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八話

 炎使いの男を始末した後、空き家に戻った。

 当面の問題は、検問所を無事通過できるか、そして、母と娘を連れ出し、一緒に逃げることができるか。できたとして、その後平穏に暮らせるか。だ。

 相場がわからないが、二人を競り落とす金はない。参加すらできないだろう。やり直しはきかない。慎重に、尚且つ迅速に事を運ぶ必要があった。


 世界の行き来は、眠ったり意識を喪失するなどしたときに起き、その時、手に持っている物を持ってくることができる。世界Aで何時間寝ずに過ごしたとしても、世界Bでは、あくまで意識を失っていた時間しか経過しない。現状、それだけは確実といってよさそうだった。他にも疑問はあるが、今はそれを考えている暇はない。


 翌朝、検問所を離れたところから確認した。人数は二人だった。

 路地裏に腰を下ろし、ほんの少しだけ、眠り粉を吸い込んだ。


  ⌚︎


 スマホのタイマーで目を覚ました。土曜の七時三十分。二日酔いはない。手の中には、眠り粉。

 一階に降りると、家族が朝食の用意をしていた。休日なので、いつもより少し遅い朝食だ。


「おはよう、兄貴」

「まだ体調悪いの?」


 母が心配そうに尋ねる。


「ずっと寝てたから大分いいよ。今日はちょっとでかけるから」

 

 玄関で靴を履いていると、後ろから声がした。


「兄貴、ひどい顔だよ? そんなんで出かけるの?」


 昨日は風呂に入らなかったし、髭も剃っていなかった。それに、ひどく疲れている。


「ね、着いていってあげよっか?」

「大丈夫だよ。文化祭の練習してな」

「練習しすぎもよくないし、気分転換したい気分かなぁ」

「今日は忙しいんだ」

「……休みの日なのに忙しいって、何それ」


 頬を膨らませる妹を見て、少しだけ胸の辺りがチクリとした。明るく元気な妹に、これまで何度救われたことか。だが、今回は連れて行くわけにいかない。頭を撫でると、手を振り払われてしまった。


「な、何してんの!? 勝手に触らないで!」

「ごめん……」


 キャロルとは違う反応だ。距離感がわからない。


「……別に嫌なわけじゃないけどさ」

「え?」

「もういいから! 勝手に行けば!」


 背中を押されて、玄関を出た。



 母と妹をさらっていった奴らは、銃火器は持っていなかった。現状、転生者に関する知識は少ないが、こっちの世界のモノを利用しない手はない。それでも、他に能力のない俺が、転生者相手にどこまでやれるか。

 

 連続で世界の移動を繰り返すのも、体力を消耗するようだ。今のうちに必要なものはそろえ、あっちの世界の体力を温存しておきたかった。

 理想を言えば、銃火器が欲しい。方法は思い浮かばなくもないが、俺には両方の世界で育ってきた記憶や思い出が確かにある。こちらの世界でも危険を犯すわけにはいかなかった。


 近隣のホームセンターやショッピングモール、専門店を周り、必要になりそうなものを買い集め、リュックに詰めた。

 昼食はファストフード店で軽く済ませた。平和ななんということもない風景。それがなぜか、俺をイラつかせた。


 家に帰ったのは夕方だった。奏衣は部屋にこもっているようで、出てこない。家族に見つかる前に、リュックを部屋に持っていった。

 夕食の時、俺たちは口をきかなかった。両親も気を遣っているからか、口数は少ない。最後に兄妹喧嘩をしたのがいつかは思い出せなかった。

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