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放課後の後に



 ××



 学校指定のブレザーを着た少年の幽霊が窓から外を見る。その姿は無く、人間では視認できないだろう。幽霊は楽しそうに笑いながら音無く言う。


「今年も元気な子達が来た来た」


 幽霊の見下ろす先には、今日の入学式に出席する新高校生達がいる。皆新しい制服に袖を通して、軽く緊張した表情で会場に入っていく。

 きらきらと輝く朝日に照らされている彼らはこれからどんな生活を送るのだろうか。

 と、そこで幽霊はとある女生徒を目に留める。

 その子の強気そうな顔に、ある人のことを思い浮かべた。


「頑張ってるかな? まぁ、あの子のことだからきっと頑張ってるんだろうな」


 懐かしそうに目を細めて、幽霊は近くの机に腰掛けた。

 そして、少しだけ唇を撫でて、目をつぶった。



 11



 私は若干以上に緊張して、体育館のパイプ椅子に座っていた。

 体育館は、私と同じく今年からこの学校に通うことになる新入生達の話し声でがやがやと騒がしい。

 きゃっきゃと笑い合っている女の子達を見て、若いなぁと思ってしまう。別に私もそんなに年な訳ではないのに。


『これから、入学式を始めます』


 司会担当の先生がアナウンスをする。

 新入生達は決められた座席に座る。ぴしっと背筋を伸ばして緊張する姿を見て、私はくすりと笑う。


『それでは、始めに学校長からの――』


 式は恙無く進行し、新入生達の各クラスの担任教師紹介をして終了した。

 そういえば、4組担任の理科の先生。まだこの学校にいたんだなぁ。


 入学式が終わり、新入生はクラス分け表に従って自分のクラスにぞろぞろと向かい始める。

 私も自分の椅子から立ち上がり、クラスに向かう。少し緊張してつまずいてこけそうになる。

 それを見ていた先生が、笑いながら私に話しかけた。


「大丈夫か? 落ち着きなよ、そう緊張することもないから」

「そ、そんなこと言ったって先生……」

「あはは、まあな。俺にもそんな時期があったな、確か」


 先生と話しながら歩いていると、あっという間に教室に着いた。

 うぅ、緊張を解す暇すら無かった。


「ほれ、頑張れよ」

「は、はいっ」


 先生は私の背中をぽんと叩くと、ドアを開けて教室に入った。私も慌てて着いていく。

 教室は突然ドアが開く音がした所為で一瞬の沈黙に包まれていた。入ってきた私達に多くの視線が突き刺さる。

 先生は大声で皆に言う。


「ほれほれ、お前ら座れー」


 入ってきたのが先生だと気づき、皆が自分の席に座っていく。


「おし、じゃあさっきも紹介があったけど、俺がこのクラスの担任の――だ、よろしく」


 先生が黒板に名前を書いて自己紹介をすると、数人から「よろしくお願いします」と声が挙がる。


「おう、よろしくな。んで、こっちが……」


 先生が私の方を見る。

 生徒達も私の方を見る。

 一回深呼吸をすると、私は教壇の前に移動して、口を開く。



「このクラスの副担任を勤めます、×××××と言います」



 私にも、よろしくお願いしますの声が幾つかかかる。


「え、えっと、私は今年からの新任なので、まだまだ拙い所があるかもしれないですが、よろしくお願いしますっ」


 そんなこんなで私、×××××は教師になりました。



 12



 幾つかの仕事を片づけて、時計を見ると既に4時を回っていた。

 担任の先生に声をかける。


「すこし教室に行ってきます」

「どうした? なんだか嬉しそうだな」

「いえ、ちょっと」


 どうやら表情に出てしまったようだ。

 逸る気持ちを押さえつけて職員室から出る。

 向かうのは〝あの〟教室。


「頑張ったよ、私」


 どうしたら、彼とずっと一緒にいられるか。

 考えて考えて見つけた答え。


「私、先生になっちゃったよ」


 この学校の先生になれば、彼と離れずに済む。

 教師になることを決めてからは、必死に勉強した。


「ずいぶん待たせちゃったね」


 自然と早足になる。

 知らないうちに涙がにじむ。

 逢いたかった。

 ずっと逢いたかった。


「逢いたかったっ」


 辿り着いた教室の扉を開ける。

 教室の中は夕日で黄金色に輝き、開け放たれた窓から肌寒いくらいの気持ちいい風が吹き込んでくる。チョークや紙が混じった教室の匂いが鼻をくすぐる。

 人がいない教室を見て、なんだか堪えきれなくなってしまって声をかける。


「×××××君!」


 がたんと机が大きな音を立てる。

 教室の真ん中に、誰もいない空間から、一人の男の子が現れる。

 男の子――×××××君はあの日と全く変わらず学校指定の藍色のブレザーを着ている。

 その身体もあの日のまま。

 困惑した表情をする×××××君。

 もしかして、私の姿が分からないのかな。もう何年も経ってしまったから。

 しかし、×××××君は


「×××××ちゃん……?」

「そ、そうだよっ!」

「そんなに焦らないで……落ち着いて、ね?」


 急き込んで話そうとする私を×××××君が押さえる。

 私は一度深呼吸して、気持ちを宥める。


「私ね、学校の先生になったんだ」


 頑張ったんだよ。

 ×××××君は、褒めてくれるだろうか。


「だからね、だから……」


 だから。


「これからは、一緒に居られるよ」


 ×××××君は一度目を見開いてから、すぐに柔らかく優しく微笑む。

 そして、落ち着いた声音で言う。



「おかえり」



 その言葉一つに胸が一杯になってしまう。

 長かったけど、私叶えたよ。

 私も溢れ出る涙を拭って、思い切り笑った。



「ただいまっ!」


完結いたしました


ありがとうございました

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