五話
デスクでビールを飲みながら、いつの間にか眠ってしまったらしい。缶は握ったままだった。アルコールに弱い俺がこうなるのは、珍しいことではなかった。腕時計は午前二時十分を指している。デスクで寝たはずなのに、仰向けだった。見えたのは人の顔と木造の部屋だった。
「気がついたか!? リュウ!」
リュウと呼ばれ、夢の続きなのだと思った。あるいは、さっきまで見ていたのが夢だったのかもしれない。
……いや、ビールの空き缶を握っていた。記憶も繋がっている。声の主は、隣に住む初老の男だった。
「またネイティブ狩りだ……すまん、俺には何もできなかった」
火は消えていたが、家は焼け落ちていた。母と妹はどこかへ連れ去られ、父は殺された。
俺は翌朝まで気を失っていたらしい。父の亡骸はもう固く、冷たくなっていた。
「母と妹は、どこに連れ去られたか知っていますか?」
「わからない……。だが、探すのは無理だよ。俺たちは壁に囲まれた貧民街から出ることもできないし……自分が無事だっただけでも……」
転生者にさらわれたネイティブの運命は限られている。売られて、奴隷か見せ物か、転生者どもの慰み者になるかだ。
父は貧民街の共同墓地に埋葬した。ネイティブに墓標はない。
俺は転生者には秘密の道具屋に寄ってから、空き家に入った。近頃空き家が増え、子どもの数も減っている。
すぐに動くべきだとは思った。そうしなかったのは、夢である可能性にすがりたかったからかもしれない。先ほど購入した眠り粉の袋を手に、壁に背を預けて腰を落とす。これで眠れば、きっと夢は覚める。少しだけ、粉を吸う。奴らが戻ってきたら、そのときはそのときだ。ここで死ねば、もう夢を見ずに済むかもしれない。
⌚︎
デスクに突っ伏した体制で目が覚めた。手にはビール缶の代わりに、眠り粉の袋が握られていた。腕時計が時を刻んでいた。今日は土曜。腕時計と眠り粉さえなければ、布団に潜って二度寝することができた。
テレビをつける。ワイドショーで、『大型トラック、転生は本当か』というテロップが表示され、出演者が議論をかわしている。俺はテレビの電源を切り、リモコンを思い切り投げた。壁に当たって床に落ちる。ドアがノックされ、声がした。
「兄貴、大丈夫? ベッドから落ちたの?」
「大丈夫。寝ぼけてないよ、今日は」
妹は「もう……」と呆れた様子で自分の部屋に戻ったようだ。
壊れたリモコンを掴み、ベッドに潜り込む。スマホのタイマーを三十分後にセットし、また少し眠り粉を吸った。
⌚︎
眠り粉を吸った量が少なかったから、覚醒までそれほど時間は経っていなかった。腕時計をはめていたし、手には眠り粉の袋とリモコンがあった。
ジャンおじさんの家に到着し、玄関を開けようとしたとき、話し声が聞こえた。窓からそっと中を覗き込む。ジャンおじさんと、昨日の襲撃者の一人が見えた。聞き耳を立てる。
「急に計画の時間を変更しやがって……! あの息子、俺の膝を砕きやがったんだぞ!」
「仕方ないだろ。配達に娘がついてくるとは思わなかったんだ」
「……次はないと思えよ。あのガキも必ずぶっ殺してやる!」
「仲間に放っておけと言われたんだろう。ネイティブの青二才に何ができる?」
「俺の気がすまねえんだよ! 明日までにやつの居場所を知らせるか、お前が捕えておけ! いいな!?」
男は乱暴に玄関を開け、杖をつきながら歩く。
「どけ! ネイティブども!」
そいつの後を尾けることはしなかった。リボーンズが貧民街から戻らず、その上殺されたとなれば、すぐに犯人探しが始まるに違いない。尾行しようにも、貧民街から出た時点で捕えられるだろう。聞くのはこちらからだった。




