を出る。
その後ろ姿を、暗闇からラッキーデカ長は見ていた。
翌朝6:50
川口駅東口ロータリー
本庁、川口署合わせて30人が張り込んでいる。
ボッサン、ホヘト、ユオは、覆面パトカーで離れた場所から見守っている。
ボッサンは大あくびをしながら言った。
「ど~せ所轄は除け者なんだ。本庁に任しときゃいいっしよ」
ホヘトは後ろの席で言った。
「モリモリの晴れ舞台なんだから、見守ってあげましょうよ」
そこへ、モリモリ運転の覆面パトカーがロータリーに入って来た!
「どれどれ~?」
ボッサンは双眼鏡を覗き込む。
「まさか、ネコババしてないよな?」
ホヘトは心配そうに言った。
「2億円に目が眩んで?そりゃないっしょ」
ユオは笑いながら言った。
「バッグの中はエロ本が詰まってたりして」
ホヘトは言った。
「エロ本好きはお前だろ」
ボッサンはホヘトに言った。
モリモリは車を止めて、バッグを持って降りる。
ボッサンが不思議そうな顔で言った。
「あれ?おかしいな」
ユオが聞いた。
「どったの?」
「いや、ボストンバッグのチャックの閉め方が違うぞ」
ホヘトが聞いた。
「え?どういう事?」
「署で金詰めた時は、チャックを両側から閉めて真ん中で合わせたのに、端に寄ってるって事は、一回開けたな。バッグの膨らみもビミョーに違うし」
ユオが半笑いで言った。
「まさか、中身を入れ替えた?またまた~」
モリモリは、駅に向かう人の流れに乗って公衆トイレまでたどり着いた。
周りを見渡して、ゴミ箱の前にバッグを置き、戻っていくモリモリ。
本庁、川口署全員の目がバッグに注がれた。
カズヘーが無線で言った。
「バッグから絶対目を離すんじゃないぞ!」
モリモリは車に乗り込むと走り出した。
ボッサンは言った。
「モリモリの後を追うぞ!」
ユオが言った。
「え~!職場放棄?」
「後は本庁の奴らに任しときゃいいって」
ボッサンは車を出して、もりもりの後を追った。
気づかれない様にかなり間を開ける。
しばらく走ってからボッサンは言った。
「お、車が止まるぞ」
コンビニの前で止まり、中に入っていくモリモリ。
しばらくして出て来て車に乗り込む。
乗り込んだまま動かない。
ボッサンは言った。
「中で何やってるんだ?」
双眼鏡で覗き込むユオ。
「牛乳飲みながらアンパン食ってマンガ本見て笑ってる」
ホヘトは言った。
「呑気な奴」
「お、我に帰ったのか、マンガ本を後ろに放り投げて、車を‥ ぷっ、牛乳こぼした」
再び走り出すモリモリ。
しばらく走ったところで、ブレーキを踏んでスピードを落とすモリモリ。
ボッサンは言った。
「また止まるか?」
と思ったら、
バックして方向転換する。
ユオが慌てて言った。
「Uターンしてこっちへ来る!」
道端に車を止めてボッサンたちは伏せる。
通り過ぎるモリモリ。
「なんだよ、まったく~」
ボッサンたちもUターン。
しばらく走って交番の前で車を止めるモリモリ。
「自首するつもりか?」
双眼鏡で覗き込むユオ。
「道を聞いてる。迷ったみたい。しかも怒られてるし、逆駐車だって」
再び走り出すモリモリ。
しばらくしてタバコ屋の前で止まるモリモリ。
車を降りてタバコを買う。
「タバコならコンビニで買えばよかったのに」
車に乗り込むモリモリ。
双眼鏡で覗き込むユオ。
「タバコをくわえて‥火をつける、つかない。つかない。ライターのガスが無いみたい。
ライターを降っても‥つかない。他のライターを探す。胸のポケット、サンバイザー、ダッシュボード、
あった!火をつける。スゴいむせてる。フィルターに火をつけちゃった。あー、諦めた」
再び走り出すモリモリ。
ホヘトは聞いた。
「ボッサンは、モリモリが本当にネコババするって思ってる?」
「思っちゃいないよ。ただ、誰かに操られてるような気がする」
モリモリは、ラビリンスに迷い込んだかのように街の中を走りまわるのだった‥