第十章 最後のページに書かれた言葉
バラグは、静かに座り込んでいた。
彼の手には、かつて自分が書いた小さな本がある。
ニジは、その隣に腰を下ろした。
「もう、物語を閉じ込めなくてもいいんだよ」
バラグは、しばらく黙っていた。
やがて、小さな声で尋ねた。
「私は、許されるのだろうか」
ニジは、すぐには答えなかった。
「傷つけた人たちの悲しみは、なかったことにはできない。でも、これから誰かの物語を守ることはできる」
クロノスが、静かにうなずいた。
「私も、過去の過ちを背負っている。償いとは、一度の謝罪で終わるものではない。日々の行動で、少しずつ信頼を取り戻していくことなのだ」
バラグは、手の中の本を見つめた。
「もう一度、書いてもいいのだろうか」
ノエが微笑んだ。
「もちろん。今度は、わたしも読むよ」
その言葉に、バラグは初めて涙を流した。
ユイは、小さな光の糸を本の表紙に結んだ。
その糸は、バラグの過去と未来を優しくつないでいた。
そして、最後のページに文字が浮かび上がった。
『物語は、誰かの心に届いたとき、初めて新しい命を得る』
その文字を見たバラグは、深く頭を下げた。
「ありがとう。私は、もう一度、物語を書く」
交差銀河の空には、明るい光が戻ってきた。
忘れられた物語の村には、再び人々が集まり始めた。
司書は古い本を棚から取り出し、子どもたちに読み聞かせを始めた。
その声は、村の隅々まで届いた。
誰かの小さな願いが、誰かの心に届く。
その何気ない出来事こそ、世界を豊かにする大切な奇跡なのかもしれない。




