十三話
「今の話に間違いはない?」
私の心はその男を前にし、驚くほど冷静だった。そのことが、少しばかり私を困惑させた。
「ま、間違いない……」
三十八口径、五連発リボルバーの銃口を頭に突きつけられた男の声は、虫の鳴き声にかき消されることなく、かろうじて私の耳に届いた。撃鉄はすでに起きていた。
「リュウ」
「え……?」
「名前なんて知らなかった? まぁいいわ。あの世まで持っていきなさい」
引き金を引く。乾いた銃声と同時に、男が地面に倒れた。銃身からは、煙が一条立ち昇っていた。
⌚︎
布団の中で腕時計のゼンマイを巻いて、起きて歯を磨く。鏡に映る顔に、少しだけ兄の面影を見る。
バカな兄。私が腕時計を壊し、あちらの世界を忘れて生きるとでも思ったのか。無理もない。まさかこちらの世界でも兄妹だったなど、夢にも思わなかっただろう。
キャロルを助けるために、奏衣から離れていった兄。文化祭どころではなくなってしまった。ベースは実家の部屋の片隅で、埃を被っている。
そのニュースが目に飛び込んできたのは、二年前のある朝だった。前日の夜、T市内の駐在所警察官が何者かに襲われ、拳銃を奪われた。駐在所のカメラ映像が映し出された。警察官を襲った人物は、私がよく知っている人のように思えた。いや、彼のことなど、何一つ知らなかったのかもしれない。
兄の部屋のドアをノックした。鍵がかかっており、返事はなかった。両親を呼び、鍵を壊して中に入ると、兄はベッドで眠っていた。しかし、目を覚ますことはなかった。
救急車で兄が搬送されたあと、リュックの中に、服と靴を見つけた。誰にも告げることはしなかった。
言い渋る母から聞き出した、レジスタンス残党の情報。それを伝手に、私——キャロルは『ロンド』と名を変え、転生者エリアで『なんでも屋』をやっている。行方も生死もわからない兄の情報を求め、生活のために依頼をこなす日々。
階下から私を呼ぶ声が聞こえる。どうやら依頼があったようだ。受けるかどうかは、内容と私の懐事情、そして、気分次第。
第一部〜完〜




