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時よ止まれ、と彼女は願った

作者: 東稔 雨紗霧

https://ncode.syosetu.com/n2470le/の別視点のお話


※この話はバッドエンドです。


ああ、どうして!

何故そんな目で私を見るの?

背を短剣で刺されて地面に倒れている私を愛しい人はまるで憎い化け物を見るかのように見下ろす。



 「お前は僕のオリヴィアじゃない」

 「っ!」



 アーサー王子のその言葉に、ヒュッと喉が音を出した。

 彼は私に一切目を向ける事無くガリガリと地面に何かを書いていく。

 何をしているのか、何をするつもりなのかは分からないけれども、それが私にとって良くないモノだって事は分かる。

 必死に彼に声を掛けるがまるで意に介さず、作業の手を止める事は無い。


 (どうして?!ちゃんとイベントも熟したしフラグも回収したのに何でこうなってるの?!)


 ゲームに無い展開に動揺し、何とかこの場から逃げようと試みるが焦燥する心とは裏腹に体はピクリとも動かない。



✻✻✻


 目が覚めたら大好きな乙女ゲームの世界の悪役令嬢に憑依していたと気付いた私は破滅フラグを回避する為に頑張った。

 幸い原作が始まる15歳ではなく7歳の時点に憑依する事ができたからここから発生するフラグを折っていけば何とかなるかもしれない。

 そう考え、宰相の息子、王宮魔術師長の息子、騎士団長の息子と攻略キャラに接触して彼らのトラウマフラグを折っていく。

 両親の事故を防いだり、親と比べて才能が無いと落ち込んでいたのを慰めたり、誘拐されたのを助けたりとしていくうちに無事に彼らと仲良くなる事が出来た。

 婚約者であるアーサー王子のお母様病死イベントも無事に回収してフラグを立てるのにも成功している。

 本当は他の攻略キャラ達と同じ様にトラウマフラグを折る為に疫病の流行を事前に伝えて回避する事もできたけど、アーサー王子は心の壁が高く、この病死イベントを回収しないとまず攻略が出来ない最難関の相手となっているので仕方が無くこのフラグは立てたままにした。


 イベントを回収したのに思ったように態度の変化が無かったけれども、週一のお茶会は普通にしているしパートナーが必要なパーティーでは必ずアーサー王子がエスコートしてくれるから好感度は悪くないだろう。

 今日のお茶会でも王宮魔術師長の息子と新しく考案した魔術理論の話を優しい微笑みを浮かべながらうんうんと聞いてくれている。


(いやぁ、私アーサー王子が最推しだったんだよね!二次元からリアルになっても理想のままで私の好みドストライク過ぎて本当に最高過ぎる~!あー、本編ももう直ぐ始まるし、無事に破滅エンドを乗り越えて絶対にアーサー王子と結婚してみせる!待ってろよヒロイン、勝つのは私だ!!)


 そう意気込み、来る本編に備えて入念に準備を整えていたある日、王宮魔術師長の息子であるマーリンに相談があると呼び出された。



 「霊脈の流れが変なんだ」

 「変?」

 「ちょっとこれを見て欲しいんだけど」



 そう言って彼はこの国の地図を取り出し上を指でなぞっていく。



 「通常なら霊脈はこの流れをしているはずなんだ、けれども今は常から外れてこう流れている」

 「王都に集中する様になっているのね」

 「そう、しかもただ王都ではなく王宮に集まっている」

 「人為的な物なのかしら?」

 「それが微妙なんだよね、三ヶ月程前に地方で大きな地震があった事を覚えてる?」

 「ええ」

 「そこから少しずつ変化して今はこうなっているみたいなんだよね。元から王宮には霊脈の内の二本が流れていたし、これまでも地震や地殻変動で霊脈の位置が変わる事は分かっているんだけど、こうも一点に集中して霊脈が重なる事なんてこれまでに無かったからその点に違和感があるんだ」

