それは邪推から始まった
隼人とカトリが廃ホテルで銃撃戦をする1時間ほど前のこと、合宿の宿泊先のホテルでは、トイレにおきた剛介が、暗い部屋の中で、もぬけの殻となった隼人のフトンに気がついていた。
“消灯の時には確かに赤城のヤツはここで寝ていたよな…”
一応寝ている陽二を気づかって電灯の消えた部屋の中を音をたてないように捜してみたが、隼人の姿はどこにも見当たらない。出入口のノブを回してみるとカギは開いたままだった。
“そう言えば、キャンプファイヤーの『おしゃべりタイム』ときに、赤城とカトリは真剣に何か話をしていたしな…”
肝試しでの出来事に加えてキャンプファイヤーで見た光景が、剛介の脳裏によみがえって、頭から眠気を追い出して目を冴えさせた。
“もしかして… 合宿最後の夜に赤城は抜け駆けしてカトリと二人だけで出かけにでも…”
自分のあせりとは関係なしに、足元で何ごともないようにスヤスヤ寝ている陽二の顔が剛介の目に入った。
“そうだ、福本なら赤城のことを何か知っているかもしれんな”
寝ている陽二を起こすため、はじめは自分は立ったままで陽二の体を蹴って起こそうとした剛介だったが、カトリとの約束を思い出して、かがんで陽二の肩を揺り動かした。
「福本、起きろよ」
いく度か剛介が声をかけても、気持ちよさそうに眠り続けている陽二には起きる気配が全くなかった。どうしても早く隼人のことを確認したい剛介は、この陽二の様子にシビレを切らしてしまい、乱暴に陽二のことを揺さぶった。
「おい、福本、いいかげん起きろよ!」
「い、いったい、な、なんなんだ!」
剛介から手ひどい目にあわされた陽二が、何事が起きたかと、バネでハジかれたように跳ね起きた。
「赤城がいないんだが、お前は何か知らないか?」
気のはやる剛介が寝ぼけまなこの陽二に問いかける。
「何にも僕は知らないよ! せっかく気持ちよく寝ていたのに… そんなツマラナイことでワザワザ起こさないでくれよ」
無理やり叩き起こされて不機嫌な陽二はフトンをかぶり直して、すぐさま横を向いてしまった。
“もしかしたら女子たちなら何か知っているかも知れないな…”
なんでもいいから情報を手に入れたい一心の剛介は、女子たちに様子を聞くためにスマホのチャットアプリを使ったが、反応はなかった。
「仕方ねえな… こうなったら、女子の部屋まで行ってみて直接話を聞いてみるしかないか…」
スマホを見つめたままの剛介のつぶやき声に、寝たふりをしていた陽二は素早く起き上がって反応した。
「女子の部屋に行くって言っても、消灯後の部屋の行き来は禁止されているハズだろ」
「誰もお前についてこい、とは言ってない。お前は規則でも守ってここで静かに寝てろ」
一刻も時間を無駄にしたくない剛介は、すぐにでも部屋を出ようとしていた。これを見ていた陽二は剛介の態度に本気になる熱さ、男らしさを見て取ったようだった。
「今から志織たちの部屋へ行くんだろ? それなら僕もついて行くよ」
「好きにしろ。だが、ジャマだけは許さないぞ」
腰抜けだと思っていた陽二の見せたヤル気に剛介は少し感心した。
自分たちの部屋を出た剛介と陽二は、男子部屋がある階とは別の階にある女子部屋に向かっていた。消灯後の部屋の行き来は同性間、異性間を問わず禁止されていて、担当の教員が廊下と階段を巡回することも生徒たちに事前に周知されていた。
「今すぐに返さなきゃならない忘れ物を届けるところです、ってどうかな?」
一生懸命に陽二は教員に見つかった時の言い訳を考えているようだったが、剛介はあきれた顔をしてそんな言い訳じゃ通じる訳がないと思っていた。
二人ともキャンプファイヤーの時に女子たちを誘いに行ったから部屋の場所は分かっていた。陽二は映画やテレビのように曲がり角から少し顔を出したり、腕を伸ばしながら壁に背中をつけて歩いたりして、隠れたり周囲に注意を払っているつもりのようだった。
「福本、その方がかえって目立つぞ。普通にしてろ」
剛介が陽二に注意をした、正にその時、巡回の体育教師が前方からやって来た。
「あなたたち、そっちは女子の部屋の方向よ。いったい何の用事があるの?」
「はい、今すぐ返さ
陽二の腹にヒジ打ちを加え黙らせてから、剛介が代わりに直立不動で返答した。
「明日の学級活動のことで再度確認したいことがあって、女子の委員のところに向かうところです」
女性の体育教師は無表情のまま二人をにらみつけた。
「こんな時間に今すぐ? どこの部屋へ? えーとあなたの名前は?」
「1年B組の竜崎剛介と福本陽二です。カトリーナ・クラインと東条志織と江間絵馬の部屋へです。用件はちょっと込み入っていて、明日の朝にはどうしても必要な内容なので」
このとき陽二はジャージ体操服の自分の名前の刺繍を指差していた。
“この学園に入学する子達なら常識をわきまえているとは思うけど、クギは刺さないとね”
「…クラス全体に影響することならば仕方ないわね。もう高校生なんだから、次からは準備は決められた時間内にしっかり終わらせておきなさい。行ってもいいわ」
その体育教師は名前や用件のメモを取りながら、眉一つ動かさないで付け加えた。
「あと、一つ。もう高校生なんだから、マチガイは決して起こさないように」
「そういうときは一人で行きます」
即答した陽二のことを体育教師はキッとにらみつけた。剛介は陽二の腹にもう一発入れてからソソクサとその場を去った。二人だけになった瞬間、剛介は陽二の腕を引っ張って女子の部屋に急いだ。




