フラストレーション
「先生、亜衣サン、そこで耳を塞いで待っていてくれ。口は開けておけよ、鼓膜が破れるからな」
隼人はピンを抜いた缶を下の階段に向けて投げた。
ドカンッ
縦長の狭い空間内に大きな爆発音が反響して体が振動した。同時に閃光が湧きおこり煙が駆けのぼってきた。ガスマスクを取り出して着用しMP7A1をかまえながら、乱射される銃声にかまわず隼人は下へ向かって行った。隼人の姿が見えなくなってすぐに階下は静かになり、数分経ってから煙の中から隼人が姿を現した。
「パック完了。亜衣サン、爆発音と閃光と煙だけの健康的なスタングレネードだからヤツラのカラダのことは心配しなくていい」
“乱射のさなかに飛び込むなんて、命が惜しくないの? ひ弱なくせに… でもスゴ…”
プロを自認していた自分でも知らない世界があり、その本物の中の本物を亜衣は生まれて初めて目の当たりにして言葉を失っていた。
それから程なくして三人は上杉陸曹が捜しだした陽二の位置情報の発信源の部屋のすぐ前まで来ていた。
「本当に陽二はこの部屋の中にいるんですか、先生?」
「ロギングした結果、この部屋から信号が出ていることは間違いないのよ」
「ニセの信号ということはないのか?」
「ウチのロギングシステムは野生動物観察の大学研究者とも共同研究していて信頼性が高いの。そして今、システム上は発信データと受信データのマッチングには問題ないからニセモノの可能性は真夏に雪が降るより低いわ。もう説明はいいでしょ」
上杉陸曹の顔には焦りの色が濃く出ていた。
「一刻も早く福本を助けないと… 連れ去られてからかなりの時間が経っているし…
柏木、バックからショットガンをすぐに出して」
亜衣はショットガンとスティック糊の様なシェルカートリッジをバックから取り出して上杉陸曹に渡した。上杉陸曹は銃身の下のチューブマガジンへ満タンに弾を込めて1回スライドを前後させた。
「なあ、チョット…」
「なんですか、曹長?」
隼人は何か言いたげだったが、上杉陸曹の刺すような眼光に話すことを止め首を横に振った。
「いや、なんでもないんだ… そうそう、今のスライドで弾がもう一発マガジンに入るぜ」
「どうもありがとう、曹長」
もう一発の弾を言われたとおり装てんした上杉陸曹は深く深呼吸をする。
「この扉の鍵の受け口をドアノブの斜め上から打つ」
反撃を避けるため厚みが薄い扉の正面を避けて枠側の前に立ちドアノブの斜め上に銃口を向ける。
ヴァン
サプレッサーを通したくぐもった発砲音が響いた瞬間
ドッカン!
上杉陸曹の真正面の壁が爆発して彼女は煙に包まれて見えなくなった。
「せ、先生?」
爆煙が薄くなると床に転がる上杉陸曹の体が見えてきたが、ピクリとも動かない。
「先生~っ!」
「おい、危ない! 近づくな!」
隼人がつかんだ腕を亜衣は振りほどこうとする。
「バカ、離しなさいよ!」
「バカはどっちだ! 危険だから近寄るな!」
「だって先生が!」
ダンッ
薄暗い通路の奥から銃口炎と同時に弾丸が撃ち込まれた。が、狙いは残った二人ではなかった。
「先生が狙われている! 早く助けないと!」
「今は無理だ。ガマンしろ」
ダンッ
動かない上杉陸曹めがけて弾丸が発射される。
「先生っ!」
「俺たちをおびき出すワナなんだよ! おとなしくしてろ!」
上杉陸曹に近づこうとする亜衣のことを隼人は力づくで押さえつける。
ダンッ
放たれた弾丸が命中して上杉陸曹の身体が一瞬小刻みに揺れる。
「先生、先生~っ!」
必死で隼人を振りほどこうとする亜衣。もみ合いがしばらく続いたが、急に亜衣はおとなしくなった。
“亜衣サン、やっとわかってくれたのか?”
一息つけて隼人は少し落ち着いた。
“あの部屋の前に着くまでに敵が攻めてこなくておかしいと感じてたんだ。きっと何か企みがあるはずだと… が、確証がないんで焦る陸曹を止められなかった…”
隼人が目を離したスキだった。亜衣がマイオトロンを取り出し隼人の死角に振り上げた。




