男子報告反省会 ~独断~
オリエンテーション合宿2日目の夕食後、生徒たちは順番制の入浴時間の待ち時間を、ある者は仲の良い友人たちと部屋に集まってワイワイ騒いだり、ある者は宿泊施設の内外をあてもなく歩き回ったりして、日常生活から離れた不思議な気分の高まりに身を任せながら、思い思いに時を過ごしていた。
隼人・剛介・陽二の3人は入浴の順番が遅い時間帯だった。入浴までの待ち時間は長いが、かと言って3人で一緒にすることがある訳でもなく、班に割り当てられた部屋で持て余した時間をそれぞれの荷物の前で黙ったりスマホを見たりして座っていた。
トン! トン! トン!
部屋の扉をノックする元気な音が静かな室内に響いた。
「ハヤト、フクモトクン、ゴースケ、みんな仲良くしている?」
体操ジャージ姿のカトリが扉から、痛みのせいかちょっとしかめた顔をのぞかせながら声をかけた。
その後ろから志織とエマがカトリの脇を抜けて、スリッパを脱いで室内にまで入って来た。
「さっきは、いろんなことをしたよね、福本クン!」
志織は微笑んで陽二に向かって小さく手を振った。
「クラスのみんなには内緒だよ!」
隼人に向かって、エマも口の前に人差し指を立てながら声をかけた。
「ワタシたちはオフロの時間がもうすぐだけど、男子はどうなの?」
「俺たちはもう少し後の方だから、まだ時間があるんだが
カトリの質問に間髪を入れずに剛介が返答した。
「カトリは足首の具合はどうだ?」
剛介をさえぎるような隼人のカトリへの問いかけに剛介は無言だった。
「ワタシなら平気だよ! 添乗の看護師さんに見てもらったんだ! このあとのキャンプファイヤーまで私たちも部屋で待っているから、呼びに来てね! それまで3人とも仲良くしていなさいよ!」
「ねえ、二人ともオフロを出てから内緒で食べるアイスのスマホ払いの用意してきた?」
エマがスマホを見せながら志織とカトリにたずねた。エマと志織はすぐにスマホを確認できたが、カトリはポケットや持ち物をアチコチ捜し続ける…
「ワタシ… スマホと間違えてテレビのリモコン持って来ちゃったみたい… あの部屋にある見られないテレビの…」
ガックリしながらカトリはリモコンを取り出した。そのリモコンを見てその場の一同は一瞬静まりかえって、それから大爆笑した。
「確かにテンキーは付いてるわね… 分かったわカトリ! その足じゃ戻るの大変だろうから私がカトリの分も払うわよ」
笑いながらエマがガッカリしたカトリをなぐさめた。
「じゃ、私たちは先にオフロに行って来るから!」
「また後でね、男子諸君!」
上機嫌の志織とエマは3人に手を振りながらスリッパをつっかけて、カトリに付き添いながら部屋を出て行った。
「カトリってスゴイところもあるが、天然なんだな!」
「そうそう、この前も
隼人の思い出し話に反応した剛介の鋭いメヂカラに隼人が話を突然止めた時、
「ク、ク、ク…」
女子たちが出て行った開けっ放しの扉を閉めながら、陽二が抑えた笑い声をあげた。
「おい、福本、なんでそんな笑い方してんだ?」
気味わるそうな顔をした剛介を見ることもせずに、陽二は陽気に返事をした。
「いや、さっきの肝試しのときのことを思いだしていてさ…」
“肝試しって… 福本は建物に入れないで、ずっと外でビビッてただろ?”
剛介は全く納得いかない様子だった。
「へえー、いったい何があったんだ?」
意味ありげな陽二の様子に隼人も反応した。
「なんと、あの志織が… 僕に抱きついてきたんだよ!」
“今まで志織さん、だったのにイキナリ呼び捨てか?!”
あまり興味のなさそうな態度だった剛介が、突然目を見開いて陽二の方へ振り向いた。
「このホテルから出かけた時には、まず志織の方から僕に話しかけてきたんだ! そのとき僕は志織の方が僕に興味があると直感的に思ったんだ。そして、廃ホテルの前で僕たちの順番を待っていた時のことさ。志織の方から気分が悪いって言ってきて、気分転換に別のところへ行きたいと言いだしたんだ…」
話をしている間、陽二はとてもハイな状態だった。
「それからなんと! 僕の手を引っ張ってきて、僕に身を寄せてきたんだ! そうやって志織が僕のことを頼りにしてくれたから、移動中はもちろん僕が先導したのさ。その間、志織はずっと周囲の寂しい雰囲気に怯えて、黙りっぱなしだったんだ」
身振りと手振りを交えて陽二は得意満面だった。
「海が見える所まで向かって志織と風にあたっていたところで、赤城とエマが僕たちのところに来たんだ。あの廃墟までの帰り道でも、志織はあたりのことをずっと気にしていたんだ。“私、怖いの…”って志織の方から言ってきたから、落ち着かせようとして僕は志織の手を握ってあげたのさ! 今回は結局、僕と志織は肝試しは出来なかったのは残念だったけど、素敵な時間が過ごせたよ… 志織の手は小さいけど温かかった! ところで、君たちの方はどうだったのさ?」
“あんなにビビッていたくせに何フカしているんだ?”
“勘違いプラス話の特盛だろ?”
剛介も隼人も疑わしそうな表情をして陽二のことを見ていたが、陽二はそんなことにはかまうことのなく、繰り返し二人にたずねてきた。
「なあ、君たちはどうだった? もしかして、なんにもなかったの?」
含み笑いをして陽二は他の二人の顔をかわるがわる見た。
「うるせーな、ちょっと黙ら
“カトリと言葉遣いに気をつけるって約束したんだった!”
「福本、少し静かにしろよ。俺は女にはもともと興味ない」
陽二のことをウルサそうにしながらも剛介の挙動は不審だった。
“あれ、竜崎のヤツどうしたんだ? 急に丁寧なしゃべり方して…”
剛介の方を盗み見た隼人は何やら異変を感じた。
「でも、竜崎が廃墟から出てきた時にカトリを背負っていて、その後もここに帰るまでずっと背負いっぱなしだったのには驚いたよ! 二人とも黙っていたけど、本当に何にもなかったのか?」
「俺はケガをしたカトリを運んでただけだ」
剛介は陽二をにらみつけて返事をすると、陽二は目をそらした。
「赤城の方はどうなんだい? エマとは何かなかったの?」
陽二は剛介のことは諦め、今度は話のマトを隼人に変えてきた。
《ホラ来た! チョットからかってやれ!》
合宿前に肝試しが話題になった時、肝試しでエマと二人きりになった時などに、心の中に湧き上がって来たあの《誰かの声》が、また隼人の心の内に現れた。
「オレはエマを抱きしめて離さなかったぜ! エマの方もマンザラでもなかったようだったし!」
“おいおい、ナニ言っちゃってんだよ勝手に!”
自分の口から出た言葉に隼人はビックリした。そしてその隼人の言葉を聞いた陽二と剛介の二人は顔を見合せていた。
「ジョークだよ、ジョーク! そろそろ風呂の時間だから行こうぜ!」
《ここはこの二人に負けないように、コイツの先輩としてカトリのことはおれが世話を見てやるか!》
豪快な笑い声を上げながら《ハヤト》は陽二と剛介を風呂へ誘った。