 「違和感?」

 「静かすぎるんだよ。本来なら霊脈が流れる上では動植物や魔物等のあらゆる生命体が活性化されたり、魔術的な恩恵が現れるんだ。これだけの本数の霊脈が重なっているのであればその影響力は類を見ない規模に値する筈なのに変化する前と何ら変わりが無い」

 「それは確かに気になるわね」


 (記憶に無いけれども、本編に関係するイベントだったりするのかしら? 霊脈の謎なんてメインストーリーに関係しそうな美味しい単語だし、もしかしたら私が死んだ後に追加パックとかで増えたシナリオの可能性があるわね)


 「僕には王宮を隅々まで調べる権利が無いけど、王子の婚約者である君ならある程度の権限はあるだろう? 僕の代わりに王宮のどの位置に霊脈が集まっているのか調べてくれないかな?」

 「分かったわ。アーサー様に頼んで許可を貰うわね」



 マーリンの言葉にもしかしてアーサー王子との王宮探索イベントなのかもと思い至る。

 イベントを回収したのに思ったように態度の変化が無かったのはこのイベントが追加されたからで、このフラグを回収すればゲームの様に甘々なアーサー王子とのスチルが解放されるかもしれない。


 (破滅フラグを回避してアーサー王子の大大円ルートを開く為に頑張るわよ!)


 マーリンから霊脈の感知のやり方をレクチャーされながら心の中で気合の雄たけびを上げた。



✻✻✻


 「と言う訳で一緒に王宮内を探索致しませんか?」

 「それは構わないけれども……」



 丁度マーリンから話を持ち掛けられた次の日が毎週のお茶会日だったので彼からの依頼をアーサー王子に話して探索を持ち掛けるとあっさり快諾をしてくれたのに、何故か困った様な表情を彼は浮かべた。



 「どうかされましたか?」

 「僕が居ない所で僕以外の男と二人で仲良くしている様子を君から楽しそうに聞かされると嫉妬してしまうな……なんてね?」

 「まぁ……」



 推しからの嫉妬!

 急なデレの供給でにやけそうになる顔を両頬に手を当てて誤魔化す。


 (やっぱり病死イベントを回収した分好感度は上がっているのね!こんな感じでこれからもちょいちょいデレてくれるとか……回収しておいて良かった……!!)


 「探索については了承した、互いの日程を確認して空いている日に一緒に調べようか」

 「はい、ありがとうございます」

 「他には何か楽しい事はあったかい?」

 「えっと他にはですね、今週は騎士団長が遠征で不在ですのでランスロットと二人で稽古をしていたのですが」

 「ふむふむ」


 また嫉妬した顔を見れないかなぁと騎士団長の息子であるランスロットとの交友話をするけど、彼はいつも通り穏やかな表情で私の話を聞いてくれる。


 (まあ、毎回デレてたら貴重さが薄れるか)


 ここからは変に嫉妬させよう等とは考えずにいつも通りに今週あった事の雑談をするのだった。


✻✻✻

 『許可が取れたから明日、一緒に城を回ろう』


 そうお誘いの手紙が届き、早速王城へと向かう。

 アーサー王子付きの侍従から「アーサー様がお一人で庭園でお待ちです」と告げられて一人で向かっていると、大きな爆発音と共に城の一角から空が赤く見える程の火の手が上がっているのが見えた。


 「な、なに?!」


 火の手の位置から離れていても分かる事からかなりの大規模の爆発なのが分かる。

 状況は分からないけれども、一先ず避難をと考えてアーサー王子が庭園で待っているのを思い出す。

 (もしかしたら私が来ると思って彼は避難を躊躇っているかもしれないわ)

