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 小話 桜


小話03


 最近暖かくなってきた春風がびゅうと吹いて、花びらが私の方に流れてくる。例年より早く、今日に合わせたかのように桜は満開となり、抜けるような晴天と相まって清々しい雰囲気を作り出している。

 全く持って、

 いい卒業式日和だ。


「んーっ、綺麗だね」


 窓から身を乗り出して外を見下ろすと、沢山の生徒や教師が入り交じって高校最後の思い出を作っている。中には泣き崩れてしまう人も居て、慰める人や笑う人、もらい泣きする人も居て、楽しくも騒がしい。


「ね、×××××君! 綺麗だよ」

「…………」


 明るく、話しかけるのだけれど、×××××君は俯いたままで何も言わない。

 黄金色の光が教室を照らしている、切なくなる風景。×××××君は初めて逢ったときのように、浮き世離れした雰囲気を纏っている。


「……強いよね」


 ×××××君は何かを堪えるような声音で呟く。


「……?」

「×××××ちゃんは強いよね」

「なんで?」


 私の問いかけに、×××××君はぐっと息を詰めて顔をあげる。


「なんでって……今日で、お別れなんだよ?」


 今日でお別れ。

 ×××××君の言葉の意味は分かってる。

 私が卒業しても、×××××君はこの放課後の教室に残る。卒業した生徒がそう何度も何度も来校するのは余りにも不自然だ。部活はやめてしまったからOBとしてとかの理由付けも出来ないし。仮に来たとしても、卒業生が放課後の教室に入ることも可笑しい。

 だから、まともに逢えるのは今日が最後。


「僕は……僕はそんなに強くなれないよ。泣かないようにするので、精一杯だよ」


 震える声で×××××君が言う。


「×××××君……」


 私は×××××君に近づいて、彼をぎゅっと抱きしめた。

 私の胸の中で、×××××君がびくと震える。


「あぁ、もうホント、×××××君って……可愛いなぁ」

「っ!?」

「いつも、私のことからかう意地悪な癖して、寂しがり屋で実は泣き虫で。どうしてそう私の気持ちをくすぐるのかなぁ」


 ×××××君の髪に顔を埋めながら、頭を撫でる。×××××君は私に抱かれて体を強ばらせたままなされるがままにされている。


「大好きだよ、×××××君」


 名残惜しくはあるけれど、私は×××××君を放す。×××××君は、顔をあげると少しだけいつものように苦笑して私を見る。


「×××××ちゃんも、初心な癖して大胆なんだから……顔を真っ赤にして、まったくもう。可愛いよね」

「えへ」


 くしゃくしゃと頭を撫でてくる。

 一頻り撫でると、×××××君は私の手を握ってくる。

 私は手を握り逢ったまま話し始める。


「私もね、寂しいし悲しいんだけどね。それを言ってもどうしようもないし、×××××君との思い出が暗い雰囲気なのは嫌だなって思うから」

「……やっぱ、強いね。そう思ってても僕は出来ないよ」

「それに、まだ諦めてないもん」

「え?」

「私には、夢があるんだよ」


 不思議そうにする×××××君に笑いかけて、言い切る。


「×××××君とずっと一緒にいる」


 ×××××君と楽しく暮らす。

 絶対に、お別れなんかしたくないから。


「……そんなの」


 ×××××君は、寂しそうに言う。

 そんな×××××君の言葉を私は吹き飛ばす。


「無理じゃない。絶対に叶えるから。私は結構我が侭なの。ハッピーエンド以外、認めないよ」

「…………」


 死んでるから何だ。

 学校だから何だ。


「×××××ちゃんは、やっぱ強いよ」


 ×××××君は涙を零しながらくすくすと笑う。


「だからさ、待っててよ×××××君」

「……うん、分かった」

「だからさ……その、ね?」


 上目遣いで×××××君を見てみるが、理解してはもらえないようで、私の言葉を待っている。

 わき上がる羞恥心を押さえつけて、


「頑張っても……時間がかかると思うんだよ……だ、だから……その間、逢えなくても我慢できるように……ね」

「……っ」


 私の言いたいことが伝わったようで、×××××君の顔が高速で染まっていく。


「本っ当に、君は……」


 ×××××君は恥ずかしそうに私を抱き寄せると優しく、優しく唇を重ねてきた。


「……ん」

「…………」


 思いを込めるように×××××君の背中に手を回す。体が密着して、激しく暴れる心音が聞こえる。この鼓動は私のだろうか、×××××君のだろうか。

 いつもより、息苦しくなるほどずっと長く続くキス。

 どのくらい経ったか分からなくなった頃に、×××××君が離れる。

 お互い、息を整えて見つめ合う。


「ありがと、これで頑張れる」


 ×××××君は優しく微笑むと、ありがとう、と言った。



 桜が舞い散る学校に、夕日が溢れる。

 幻想的な世界は私の高校最後の思い出として、強く強く焼き付いた。

 放課後の教室で二人ぼっち。

 私は想いを確かめる様に、


「大好き」


 呟いた。


×××××君マジヒロイン

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