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 小話 姉さん


 小話01



 やっと日が昇り始めた朝早く。

 窓ガラスの結露が玉になって流れ落ちた。寒い中頑張って飛んでいる小鳥たちは、電線につかまってさえずっている。

 今日もいい朝だ。


「さて、お弁当完成っと」


 今日は、ちょっと早く起きて自分でお弁当を作ってみた。

 いつもはお母さんに作ってもらってるんだけど、今日は諸事情により作らせてもらっている。

 突然で、うまく作れるかどうかは心配だったが、一応料理は得意な部類に入っていたのでそこそこのものは出来た。

 小さい方のお弁当は赤い巾着、〝大きい方〟のお弁当は青い巾着に入れる。


 と、そんなときがちゃりと玄関のドアが開く音がした。


「ただーいまー」

「いや、姉さん……朝帰りっていくらなんでも」

「いいじゃんいいじゃん、今日大学は行かなくていいしー」


 姉さん。

 私のお姉さん。

 私と4個違いの大学二年生、A型、性格は面倒くさがり屋でサバサバ系――姉妹でそんなとこ似なくてもいいと思う――、テンションが高くお喋り、身長が高くてすっきりした顔立ちは一応美人と言えるだろう、最近は遊び歩いていて母さんの悩みの種になっている。

 ちなみに私に関わりたがってくる、ウザい。

 そんな姉が、現在午前6時に我が家へと帰ってきた。

 姉さんは、ふらふらと歩くとリビングのソファーへと倒れ込んだ。


「おなかすいたー」

「帰ってきていきなりそれはひどいよ」

「いい匂いするね、何作ってんの?」

「うぐ……」

「って、あれ! なんで×××××が台所に立ってるの?」


 面白い玩具を見つけたかのように、姉さんは勢いよく起き上って近づいてくる。


「あっれれーっ! 何かお弁当がふたつもあるよーっ!」

「う、うるさいな……」

「おやおやおやおや? この状況、この反応……もしかしてー?」

「むぐぐ……」

「彼氏? それともまだ好きな人段階?」

「そ、それはぁ……」

「ほっほーう、いいねぇいいねぇ青春だね! どんな子よ! かっこいい? かわいい?」


 しなだれかかってきて、耳元でささやく。

 ムカつくことに私とは大違いの胸部の大質量が押しつけられる。


「うざってぇ……」

「やーん、×××××ちゃん口が悪いーっ」

「姉さんがムカつくからだよっ!」

「妹が可愛いからだよーんっ!」


 姉さんは私に頬ずりしながら、お弁当に入りきらずに余った唐揚げをぱくつく。


「うわっ! 美味っ! え、このお肉下味しっかり染みてる!」

「そう? 美味しい?」

「なんだよなんだよ、随分気合い入れてるじゃんかよー!」

「う、うるさいなー」

「いやぁ、お相手君は羨ましいね、私の妹にこんなに想われるなんて」

「べ、別に好きな人だって決まったわけじゃ」

「誤魔化すなよー、アドバイスしてやるぜ?」

「えっ、本当?」

「あは、やっぱ好きな子だったか!」

「っ!? は、謀ったなぁ!」

「顔真っ赤っかー! やっべー×××××可愛過ぎだよ、私が惚れそうだー!」

「うるさいっ!」


 頭を撫でられ、抱きしめられ、もみくちゃにされる。


「一旦やめろーっ」

「きゃーっ!」


 姉さんを振りほどき、ソファーに戻す。

 にやにやする姉さんは放っておいて、余ったお弁当のおかずとご飯、味噌汁で簡単に朝ごはんを整えて運んで行く。


「はい、朝ごはん姉さんのも」

「ありがとーっ、いただきまーすっ」

「はぁ、まったく……いただきます」


 私も唐揚げを一口食べる。

 少し冷めてきたがとても美味しく、ご飯が進む出来に仕上がっている。

 これなら、いいかなぁ。


「喜んでもらえそうだねー」

「うっさい、ばーか」


 ついでに作ったが、みそ汁もいい感じ。

 早起きが少し辛かったけど、頑張ってよかった。


「うんうん、良い顔してるね」

「へ?」

「いや、母さんから×××××が最近つまんなそうな顔してるって聞いてたから」

「あっ」


 そういえば、虐められていたのをすっかり忘れていた。

 ちょっと、嬉しい事があったせいでくだらない問題を無視していたなぁ。

 というか、私が忘れるほどってもはや虐めじゃないのではないだろうか。


「恋は人生を充実させるねぇ」

「……まぁね」

「お!? 認めた? 今認めたよね!」

「うるさい」


 にやにや半笑いで姉さんは私を観察する。やめろ、ご飯が食べにくい。

 姉さんが顔を近づけてきて、ぼそっと言った。


「……で、どんな子?」

「えっとね! ちょっと不思議な雰囲気のある格好良さでね、時々する照れた表情は可愛くてね、いつも意地悪で悪戯好きで、私のこと小馬鹿にするような笑顔するくせして、私に優しくて、臆病なところがあって何だか支えてあげたくなって――」

「すとーっぷ! 待って待って!」

「え?」

「わ、わかったから、×××××がベタ惚れなのは分かったから」

「そうかな」

「そうだから! あんまり盲目になるなよ?」


 まくし立てる私に姉さんは若干引きながら、少し真剣に話す。


「盲目には……ならないよ、姉さん」

「片足つっこんでる気もするけどね……」

「うるさい」

「はー、私もこんな初初しい時代もあったねぇ……懐かしいわぁ……」

「おばさん臭いよ」

「ていうか、興味がないものにはとことんの×××××がこんなになるなんて……結構気になってきた! えっと、その何君だっけ」

「…………×××××君」

「×××××君か、ちょっと味見してこようかしら」

「あじっ……!?」

「別に良いじゃない」

「駄目に決まってるでしょうが!」

「えー」

「えーじゃない!」


 まぁ、実際は放課後の教室から出られないうえに、もう死んじゃっているから会おうと思ってもほぼ不可能だと思うけれど。


「×××××君は私のものだもん」

「うへぁ、私の妹にそこまで言わせるとか、×××××君尊敬するわー」

「うるさい」

「ちなみに、もう八時過ぎそうだけど、学校行かないの?」

「え!?」


 慌てて時計を見る。

 やばいやばい、30分で学校はぎりぎりだ!


「もっと早く教えてよーっ!」

「はっはっは、話し込んでたのは×××××だよ」

「うるさーい!」


 お弁当二つをひっつかんで、鞄に丁寧に入れると、急いで靴を履く。


「慌てるなよ、大丈夫お弁当おいしいから」

「うるさい! いってきます!」

「いってらっしゃーい」


 私は飛び出すように家を出た。

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