 そう思い至った私は淑女のあるべき姿も何もかも無視して庭園へと全力で走る。


「オリーヴ」


燃える庭園でこのアーサー様は嬉しそうに私に笑いかけた。

やっぱり彼は私を待っていた。


「アーサー様、ここは危険です!早く逃げましょう!」


彼の手を掴んで走り出そうとしたら逆に引っ張られ、抱き締められる。


「アーサー様!今は戯れる時では」

「僕はね、何年もずっとこの時を待っていたんだよ」

「え?」


 言葉の意味を聞き返そうとした時、背中を激痛が襲った。

 余りの痛みとその後に来た熱さに地面に倒れてから彼に刺されたのだと理解する。


「な、なにをっ誰か……!」

「お前は僕のオリヴィアじゃない」

「っ!」


 彼の言葉に助けを呼ぼうとした喉がヒュッと鳴った。


 (なんで?どうして?いつから気付いて?ずっと気付いてて私を殺したかったの?でも、ずっと優しかったし、態度も変わらなかったのに、なんで?なんで殺そうとするの?)


 頭の中がいくつもの「なんで?」で埋め尽くされる。

 アーサー王子は私を中心にして何かを地面にガリガリと書いていく。



 「ち、違うの!確かに私はオリヴィア本人じゃないけど、別に私が望んで彼女を乗っ取った訳じゃなくって気が付いたら私がオリヴィアに成り代わっていたの!多分、熱で寝込んでいる時にオリヴィアは死んじゃって、その代わりに私の魂が彼女に乗り移ったんだと思う!悪気が有って成り代わっていた訳じゃないのよ!!」



 必死でそう叫んで言い募るがアーサー王子は私を一瞥すらしない。

 何とか起き上がって逃げようとするけれども、ナイフに何か塗られていたのか体が上手く動かず地面を掻く事しか出来ない。

 それならばと魔法を使おうとしたのに上手く魔力が操れない。


 「だ、だれか、誰か助けて!!」


 (城のあちこちが燃えて爆発していたから、みんなそっちに意識が行っちゃってるのかも……!でも、王子とその婚約者が庭園に居る事を知っている人は居るんだから私達が避難していない事に気付いたら直ぐ探しに来てくれる筈!)


 そう心で奮起しながら諦めずに助けを呼ぶが、誰かが駆け付ける気配は無い。

 アーサー王子は作業が終わったのか何処からか取り出した古い魔術書を取り出してそれを見ながら呪文を唱えだすと地面からのっぺりとした黒い腕が這い出て来た。


 「ヒッ、なに?!止めて来ないで!!」


 黒い腕が足首を掴むとゾッとする程の怖気が魂を襲った。


 (コレは駄目だ!これは本当に駄目!に、逃げないとっ!振り払って逃げないと駄目だ!!!)


 手が触れているのは体なのに、魂なんて知覚した事も無いのに何故かハッキリと自分の魂が触れられているのだと分かる。

 彼が一節、また一節と呪文を唱えていく毎に地面から黒い腕が這い出ては纏わり付いてくる。

 動けない体、逃げ出せない恐怖、これから自分に待ち受けるであろう()()()()()()()()


 「~~~~~~~~!!」


 直ぐ近くで大きな音が聞こえると思ったら恐怖で叫んでいる自分の声だった。

 口元が覆われて叫び声がくぐもった物に変わると漸く少し静かになったと安堵する。

 既に心と体が恐怖で乖離し始めていた。

 呪文を唱え終わったのか、アーサー王子の声が止まる。

 私の全身は黒い手達で覆われ、最後に目だけが残っていた。

 それも今、這い出て来た手に覆われて直ぐに見えなくなるだろう。

 地面に倒れて黒い塊になった私を見つめて、アーサー王子は笑顔を浮かべた。

 今まで見た中で一番素敵な笑顔に一瞬、場違いにもこのまま時が止まれば良いのにと思った刹那、私の視界は黒く染まってそのまま、体も魂も何もかもが引き裂かれる様な壮絶な痛みに襲われた。



 あーあ、バッドエンドか。



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