六話
夜、玄関を開けて入ってきた俺を見て、ジャンは目を見開いた。
「リュ、リュウ!? 目が覚めたのか……大変だったな」
俺は黙って近づく。
「……話は聞いた。こう言ってはなんだが、お前だけでも無事でよかった」
「死に際に、父がジャンおじさんを頼れと言いました」
「そうか……。あいつは、残念だったな」
俺は眠り粉の袋をジャンの鼻と口に押しつけた。少し暴れるが、すぐに大人しくなった。両手両足を縛り、椅子にくくりつけた。
買っておいた眠気覚ましを吸わせると、ジャンは意識を取り戻す。
「う……」
俺はすぐさまジャンの帽子を叩き落として髪を掴み、仰け反らせる。
「二人はどこに連れて行かれた? 全部わかっているんだ。言え」
「がッ! お、俺に手を出してみろ! 俺だって転生者なんだ! 奴らが黙っちゃいないぞ! は、それにこんなの、貧民街じゃよくある話だろうが!」
そう、よくある話だ。友達が突然いなくなる。よくある事だった。それが自分の家族に降りかかるという想像力が、俺になかっただけの話だ。
「あんたがそういうクズでよかったよ」
「あぁッ!?」
そのままテーブルに顔面を叩きつける。テーブルは壊れなかった。さすが、父が作っただけのことはある。
「がはッ!」
「無垢材も味があっていいが、こんな色の家具も悪くないでしょう。遠慮しないでください。お代はいただきませんから」
もう一度仰け反らせる。さっきより助走距離は長めだ。
「ま、待て! 話す! 話すから!」
「どうぞ」
「た、多分、転生者の居住エリアで、売りに出されるだろう。多分……」
俺はもう一度テーブルに叩きつけた。
「ぐああぁッ!」
ジャンがぜーぜーと呼吸をするたびに、テーブルが赤く染まっていく。
「その『多分』という言葉、二度と使わないでください」
「くっ……うぅ……」
ジャンの次の言葉を待つ。俺の心は、不思議なくらい冷静だった。そのことが、少しばかり俺を困惑させた。
「そ、それしか知らないんだ……。俺は情報を流していただけで……」
「もしかして今回だけでなく、レジスタンス時代から?」
「……」
オンユアマーク。今度はクラウチングスタートだ。
「……お、俺も無能力なんだ! そんな転生者が満足な暮らしをするには、仲間でもなんでも売るしかなかったんだよ……」
「そんなことは、今はどうでもいい。売りに出される場所はどこですか?」
「……し、知らない。本当だ」
これ以上こいつに聞いても無駄だろう。
「ジャンおじさん。一つだけ感謝します」
「……な、何をだ?」
期待するような目で俺を見る。
「おかげで転生者には、遠慮する必要がないことがわかりました。ありがとうございます」




