十話
そろそろ火が燃え広がり、会場が混乱している頃だろうか。
裏口から入って少し進むと、大勢の転生者や出品物であるネイティブが入り乱れて走ってくる。会場入り口付近に放火したので、狙い通り、関係者は火の手がない裏口から脱出するつもりのようだ。
母と妹は……いた!
「母さん! キャロル!」
「リュウ!?」「お兄ちゃん!?」
俺は二人に駆け寄る。
「どうしてここに……」
「話は後だ! ここから逃げよう!」
「でもそんなことしたらお兄ちゃんが……!」
「ばか! いいから来るんだよ!」
人混みに紛れて、二人と一緒に外に出て、一旦路地裏に身を隠す。関係者の多くは、少し離れたところから燃えるテントを見て立ち尽くしていた。
ここまではあっけなかった。いくら魔法や能力を身につけていても、咄嗟に使えなければ意味がない。見張りは、これといった訓練は受けていないようだった。
「このまま騒ぎが収まらないうちに貧民街へ帰ろう」
母はキャロルの肩を抱いて震えている。
「でもリボーンズに逆らったりしたらどうなるか……」
「そうだよ! お兄ちゃんだけでも——」
「しっ!」
「こっちに逃げていったはずだ。探せ!」
もう気づかれた。誰にも見られぬよう、細心の注意を払い、しつこいくらい尾行の有無を確認したのだが。
「……俺が出る。囮になるから、二人は隙をみて家の方へ逃げてくれ」
「おーい」
背後から声がかかった。オークションの司会者…….。四十半ばくらいだろうか。
「困るんだよねぇ。商品を勝手に持ち逃げされるのは。転売は禁止してるんだけど」
「俺の家族だ。断る必要はない」
後方では、複数の転生者が俺たちを探し回っている。このままでは、いずれ挟み撃ちにされる。
「どこに逃げたって無駄さ。このエリアから出ることはできないよ。マーキング済みなんだし」
マーキング……。目標を追跡できる類の魔法か。
「ったく……薄汚い裏切り者の末裔が……。芯根までネイティブ同然なんだな」
「ネイティブで結構」
俺は二人を背にし、司会者の動きを注視する。
「まったく、貧民街ではそんなことも教わらないのか……」
「なんのことだ?」
「先に仕掛けてきたのはネイティブのほうなんだよ。この街に文化と秩序をもたらし、国にまで発展させた最初の転生者。利用するだけ利用された彼は、力を恐れたネイティブによって迫害、幽閉された」
「……」「そんな……」
背後から沈黙と一言が聞こえる。
「だからネイティブは俺たちに蹂躙されても仕方ないんだよ。ふふ、エロゲー みたいで興奮するよなぁ。あ、エロゲー なんて知らないか、お前は」
「……俺にとってそんなことは重要じゃない。俺と、俺の家族を傷つけるやつは敵というだけのことだ」
「俺の司会でさぁ。客が盛り上がって入札額がどんどん増えるんだ。そして売られていくときの商品どもの表情……あぁ、転生して本当によかった……!」
くらえ。ガスバーナーと可燃性の催涙スプレーの火炎放射だ。
「!?」
「二人とも走って!」
突然の火炎攻撃。無能力者の子どもと侮ったか。俺は司会者を制圧しにかかる。催涙スプレーを噴射。しかし、そのとき突風が吹き、スプレーの霧は司会者に到達することなく、缶は俺の手の中で真っ二つに切断された。
「バーナーとスプレー……? マジか……? 超懐かしい! どこでそれを!?」
「リュウ!? あなた、一体……?」
風魔法の使い手。落ち着いている。戦闘に慣れているようだった。
「お前が作った……わけないよな? 魔法か能力か? ……だが残念だな。そんなもん、この世界じゃ何の役にも立たねえよ」
「母さん……俺は今から眠り粉を吸う。一旦俺が眠ったら、すぐに眠気覚ましで起こしてくれ」
「あなた何を言って……?」
「おら! 捕まえたぞ!」
「きゃあッ!」
「キャロル!」
男がキャロルの腕を掴んでいた。司会者に気を取られているうちに……!
「はは! 真っ二つになりな!」
「母さん頼んだよ!」




